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別れ
お別れをした。そこそこ長い関係だった。
世界で一番大切に思っていた。愛していた。
愛するがゆえに、彼を好きでいれなかった。
わたしのそれは愛であった。確かな愛だったと言える。
愛と恋は違うと思う。
「好き」という気持ちより「大切」という思いが強くなっていく。
また、それに合わせて許容できる範囲も移りゆくと思う。
愛すれば愛するほど、彼にもっと良い人間であってほしいと願った。
そして、言葉のひとつひとつを捕まえるようになった。
「好きだ」と思っていた時には何も思わなかったことが目につくようになる。
わたしはそうやって感情が移り変わる。
わたしは思いやりを重んじるタイプだった。
彼は感情の起伏があまりない人だった。そして、口下手であった。
大切にされているかどうかは、概ね言葉で表されると思う。
口下手というのはこの点ではだいぶ不利だ。
やはり2人の間にはコミュニケーションの齟齬が多かった。
ちいさな軋轢が重なっていくのが、手に取るようにわかった。
大切に思う気持ちに変わりはないのに、気持ちはすれ違う。
自分の手ではどうしようもないことが、とてももどかしかった。
お互いに激昂することがなかったから、すごく静かだったのを覚えている。
わたしから別れを切り出した。
それなのに、なぜかわたしだけが泣いていた。
粛々と進む別れ話。最後まで静かなふたりだった。
彼は最後まで優しかった。
体を壊しやすいわたしを心配してくれた。
未練がましいことを書いているように思うが、未練はない。
彼を大切に思い、一緒に過ごした時間は宝物のようだったと思う。
綺麗な思い出は綺麗なまま仕舞っておくのがいいと、わたしは知っている。
一番上等で一番大切な箱に仕舞い、鍵を閉める。
お互いのこれからに、大きな希望を持って。