【読書感想文】あのころ読みたかった最高の児童書『デルトラ・クエストⅠ 沈黙の森』で7つの宝石を集める旅に出る!
どうも、社会人になっても少年の心を持ち続けたい遅読です!
突然ですがみなさん、宝石は好きですか?
私はその昔、ディアゴスティーニのトレジャー・ストーンを買い集めていたくらいの宝石好きです!(思いきり年齢がバレる)
カットされて光り輝いている宝石はもちろん、磨かれていない原石もまた美しいですよね。
小学生くらいのころは、きっとふしぎな魔力があると信じて、いろんなパワーストーンを集めていたものです。
そんな幼少のころから宝石好きだったわたくし、かつて読みたい本がありました。
それは、『デルトラ・クエスト』!!
というのも当時、友だちの家に遊びに行ったとき見かけた、キラキラした表紙の本が気になって仕方がありませんでした。
ですが、さすがによそのお宅にお邪魔している身で、お友だちを放って読書にふけるわけにもいかず……気になってはいたのですが、記憶から追いやっていたのです。
そして、タイトルも覚えていない本のことは、記憶の片隅にひっそりと残るのみでした。
しかし……。
読書垢を作るにあたって、せっかくなら図書館のカードを作るかと思いいたったのは年末のこと。
ついに私は、あのころ読みたかったキラキラしい表紙を見つけたのです!
それが『デルトラ・クエスト』でした。
そういえば、なんとなく『ドラゴンクエスト』みたいなタイトルだなぁ、と当時ぼんやりと考えたことを思い出しました。
それにしても、この表紙の美しいことといったら!
調べたら文庫本版も出ているらしいのですが、やはり単行本版の宝石のように美しい表紙がいいですよネ。
そろえて本棚に並べたらめちゃくちゃ気持ちいいんだろうなぁ。
ダンジョンからお宝を持ち帰った冒険者の気分に浸れそう。
※文庫版はこちら↓
というわけで、縁起もよさそうなので、新年一発目の読書はこの本に決めたのでした。
本日は、そんな『デルトラ・クエスト』の第一巻、『沈黙の森』の感想を述べていきたいと思います!
それでは、あらすじをどうぞ。
『デルトラ・クエストⅠ 沈黙の森』
例によって前半はネタバレなし、後半はネタバレありでいきたいと思います。
ネタバレなし感想
この本は簡潔に言えば、RPGを真面目に小説にしたらどうなるかといったお話です。
魔王に支配された世界で、現状を打破すべく伝説のアイテムを求め、仲間とともに少年は旅立つ。
王道も王道のファンタジー小説ですが、ゲームとの大きな相違点を挙げるとすれば、主人公たちは魔法のような便利なものは使えないし、敵は巨大な組織のため、正面突破はできないということです。
断っておきますが、この世界には魔法や魔力というもの自体は存在します。
しかしそれは一部の人間しか使えないし、なんでもできる便利な道具ではないのです。
だからこそ、この国に伝わる『七つの宝石の魔力』を影の大王(魔王)は恐れているし、奸計をもって排除しようとするわけです。
主人公たちも、ゲームのように剣や魔法でバンバン戦うわけではありません。
基本はステルス戦法です。
できるかぎり隠密行動し、知恵と勇気で困難を乗りこえるのです。
表紙や内容から、ゲームみたいで子供向けな小説……とお思いのそこのアナタ!
この本は、そんな薄っぺらい作品じゃないですよ……!
このRPGゲームのようなお話の中で、意識しないうちにいろんな教訓を教えられているのです。
与えられるものをただ享受するだけでなく、自分の頭で考えること。
遠くから眺めるばかりでは、本当の姿は見えてこないこと。
相手の立場を想像せず、自分の価値観だけで否定することは傲慢であること。
ほかにもたくさんの教訓が盛りこまれています。
これらが自然な形で散りばめられているのがいいですね。
説教くさくないので、気づけばスッと胸の中へ染みこんでいるのです。
現実の我々は、そう簡単に冒険の旅に出ることはできません。
しかし、この本を通して冒険を擬似体験することで、知恵と勇気、そして大切なものを教わるわけです。
こんな体験、子どものころにしたかった――!
