焼き芋が食べたくて、焚き火する。
焼き芋を食べたくなったので、キャンプ場に向かった。薪も十分にある。針葉樹も広葉樹もばっちり揃えた。
午前中は太陽が顔をのぞかせていたのでポカポカと気持ちよかったけれど、それでも気温は10度を下回っていて、本格的な冬の匂い。
紅葉はすっかり過ぎ、足元には落ち葉の絨毯が広がっている。上を歩くたび、かしゃかしゃと心地よい音がする。
焚き火台を広げる。買ってきた薪を斧で半分に割る。薪には「カシ」と書いてある。
針葉樹の場合、半分の半分になったら斧をナイフに持ち替える。手頃な薪で、ナイフの背をトントントンと叩き、バトニングする。
バトニングを覚えた頃、楽しくて夢中になって割ってた。楽しすぎて、台所に立った時、思わずかぼちゃをニンジンでバトニングしたくらいだ
細い薪をたくさん集める。枯れ葉も集める。麻紐を30cmほど切り、ねじねじと縒り合った紐をそれぞれ解いて、ふわふわとした鳥の巣みたいな状態にする。
焚き火台に細くなった薪を交互に置き、最後にふわふわのお手製鳥の巣を置く。
ファイヤースターターという火打ち石みたいなのを、ナイフの背でこする。こするというより、抉りこむようにして、摩擦を起こす。
ばちっ、ばちっと火花が散る。うまい具合に鳥の巣に火花を着地させたら、一気に着火。炎がぼわあっと燃え上がるので、急いで枯れ葉を被せる。息を吹き込み、火が起こせたら、ひたすら薪を足していく。
さっきまで冷え切っていた空気が、一瞬で暖かくなる。ぱちぱちっと薪の弾ける音。めらめらと燃える炎。遠くで鳥が鳴いている。
しばらくぼーっと火に当たり、体が温まってきたところで焼き芋だ。火も十分落ち着き、熾火になっている。
昼の焚き火もいいけど、夜の焚き火は格別だと思う。特に熾火の美しさなんて、時間も忘れて見惚れてしまう。熾火の燃える赤を、ルビーの中に閉じ込めてみたい。
紅はるかを用意した。しっとりとした食感と、とびきりの甘さが自慢らしい。紅はるか、名前もかわいい。「紅」が強めなのに「はるか」は少し、か弱い感じ。
紅はるかを濡らし、キッチンペーパーに包む。さらにアルミホイルで包み、しっかりとねじって閉じる。
熾火になった炭の隣に置く。遠火でじっくり火を通すと、水分たっぷりのホクホク焼き芋になるそうだ。
昔はよく、冬休みにはおばあちゃん家で焼き芋を食べた。落ち葉を集めてじっくり焼いたような気もするし、その辺で買ってきたのを温め直しただけのような気もする。
いや、たぶん、落ち葉だな。だっておばあちゃん家の畑にはたくさんのサツマイモが実っていたし、私は小さい頃、熊手の扱いが難しくて泣きべそをかいていたような気もする。落ち葉を集めるのは、簡単そうで難しいのだ。
記憶は曖昧だけれど、焼き芋はいつだってホクホクでホカホカでおいしかった。ああまた食べたいな。おばあちゃん家で、みんなで焼き芋、食べたいな。
焚き火台に突っ込んだアルミホイルの塊は、少しだけ灰をかぶっている。今年は雪、降るんだろうか。寒いのは好きだけど、同時に嫌いだ。でもやっぱり、好きだ。
アルミホイルの包みを開くと、湯気がたちのぼる。あちち、と手を引っ込めながら、たどたどしく芋を割る。真ん中からほくっと割れた紅はるかは、満月のように、つややかに黄色く光っている。
ふうふうして口に運ぶ。ホクホクだ。でもしっとりで、驚くほどなめらか。おいしいな、何個でもいけちゃいそう。
空はすっかり曇っている。夜には雨が降るそうだ。
焚き火を見つめて、焼き芋をほおばるだけの時間。たまにはいいかもなあ、なんて思いつつ、最後のひとくちを頬張った。