映画「ミセス・ハリス、パリへ行く」感想
一言で、ドレスに魅せられたミセス・ハリスがパリで奇跡を起こすサクセスコメディーです。脚本はシンプルですが、いくつになっても夢をあきらめず、人生を輝かせていく姿は、まるでディズニープリンセスのようでした。
評価「A」
※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。
本作は、『スキン』や『ラウダー・ザン・ワーズ』などを手掛けたアンソニー・ファビアン監督によるブリティッシュ・フレンチコメディーです。
原作小説は、作家ポール・ギャリコ著の『ハリスおばさんシリーズ』で、面倒見のよい掃除婦のハリスおばさんが、パリ、ニューヨーク、モスクワ、果ては国会にまで旋風を巻き起こします。
尚、本作は、その第一作目となる『ハリスおばさんパリへ行く』が原案となっています。ドレスに恋をしたことで新しい出会いを引き寄せ、人生を輝かせていくハリスの姿が、あたたかな感動を呼んでいます。
また、ドレスやファッションがテーマということもあり、世界的ブランド「クリスチャン ディオール」の全面協力がなされています。
全米では夏に公開され、競合大作がひしめく中、2週連続トップ10にランクインし、全米映画評論サイトRotten Tomatoesでは公開後1か月を過ぎても評論家、観客ともに90%以上の支持を得ています。
日本でもミニシアター系劇場中心の上映ではあるものの、内容の面白さから口コミで高評価が広がり、興行収入がじわじわと上がっています。(公式サイトより引用。)
・主なあらすじ
時は1950年代、主人公は、ロンドン在住の家政婦ミセス・ハリス。彼女は先の第二次世界大戦で未亡人となります。暫くは悲しみに暮れますが、親友らに励まされ、ただ悲しむだけではなく、「人生の楽しみ」を見つけようと、気丈に振る舞います。
その後、ひょんなことから、「クリスチャン ディオールのドレス」に魅せられたハリスは、「自分のドレス」を手に入れようと単身パリへ行くことを計画します。しかし、それには費用や言語の壁、身分階級など、彼女の前に立ちはだかる「課題」が沢山ありました。
それでも、彼女の「いくつになっても夢をあきらめない」姿は、やがて周囲の人たちの目に留まり…
・主な登場人物
・ミセス・ハリス(演- レスリー・マンヴィル)
本作の主人公で、職業は家政婦。先の大戦で夫エディと死別するも、ある日、クリスチャン ディオールのドレスに魅せられ、自分のドレスを手に入れようと計画します。単刀直入な性格で、自分らしさを貫く、芯の強さを持っています。
・マダム・コルベール(演- イザベル・ユペール) クリスチャン ディオールで働くマネージャー。保守的な性格で、庶民ハリスを見下します。
・ヴァイ・パターフィールド(演- エレン・トーマス)
ハリスの家政婦仲間で親友。お互いのすべてを知り尽くしており、ハリスと同じく、ストレートな性格で、似た者同士です。
・アーチー(演- ジェイソン・アイザックス)
ハリスの友人。パブで出会い、親しくなります。夫を亡くしたハリスを案じますが、彼女の夢を知り、そっと応援します。ハリスに、軍人会でダンスしようと誘います。
・シャサーニュ侯爵(演- ランベール・ウィルソン)
クリスチャン ディオールの招待客。紳士的な性格で、追い出されそうになったハリスに手を差し伸べます。実は男やもめ。
・ナターシャ(演- アルバ・バチスタ)
クリスチャン ディオールのトップモデル。美人で知的、真面目な性格ですが、それ故に、今後の自分について悩んでいます。
・アンドレ・フォーベル(演- リュカ・ブラヴォー)
クリスチャン ディオールの会計士。メガネが特徴的な若い男性で、内向的ですが、親切な性格です。
・パメラ・ペンローズ(演- ローズ・ウィリアムズ)
ハリスの「勤務先」の一人。美人ですがとにかくガサツで、女優志望ですがだらしなく、オーディションに落ちまくっています。
1. お人好しな、どこかお節介なハリスがとても魅力的!