断っておきますが、この本はおとなが読むにも耐えうる内容です。
ですが、それでも!
やはり小学生くらいのころに読んでいたら、もっと得られるものが多かったんだろうなぁ、と感傷に浸ってしまいました。
全国のお父さま・お母さま。
もしも子どもがこの本を「ほしい!」と持ってきたら、「ゲームの攻略本みたい」とか「それより、もっとこっちのほうが……」なんて否定せず、お子さまの気持ちを大切にしてあげてください。
表紙こそキラキラした本ですが、中身はほぼ文章ばかりで、テーマもしっかりしています。
物語冒頭なんて、いかにして影の大王がデルトラ王国を乗っ取るにいたるか、平易な言葉と表現ではありますが、なんと国の腐敗や汚職をきちんと描いています。
このお話から大切な教訓を得られれば、将来は国の政治のあり方に頭を巡らせ、自分の頭で考えて投票に行けるようなおとなになること間違いなしです! ……多分。
それに、翻訳も素晴らしいです。
子どもでも読みやすい文章でありながら、
「王がお隠れになった」
とか、
「金色の衣をお召しになっていた」
とか、決して子どもを舐めた言い回しは使いません。
もし子どもたちが初めて知る言葉づかいでも、前後の文章から想像しうるギリギリのラインを狙って翻訳しています。
これ、本当にすごい。
つまり、この本を通じて、子どもたちはそういった敬語や、社会に出たら必要となる言い回しを覚えることができるのです。
いやー、この本、教材としても素晴らしいですよ。
キラキラした表紙に騙されてはいけません!
それに、ひょっとしたら、本を読むことに苦手意識のあるお子さまも、この本だけは手に取って、部屋に飾りたいと思ってくれるかも。
そのまま飾り続けるか、気になって中身も読んでくれるかは、その子次第ですが……。
そんなときは親御さんからも、さり気なく誘導してみてください。
「その本、面白そうだね」「どんなお話?」
なんて、どうでしょう?
以下、ネタバレあり感想です。
では、ここからはネタバレを気にせず、ガンガン語っていっちゃいます。
まだ『デルトラ・クエスト』を読んだことがないという人は、ぜひ本書を読んでからきてくださいね。
さて、物語は王さまが原因不明の熱病にて崩御し、まだ若いエンドン王子が即位するところから始まります。
主人公のジャードは、エンドン王子の幼なじみ。
この国には厳しいおきてがたくさんあって、王族にはおいそれと近づけないし、友人らしい友人もいません。
そんな中、ジャードの存在は例外中の例外といえます。
彼のおかげで王子はイタズラを覚え、庭をかけ回り、秘密基地をつくって、暗号のやり取りをしてみるのでした。
おそらくエンドン王子は、歴代の王の中でも唯一、子どもらしい子ども時代を知り、心を許せる友がいる王だったのでしょう。
しかしそれは、この国に巣食う悪意にとって、ジャードが非常に都合の悪い存在だということの裏返しでもあったのです。
ところで、ネタバレなし感想のところで私は『この本は簡潔に言えば、RPGを真面目に小説にしたらどうなるかといったお話』だと言いましたね。
物語の舞台・デルトラ王国には、代々伝わる伝説のアイテム『デルトラのベルト』があります。
ベルトには七つの宝石がはめこまれ、それぞれにデルトラ王国をまもる特別な魔力がこめられているのです。
このベルトが王国を守るかぎり、魔王である『影の大王』は手出しできません。
じゃあどうしようかというと、なんと間者を送りこみ、内側から腐らせていこうとするんですね。
本当に児童書の発想かコレ??
この時点で、本書が子どもを舐めていない、本気の作品だということが伝わってきます。
その手腕はどんなものかというと、平和が続き、かつて魔王を撃退した勇者でもある初代国王のひ孫のあたりから、少しずつそそのかしたのです。
ひ孫ともなれば、生まれたころから平和で、戦争を知らない世代です。
いよいよ平和ボケしてきた頃合いでしょう。
現に勇者のひ孫エルステッド王は、年をかさね、せり出す腹に食いこむベルトが苦痛になってきました。
そこですかさず、魔王に送りこまれた間者が言うのです。
「じゃあ、儀式のときだけベルトをつけたらどうです?」
そ……想像以上に理由がくだらねェ〜!!
