紫黒色の空 / 村田は綴る✍🏻
色素の薄い人だったように思う。
身長は180cm程で仕事柄鍛えられた肉感ではあるがムキムキでは無い。
仕事は"任務遂行完了!"のような規律正しく男臭い雰囲気の様子。
その色素の薄い男と携帯電話で連絡を常時取り合い、一日の終わりに待ち合わせて逢う。
お互いの様子を気遣い、優しい気持ちに包まれる。
恋をしてるんだなと伝わってくる。______
紫黒色(しこくいろ)に淀んだ空の中、一つの木が鈍い光を放っている。
緑の葉は無い。
この暑い夏に枯木の様に細い茶色の枝が何本も長く空に向かって伸びている。
周りの見ず知らずの人達と空を見上げ訝しむ。
その中に知った男が現れる。昔、好意を寄せたが失望し縁遠くなった男。どういうわけか親切に話しかけてくる。
私はこの男の、気まぐれに優しいところにうっかり騙される。
なんだろう。胸騒ぎがする。________
赤ちゃんが生まれた。私の子だ。
ころころ、ぷっくりお饅頭の様な可愛い子。
女の子か男の子かわからない。
色素の薄い男との子のよう。
幸せそう。__________
色素の薄い男と連絡が取れない。
腕の中に赤ん坊もない。
探して探して、ようやく芋虫の様なまぁるいお尻ではいはいしている子を見つけ向かい合わせに抱きかかえる。
ああ、私の子だわ。愛らしい。
どこへ行ってたの?と顔を覗き込み
もう離してはいけないと強く抱き締める。
___白と黄色のもやの様な光で目の前を覆われる。____
私は一人ふらふらと一軒の木造の戸を開ける。
初老の男が
色素の薄い男の事を「居たかい?見つかったかい?」
と私に聞くが、
私は何の事かさっぱりわからない。
誰の話かわからない。
それより「私の子は?赤ちゃんは?」と聞く。
返答は無い。
____どうやらまた子が居ない。____
街に出る。
ゴミや油で黒くなった水を大勢の男達がかき集めている。
辺りは暗く、黒い水の中を青ざめた表情の女達がうろうろしている。
黒い水の中に白い丸いものが浮いて漂っている。
何か大切なものの様な胸騒ぎに私はそれに近づく。
周りの女達も近づく。
一番に近づいた女がそれを見て奇声の様な泣き声を上げる。
私もまさかと自分の心臓のドクドクと鳴る音を感じながらそれを目を凝らし見た。
顔だけ浮いているように見えた赤ん坊のお面だった。
それは、誰の子でも、私の子でも無かった。____
喪失感で目覚めた。
目覚まし時計は1時間前に鳴っていた。
あの人はあの子はどこへ行ったのだろう。
1時間寝坊と言う現実に目覚めたにもかかわらず、
私は一日、この喪失感の中を生きる。
夢の事を考えると、その喪失感を思い出し涙が目頭に溜まる。
あの人とあの子にはもう二度と逢えない。
🌝声、発声、機能を考える
ボイス・ボーカルレッスン/東京都
音楽療法(医療行為は行わない)の観点からオーラルフレイル、口腔機能、老化防止を意識した呼吸法、発声のレッスンも行います。