ミセス・ハリスは、家政婦さんであり、ある意味何でも屋さんです。顧客に頼まれればすぐに駆けつけてどんな小さな仕事でもサッとこなし、どうしたら皆が気持ちよく過ごせるか考える、利他精神に溢れた女性です。
一方で、お人好しで、どこかお節介な性格でもあります。基本はしっかり者で皆からの信頼は厚いのですが、どこか天然で抜けている、でも何だか憎めない人でした。
物語序盤、ハリスのもとに軍からの手紙が届きますが、彼女は開封を躊躇します。夫の帰りを待ち続けたい気持ちと、事実を「認めたくない」気持ちがせめぎ合うせいで、開けるか開けないかをヴァイと問答しました。
それでも、手紙を開封できず、橋の上でコイントスして、夫の生死を占おうとしたら、コインが橋の川に落下しました。(橋の欄干でコイントスしたら、そりゃ落ちますよ。)
結局、夫は亡くなっており、彼女は戦争未亡人になりました。暫くは悲しみに暮れるも、ヴァイやアーチーらに励まされ、ただ悲しむだけではなく、「人生の楽しみ」を見つけようと、気持ちを切り替え、仕事に打ち込みます。
ある日、雇い主が持っていたクリスチャンディオールのドレスに惹かれ、運命を感じます。しかも、そのドレスはオートクチュールで、世界に一つしかないオーダーメイドもの。ハリスはそれに釘付けになり、ウットリとします。
何とかしてドレスを手に入れたい、そう考えたハリスは、とにかくお金を稼ぎます。懸賞金から小遣いまで、ありとあらゆる所から小金を集め、コツコツと貯めていきます。しかし、目標金額の500ポンドまで「後少し」というときに…?
彼女の「短所」を敢えて挙げるとすれば、自分の夢には一直線故に、人の話を聞かずに先走っていた所ですね。それ故に「損」をするけど、それでもどこか人を引き付ける魅力があるのでしょう。
物語後半のディオール社のドタバタシーンで、ハリスがやや出しゃばりすぎる点は無いわけじゃないですが、そこまで不快にもなりませんでした。
2. ユーモアやギャグが溢れたヨーロピアンテイストムービーである。
本作は、ユーモアやギャグが溢れたブリティッシュ・フレンチコメディーでした。
皮肉やジョークを多用したヨーロピアンコメディーであり、全体的にクスッとした笑いポイントが散りばめられています。所謂、大喜利チックなアメリカンコメディーとは違いますね。
物語はサクサク進んでいくので、展開に多少の突っ込み所はありましたが、それも含めて面白く見られます。
この辺は、『家政婦は見た』などの家政婦をモデルにした話を思い浮かべる人が多いでしょう。
また、ハリスが行く先々で知恵と工夫を凝らし、「奇跡」を起こしていく姿は、『メリー・ポピンズ』・『わらしべ長者』・『長靴をはいた猫』・『アリーテ姫の冒険』などを彷彿とさせます。
前述より、彼女はコツコツと貯金し、目標金額の500ポンドまで後少しという所まで行くのですが、なんと彼女は「ドッグレース」で運試ししてしまいます。ここが「運のツキ」でした。
ドッグレース場にて
ハリス「あ、あの犬の名前が『オートクチュール』だから、あの子に賭ける!」
ドッグレース券の販売者「あの犬は体調不良なので、賭けるだけムダです。占いやお告げに頼って、賭けが上手く行った試しはありません!」
ハリス「これは運命なの!絶対あの犬が勝つわ!」
結局、「オートクチュール」は途中までは。ぶっちぎりで走るものの、ゴール前で急停止してビリに。結果、500ポンドは大損となりました。やっぱり人間欲を出すとダメですね。※ちなみに、1950年代の500ポンドは、現在の「250-400万円」に相当します…
しかし、ひょんなことから、ドッグレースにてそのお金は「返金」されます。この辺のお金に対する価値観は日本とは大分違いますね。ちょっと苦笑しました…
その後、軍から遺族年金の支給通知がありました。最初からそれを待てば良かったのかもしれませんが、自分でコツコツお金を貯めることって、地味な作業だけど、大事ですね。年金は少なくとも、人の払った税金なので。
ちなみに、ドッグレースは競馬みたいでした。今では、動物愛護の観点から廃止の方向に行くようですが。
後は、ナターシャとアンドレとの会話にて、サルトルの本の話になったとき、ハリスが「それってミステリー小説ですか?」と質問したのは笑いました。※サルトルは、フランスの哲学者・小説家で、「実存主義」を説いています。