と思ったのですが、きっかけなんてそんなものなのかもしれません。
〈デルトラのベルト〉を使えるのは勇者の末裔だけなので、もし魔王との戦争になったら先陣切って戦わなきゃいけないワケです。
そんな王が、立場を忘れてぶくぶく太ってんじゃないよ!
……と思わないでもないのですが、平和ボケした現代人の私が言ったところで、説得力はないかもしれない。
人間には『正常性バイアス』という、自分だけは大丈夫だろうという根拠のない自信が働くのだそうで。
そのうちに、使命より贅沢におぼれてしまったのでしょうね。
よく『初代が創り、二代目で傾き、三代目が潰す』だとか、『売り家と唐様からようで書く三代目』だとか言いますけれど、潰すのが国ともなればシャレになりません。
余談ですが、アメリカでは、
『三代経つと手元にはシャツ一枚』(創業者はシャツ一枚の財産から財を為すが、三代目にはまた元に戻ってしまう)
中国では、
『三代目は先祖の田んぼに戻って野良仕事』(田舎から身を起こして成功しても、三代目にはまた元の田舎に戻らざるを得ない)
ということわざがあり、三代で潰れるというのは世界共通認識のようです(まあデルトラの場合、ひ孫だから四代だけど)。
まさに平和ボケの最たる国である日本に生まれた我々にとっても、身につまされる話です。
そんな日本が大好きだからこそ、デルトラのように堕落しないよう守ってゆかねば。
さて、まんまと王から『デルトラのベルト』を引き離した、魔王の間者こと主席顧問官。
その調子で次々と魔王に都合のいい『おきて』を作ります。
もちろん、表向きは王のために。
王のために新たな城をつくり、初代王アディンの鍛冶場からデルの丘に住まいを移す(初代は元・鍛冶屋の男で、デルトラのベルトを作ったのも彼)。
そして王族は安全のため、城を一歩も出るべからず、というおきてを作る。
完全に民から王を引き離している……。
というか、魔王の間者がこうやって誘導するということは、逆説的に考えれば、本来なら王族は『アディンの鍛冶場』とやらにいなければならない??
もしくは、デルの丘にいてもらうと、魔王にとって都合がいいのかもしれない。
だとすると、築城のために登用したというララド族とやらも怪しいですね。
かつて魔王撃退の際、デルトラの地にいた七つの部族が力を合わせて戦ったのだそうで(七つの宝石も元々は七部族それぞれを守っていた)、その時の部族のひとつだとは思うのですが。
そんな部族が裏切ったとは考えたくないので、杞憂に終わってほしいのですが……これ以上、内部に裏切り者がいたら疑心暗鬼になってしまう。
こうして王を民から引きはがし、おきてで縛りつけて実権を取りあげ、今では王は形骸化してしまいました。
政治は部下にまかせ、自分はただ上がってきた書類にサインするだけ。
こんなのが王と言えますか?
我が国の天皇様は象徴になって久しいとはいえ、外交に慰問に日夜奔走してくださっています。
それに比べて、デルトラ王のお飾り加減といったら!
こんなふうになるまで、誰もなにも疑問に思わなかったのでしょうか?
幼いころから主席顧問官(魔王の間者)に教育をほどこされるせいか、考える力を奪われているとしか思えません。
主人公ジャードの幼なじみであるエンドン王子も、真面目で素直な性格ゆえに、おきてにしばられています。
そうして傀儡を抜けだせないまま、即位が決まってしまいました。
さすが宝石に守られた国というべきか、クリスタルのトランペットで奏でられる曲とともに、戴冠式を迎えます。
クリスタルガラス製のトランペットって、実際にあるのかな? と調べてみたところ、どうやら19世紀のイギリスでパレードやパーティの際に使用されたものがあるようです。
金管楽器といえば、基本は真鍮ですが、歴史的には存在するものなのですね。
いやあ、夢が広がりますねぇ。
そうして、戴冠式でたった一度だけベルトを身につけ、その後は城の塔の最上階に保管されるのです。
しかし、これに違和感を覚えたのが、主人公のジャードです。
ジャードは図書館で空色の布表紙に、箔押しの本『デルトラの書』を見つけます。
そこで、初代王アディンが影の大王の再襲を警戒し、常にベルトを身につけていたことを知ります。
武器や防具は装備しなきゃ意味がないって、ドラクエでも言っていましたからね。
そこで、あわててエンドンにデルトラのベルトを身につけるよう迫るのですが、おきてにしばられたエンドン王子は「夢にでもうなされたのか?」と怪訝なようす。
しかしジャードは「夢を見ているのは、きみのほうだ」と切って捨てます。
「きみは城壁の向こうで何がおきているのか、知っているのか!」と。
いや、ジャードも知らないよね?
