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「大楠」目当てに寺社を巡る〈前編〉

チコさんからのLINEで
「近場で大楠おおくすめぐりしよ!」という提案があり、私は咄嗟になんとも微妙な反応をしてしまいました。

というのも、神社仏閣は好きでもその神の依り代である御神木、さらにはそのうちの「大楠おおくす」に興味を持ったことはなかったからです。

確かに立派な木だと見上げる事はあっても、それを目当てに寺社を訪れることはありませんでした。

「大楠めぐり」と言われて、初めてそういう視点で寺社を捉えるのも面白いのかもしれないと、新たな興味が湧いてきました。


古代の日本民族は、大きな木、岩、滝など巨大な自然創造物に神々が宿っていると信じ、其の自然創造物の前で祭祀を行い、感謝し祈りを捧げる神籬ひもろぎ磐境いわさか信仰を持っておりました。

熱海 來宮神社


古代は、お社も何もなく、ご神体の木、岩、山などに神が降臨していると信じ、その自然物を崇めていたわけです。

時代が進む中で、社殿や本堂、鳥居や門が建ち、寺社が形成されたのです。

御神木とは元々は「神道」に根付く信仰で、注連縄しめなわに白い紙の紙垂しでを垂らしたものを巻いて、神聖なものとして崇めていますが、注意深く見ると寺院でも同じように崇められている大木がみられます。

これもまた神仏習合の名残なのでしょうか。

本来なら仏教には見られない自然信仰が、日本の寺院にも存在する事は、とても魔訶不思議な現象です。
これこそが日本人の宗教に対しての姿勢であり、よく言えば「寛容」、悪く言えばただの「混同」なのです。

要するに、何でも拝んでたら良いという大らかな民族なのでしょう。


さて、この日は完全にチコさんプロデュースによる行程で、近場の神社仏閣を「大楠」を目当てに巡ってみました。

とにかく5カ所も回ったので、各寺社で様々な気付きもありましたが、今回は「大楠」をメインに記します。


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阿麻美許曾あまみこそ神社

真っすぐ伸びた巨木の楠が複数ある上、どれにも注連縄しめなわが巻いてあるので、いったいどれが御神木なのかわかりません。

これらは大阪市保存樹林に指定されていて、幹周は平均約6m、高さは25~30mでしょうか。
樹齢500年の楠木たちです。


独自の阿麻美造りと言われ本殿です。


1300年の歴史と渡来人

社伝では大同元年(806)の創建とありますが、それ以前の可能性もあり、いつの事なのか定かではないほど古いそうです。

名前の「許曽こそ」は祭祀や神社の森を指す新羅しらぎの言葉であるとされ、朝鮮からの渡来人、依羅よさみうじによる創健ではないかといわれています。

その祖先は、(朝鮮半島の)百済の国人で素禰志夜麻美君である

「新撰姓氏録」
出典:松原市

素禰志夜麻美君そねしやまみのきみの「夜麻美やまみ」が訛って「阿麻美あまみ」と変化し、現在に残る「天美」となったと推測されています。


複雑すぎる区割りの理由

実はこの神社、私は松原市に属するとずっと思っていたのですが、住所は大阪市東住吉区なのです。

初めて知ったのは、ほんの2年ほど前にテレビで採り上げられたのを見たときでした。

そう思い込むのも無理はなく、松原市にはこの神社由来の「天美」という地名があり、そもそも、その天美に住む人たちの氏神様だと思っていたからです。

大阪市と松原市の境界線を見ると、以下の通りとっても不自然で、神社とその参道まるごとが大阪市に組み込まれてしまっています。

どうしてか??

すぐ北を流れる大和川は今とは全く違う方向に流れていて、暴れ川だったので甚大な被害が出て住人たちを悩ませていました。

そこで1704年、付け替え工事でこの神社を含む大阪市側の「矢田」が住民もろとも大和川によって分断され、南側となった住民たちは松原市に移行しましたが、彼らの氏神様である「阿麻美許曾神社」を「矢田」側にしたからなのです。

それにしても、この特異な区割りは川と人々との戦いの結果だったのですね。



法楽寺

樹齢は800年、幹周8m、樹高26mのとても損傷のない健康な楠木です。
写真左奥に見える三重塔を見下ろすほど成長した楠木は威厳と貫禄が備わっていました。

800年前と言えば1200年ごろの鎌倉時代。
1192年に源頼朝が征夷大将軍となっていますから、世はまさしく、北条氏が執権として権威を振るった時代です。

そんな時からこの木は時代を見ていたのですね。


平家と源氏の霊を弔う

真言宗泉涌寺せんゆうじ派とありますので、京都東山の泉涌寺を本山とする宗派ですね。

1178年の創健で、源義朝の念持仏だった如意輪観世音菩薩にょいかんぜおんぼさつも安置され、なんと開基は平重盛だと伝わります。

重盛がわざわざ宋より禅師・仏照ぶっしょうを招き三千両もの大金を献上した事に仏照ぶっしょうは感激したと言います。

源氏ゆかりの仏様と、平家による開基というなんとも夢のような経緯を持つ寺院なのです。


住吉大社

「夫婦楠」
樹齢800年
幹周8m
樹高/20m
「千年楠」
樹齢1000年
幹周10m
樹高19m

ここにきて初めて千年超えの大木にめぐり逢いました!
しかしながら、ハッキリ言って「初辰まいり」の幟旗が邪魔!
いつもなのですが、ここ「すみよっさん住吉大社」では、もうしつこいぐらいの幟が掲げられています。

おかげで何度も訪れていながら、大楠に目を留めた事もありませんでした。

摂津国一宮で航海守護神

全国に600社以上ある住吉神社の総本社であり、
本殿4棟はともに国宝の上、独自の「住吉造」と言われ伊勢神宮の「大社造」と同じく神社建築における最古の様式との事です。

「すみよっさん」に関して真面目に書いていたら、それだけで5000文字は軽く超えてしまうので、また小出しにしてゆきます。

過去にも記事にしましたので、よろしかったらどうぞ。


ちょうどお昼となりましたので、すみよっさんの参道沿いにある喫茶店でランチしました。

「エビフライカレー」を食べたのですが、
例によって例のごとく、チコさんも私も食事にこだわりはないので、当然のように写真を撮っていません。

お腹を満たしたところで、午後の部は再開です。
肝心の大楠は、どんどん大きく立派になりますので、乞うご期待です!!


後半へつづく



【参考サイト】
ちょっと気になる!大阪発史跡旅
松原市「阿麻美許曽神社と渡来人」
いいとこ発見!南河内
巨樹と花のページ

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千世(ちせ)
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