本作にしかり、『ダウントン・アビー』にしかり、ユーモアやジョークを面白く、でも不快にさせないレベルに持っていくには、相当の脚本力とセンスが必要だとわかります。
3. 「ディズニー映画」らしさが溢れている。
本作でハリスがドレスに憧れる姿は、まるでプリンセスに憧れる少女のようでした。本当に、ディズニープリンセスみたいで、ある意味魔法のないディズニー映画でした。
女性はいつでも可愛い服が着たいし、注目されたいプリンセス願望はあるのかもしれません。でも、ハリスはそれに浮かれたり驕ったりしないで、淡々とでも着実に自分の道を歩きます。やはり、何歳になっても夢を持つのって楽しいし、しかもそれを諦めずに実現しようとする行動力が凄いと思いました。
最初は、庶民故にクリスチャンディオールへの入場を拒否されたハリス、でもシャサーニュ侯爵の力添えで、ドレスの販売会に参加できることに。
ファッションショーで、ハリスはワインレッドのドレス「テンプテーション(誘惑)」を1番に気に入るも、それは「とある理由」から手に入らず。その代わりに、2番目のお気に入りになった緑のドレス「ヴィーナス」を申し込むことに。
個人的には、「テンプテーション(誘惑)」は『アバローのプリンセス』のエレナ、「ヴィーナス」はアリエルやジャスミンやティアナみたいで、他のドレスも、どのプリンセスなら似合うかな〜なんて考えていました。
他にも『101匹わんちゃん』や実写版『クルエラ』のクルエラ・ド・ヴィルのようなファッションに執着するわかりやすいヒール役がいました。衣装協力にも、『クルエラ』のスタッフがいたのは納得でした。
4. 本作は、クリスチャン・ディオールの新規開拓物語でもある。
本作では、クリスチャン ディオールの全面協力により、当時のデザインを再現したメゾンでのファッション・ショーが出来る限り再現されていました。
まず、ファッションショーでモデル達が着たドレスには様々な名前がついており、バルパライソやカラカス、アイルランド、スウェーデン、プエルトリコなどの地名がついているものもあり、それぞれその地域の「特徴」を表したデザインになっていました。
また、ハリスが運命を感じた花のビーズとスパンコール刺繍が施されたピンク色のドレスは「ラヴィサント」と言う名前で、フランス語で「うっとりするほど美しい」の意味で、正にハリスの行動を裏付けるものとなっていました。
そして、ファッションショーのモデル達は、多国籍で白人系だけでなく、黒人系もアジア系もいました。ここは今時のポリコレっぽいですが、そこまで気になりませんでした。
ちなみに、本作で多用される「オートクチュール」という言葉は、フランス語で「高級洋装店」・「専属デザイナー」による特別仕立服のことを指します。つまり、全てオーダーメイドで、体の寸法を始め、何から何までその人専用に作られます。だから、世界に一つとして同じドレスはないです。
特にパリではフランス・オートクチュール・プレタポルテ連合協会に属する店の手掛けたものを指し、1950年代には貴族や上流階級の顧客によって最盛期を迎えました。
だから、最初にクリスチャン ディオールに着たハリスにコルベールは驚きました。「貴女、現金で買いに来たんですか?そんな客は今までにいませんよ。」と。
しかし、クリスチャン ディオールは時代の需要の変化により、経営方針を大きく変えていくことになります。上級国民だけでなく、庶民にも売れるものを…そこで、オートクチュールのドレスだけでなく、香水やグッズの販売にも乗り出します。本作では、その「きっかけ」として、ハリスが「物申す」存在になります。(ここは「史実」ではなく、飽くまでも「創作」ですが。)
そういえば、ファッションブランドをテーマとした映画としては、ある意味、グッチの「あの映画」を思い出しましたが、あれとは見事に「真逆」ですね(笑)勿論、あちらの映画も完成度は高いと思いますが。
5. キスとハグとワインとナンパはご挨拶。
本作では、色んなタイミングでキスとハグとワインとナンパが挨拶代わりに描写されていました。これらは流石おフランスですね。あまりにもナチュラルすぎるので、日本人視点ではかなり驚く人も多いでしょう。
ちなみに、ハリスがパリの駅で出会った乞食のおじさん達、とても良い味を出していました。※実際、女性が駅で一人で寝てたら危ないですけどね。
6. とにかく犬が可愛い!