と思わず突っ込んでしまったのはさておき。
ジャードとエンドンの違いは、城壁の向こうに行きたいという願望があるかどうかです。
ジャードはこれまで何度も城を抜け出そうとしては、エンドンに止められていたのでした。
対するエンドンは、ジャードに反論します。
「デルの街なら、知っているさ。毎日、窓から見える。美しい街だ」
いや、舐めとんのか????
そんな遠くから眺めてるだけで理解できるなら、現代人なんか今ごろ全知全能の神になっとる!
ちょっとスマホで検索するだけで世界中の画像が見つかるし、ストリートビューで360°パノラマ写真だって見れちゃうんだから!
一見して美しい街だって、ちょっと大通りを外れたらスラム街があるかもしれない。
実はすごく格差や差別があるかもしれない。
そういうのって、自分の目で実際に確かめてみないと、わからないですよね。
きっとジャードは、無知な自分を自覚しているから、街へ行ってみたいのでしょう。
けれども王子は、長年の洗脳じみた教育で、おきてを守ることが正しいことだと思いこんでいるから、止めようとする。
これ、エンドンの気持ちもわかってしまうんですよね。
私はかつて校則の厳しい高校に通っていたのですが、周囲がうまいこと教師の目を盗んで違反する中で、わりと愚直に守っているタイプでした。
そうやって、“イイコ”でいることが正しいと思いこんでいたんですね。
でも実際は、ただの思考停止だったのかもしれません。
けっきょく、うまくやってる周りのほうが、最終的な評価は高かったように思います。
社会に出たら、自分の頭で考えて、臨機応変に動ける人間のほうが強いんです。
と、どうでもいい私の自分語りは置いておいて。
ふたりが言い合いをしている後ろから、とうとう主席顧問官のプランディンが登場してしまうのです!
そして、奸計としてはプランディンのほうが一枚上手でした。
口八丁手八丁でジャードが「いつも王子を妬み、亡き者にしようとしていた」という架空のエピソードを作り上げ、焦って『デルトラの書』を見せようと懐を探った彼に「ナイフを持っている」と言いがかりをつけ、衛兵に追わせたのです。
ジャードも「やられた!」と悟りましたが、時すでに遅し。
その場から立ち去るしかありませんでした。
いやー、やられましたね。
まだ若いジャードは、正義感だけで突っ走り、計画性もないままエンドンを無理やり連れていって、ベルトをつけさせようとしました。
でも、まだ両親を立て続けに亡くしたばかりのエンドンの悲しみだとか、若くして王に立たねばならない重圧だとか、式典直後の疲労感だとか、そういったことまで考えが及んでいなかったのです。
対してプランディンは、とっさのことに対応できるだけのアドリブ力と、政敵を追いおとせるだけの地位や権力を身につけていました。
『イノシシ vs たぬき』の戦いは、たぬきに軍配があがったのです。
とはいえ、ただでやられるジャードではありません。
ふたりの秘密基地に暗号を残し、荷車にまぎれて城を脱出します。
そして、そこで目にするつらすぎる現実。
今まで城から見ていた『美しいデルの街』というのは、魔法で見ていたまやかしで、本当は目もあてられないほど荒廃した現実が広がっていたのです。
内心、「ようやく、あの美しい街へいける!」とのんきにワクワクしていたジャードくん、これにはショックを隠しきれません。
いやあ、美しい美しいって散々言われていたから、なんとなく察しはついてましたよ。
しかしここまでひどいとなると、もはや滅びる寸前では?