本作、とにかく犬が沢山登場します。グレイハウンドやウィペット、グレートデーンなどは、ヨーロッパらしいですね。どの犬もとても可愛かったです。
7. パリの街がとにかく汚いのは残念…
本作、とても面白くて私は好きなんですが、敢えて「残念な所」を挙げるなら、パリの街の汚さです。
遠くからの景観は良いのに、足元を見ると、道端のゴミが本当に多くて、そこは本当に残念でした。
ここは、遠くからはきらびやかに見えるディオールの世界と、近くの貧困・汚さが敢えて対比されていたようにも思います。現に、町中ではそこら中でストライキが起きていたし。
8. 一度はなくなった夢、でもその「行い」は返ってくるよ。
紆余曲折を経て、ハリスのドレス「ヴィーナス」は完成し、家に届きました。しかし、自分が袖を通す前に、彼女はパメラに貸してしまうのです。ここは、もう嫌な予感しかなかった…
パメラは女優の仕事を取る「枕営業?」のために、「ヴィーナス」を着てパーティー会場に出向きます。しかし、暖炉でドレスを焦がしてしまうのでした!
しかも、前が全部焦げていてドレスを前で押さえている所をパパラッチに撮られてしまい、ゴシップ記事として広く出回ってしまいます。
その写真を見たハリスは愕然とし、返されたドレスを橋から川に流してしまいます。今まで気丈に振る舞ってきたハリスですが、この時ばかりは、せっかくの努力が水の泡だと落ち込みます。
しかし何と、その記事がフランスにまで出回っており、その様子を知ったコルベールやシャサーニュ侯爵は、何とかしてハリスを助けようと手を差し伸べます…色々とゴタゴタがあった後、彼女の元に届いたのは何と「テンプテーション(誘惑)」のドレスでした。
一度はなくなった夢、でも回り回ってその「行い」は返ってきたのです。
9. 一場所での恋愛、そこでの出会いが彼らを前に向かわせた。
本作では、ドレスをきっかけに、シャサーニュ侯爵とハリスは交流を持ちます。花をプレゼントされたり、邸宅にて侯爵の話を聴いたり…でも、彼の「ある思い出」を聴いたとき、ハリスは邸宅を去り、二度とそこへは戻りませんでした。
ここで、二人がくっつく展開にならないのは良かったですね。勿論、遺族年金故ではないです。一場所での恋愛、それは「交差する」ものだったかもしれないけれど、確実に彼らを前に向かわせたのです。
ちなみに、身分違いの二人が出会って一時を過ごし、時が来たら別れるのは『ローマの休日』っぽさがありました。改めて、本当に、『ローマの休日』って、色んな作品にオマージュされていますね。
10. 軍人会のパーティーはとにかく派手!
最後、ハリスは「テンプテーション(誘惑)」を着て、軍人会のパーティーに出席します。階段から降りてくるハリスは、正に「本物のプリンセス」でした。見た目が綺麗なだけではない、心も美しい女性でした。
本作における家政婦は、「見えないところで仕事するのが当たり前」という認識でした。だから彼女は実質「透明人間」扱いだったのです。しかし、ドレスと出会ったことで、人生に色がつき、「実体を取り戻した」のです。
彼女は、ドレスを通して、自分の人生を今よりも豊かにしたいと願っていましたが、巡り巡ってドレスだけではなく、色んな大事なものに気づいたのでしょうね。
それにしても、軍人会のパーティーは、単に社交の場としてだけではなく、慰労会や追悼会の意味もあると思いますが、とにかく派手ですね。ここは日本とは全く違いました。
出典:
・映画「ミセス・ハリス、パリへ行く」公式サイト
https://www.universalpictures.jp/micro/mrsharris
※ヘッダーはこちらから引用。
・映画「ミセス・ハリス、パリへ行く」公式パンフレット
・映画「ミセス・ハリス、パリへ行く」Wikipediaページ(英語版)https://en.m.wikipedia.org/wiki/Mrs._Harris_Goes_to_Paris
・ポール・ギャリコ Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%AE%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%B3
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