年間どれだけの餓死者が出ているやら。
王侯貴族が裕福そうだったぶん、悲惨さが際立ちますね。
そしてジャードくんはさすがの主人公補正 豪運で、鍛冶屋のクリアン老人に拾われます。
そこで知ったのは、デルの市民は王を恨んでいて、死んでほしいとすら願われているという耐えがたい事実でした。
まあ、そうなりますよね……。
民からしたら、自分たちが餓え苦しんでいるのを尻目に、王は贅沢三昧なわけですし。
いくら王が豊かな国を信じきっていると言われたところで、王のくせに城に閉じこもって、他人を寄せつけないから現実が見えていないのだと批判されれば、反論の余地がない。
頭も体も使わないで、ただひな鳥のように与えられるものを待っているだけ。
部下が好き勝手に国を荒らしているのに、気がつきもしない。
断っておきますが、民のほうは現状をどうにかしようと、何十年何百年と王に訴状を出しているのですよ。
しかし、歴代の王族は思考停止で書類にサインだけしているので、中身は読んでいません。
直前で握りつぶされてきたわけですね。
こうして何も変わらないまま、今またエンドンの治世に代わったのです。
そしてこれからもきっと、変わらないでしょう。
いやこれ、私が民だったら耐えられない……。
普通ならとっくにクーデターが起きるところですが、王がいなくなるとベルトの守りがなくなるため、それもできないのでしょうね。
影の大王に支配されるよりは、まだマシだから、と。
いや地獄か????
でも、ジャードはあきらめません。
エンドンが主席顧問官プランディンに騙されているだけで、本当は真面目で優しい男だと知っているからです。
そんなわけで、ジャードはエンドンから合図がくることを待つのですが……。
それから、七年の月日が経ちました。
いや長いよ!
生まれたての赤ん坊が小学校に入学するくらいの年月が経っとる!
アホのエンドンは七年間なにしとったんじゃ!?(口が悪い)
ジャードもクリアン老人の孫娘と結婚して、そろそろ子どもが産まれようかという時期に差しかかったころ、ようやくエンドンからの合図がきたのでした。
いや、判断が遅い。
ぐずぐずしているうちにクリアン老人も亡くなっちゃったがな。
しかも同日、影の国にいるはずのアクババという巨大な鳥が、国の上空を飛びまわっています。
いや〜な予感……。
エンドンからの謎かけを解き、王族だけが知る秘密の通路を抜けて、親友のもとへ駆けつけるジャード。
ここで幼少期の経験が生きましたね。
やはりエンドンが歴代の王族と最も違うところは、ジャードという親友の存在でしょう。
感謝せぇよ、エンドン。
再会したエンドンは、小さな宝石が散りばめられた、きらびやかな衣装を身にまとい、香水のいい香りをさせていました。
なんというか……外のありさまを知っている読者からしたら、あまりに現実とかけ離れた姿にぞっとしますね……。
エンドンもまた、うす汚れたジャードの姿を気まずそうに見ています。
まあ、美しく整えられたお城の中で生きてきたエンドンは、小汚い人間など見たこともなかったでしょう。
しかも、国の荒廃具合を考えるに、ただの労働者ではなく、もはや浮浪者に近いかっこうなのでは?
生きる世界の違う人間を生まれて初めて見て、拒否反応を示さなかっただけでも立派だと思います。
そこで嫌悪感や差別感情を表にだす人間なら、いよいよ施政者には向いてませんからね。
そんなことより、アホのエンドンがこの後におよんで、もォ〰〰うだうだとハッキリしないわけです。
染みついた洗脳教育のせいで、おきてをやぶるのが恐ろしく感じるのはわかりますが……
目を覚ませ!!
外ではもっと恐ろしいことが起こっとる!!!!
しかもショックなことに、ふたりの母がわりだった、乳母のミンが亡くなっていたのです。
それも、城の中に裏切り者がいると知り、エンドンに密告したばっかりに。
そんな彼女のご遺体を前にして、なんの決意も湧かんのか!?
弱腰もたいがいにせぇ!
そんでもって、ジャードくんも相変わらず理由をすっ飛ばして「ベルトをつけろ」としか言いません。
アンタたち、お互いいい加減に学習しなさい。
そんな平行線を一刀両断したのは、エンドンのお妃さまシャーンでした。
聞くところによると、ふたりは結婚するまでお互いの顔も知らなかったようですが、ちゃんといい人のようで安心しました。
すわプランディンの手の者かと疑ってすみません。
だってアイツならそのくらいのことしそうじゃん?
それをしなかったということは、さすがに魔王の手下を王配に仕立てあげたところで、勇者の末裔を産むことはできないということか。
というか、宝石の守りがあるから、あまり触れ合うと危険だと判断したのかもしれません。
次善策かどうかはわかりませんが、エンドン王の妃に選ばれたのは、世間知らずのシャーン王妃だったのです。
まあ、王を無知のままにするには、ちょうどいい人材だったのでしょうね。
さて、そんなシャーンの説得でようやく重い腰をあげたエンドンですが、時すでに遅し。
ベルトはバラバラに引きちぎられ、宝石はすべて持ちだされてしまっていました。
だからさ……遅いのよ、判断が……。
あんな悲惨な目にあっているデルの民が、それでも我慢し続けていたのは、王がベルトを守ってくれていると信じていたからなんだぞ?
それをアンタ……その最後の信頼まで裏切りやがって……。
ついに正体現したプランディンは、世間知らずと侮ったシャーン王妃の機転によって倒されるのですが、もはやアイツひとり倒したところでどうしようもありません。
影の大王が、ついにデルトラを乗っ取ったからです。
(ちなみに、ここのシャーンの機転がカッコよくて、思わず「やるぅ!」と膝を打ってしまいました。こういう、普段おとなしそうな人が機転をきかせて思わぬ活躍をする展開、大好き)
しかし、今はとりあえず身を隠そうと現実的な提案をするジャードとシャーンを尻目に、アホのエンドンは「宝石を探しに行く!」と聞きません。
急にどうした?
おきてに縛られていたと思ったら、今度は使命感に駆られているようす。
お前の中には0か100しかないのか。
イノシシだったジャードのほうが、冷静に物事を判断できているぞ。
少し落ちついてくれ。
「ベルトはアディンの末裔であるわたしが身につけなければだめなんだ!」
と力説しますが、彼はすでに国民の信頼を失っており、ベルトをつけたところで無意味という残酷な現実を知りません。
あーね。
だから歴代の主席顧問官はデルトラの王を国民から引き離して、民に貧困を、王に富を与え続けたのか。
すべては人心を奪うために。
そうしてまんまと民からの信頼を失った王が、今やデルトラのベルトすら奪われたと知ったら、民はなんと思うか。
せめてベルトを守ってくれるだけマシだと思われていた王が、最後の役目すらまっとうできなかったら。
……殺されるんじゃないか?
真面目な話。
影の大王から、そして下手したら国民からも命を狙われる国王夫妻は、それでも反撃の機会を狙って、身を隠すことにします。
すべてはそう、シャーンのお腹に宿った子どもに後をたくすために……。
と、ここで第一部が終わり、
第二部から、とつじょ主役交代。
アイエエ!?
と動揺を隠せないわたくし。
だって、てっきりこの先ジャードくん主役で宝石を集める旅に出るのかと思いきや、まさかの息子と交代です。
この感想文を書くにあたって公式HPのあらすじを読んだのですが、フツーに主人公リーフって書いてありますがな。
ここまでの流れですっかりジャードくんに感情移入してたから、ちょっとしょんぼり。
しかもジャードくん、六年前に木の下じきになって片足が不自由になったらしくて、さらにショック。
あんなにヤンチャだった男の子が、今や走ることも叶わないなんてと、もはや親目線で心配してしまう。
お前はジャードのなんなんだ。
とはいえ、宝石集めの使命は十六歳になった息子に託されるようです。
リーフくんもなかなかに勇敢で、ちょっと無鉄砲な少年。
ありし日のジャードくんを彷彿とさせて、なんだか血を感じますね。
ちなみにベルトはジャードくんが修復してました。すげぇ。
仮にも初代国王の魔力がこめられたベルトを、末裔でもないただの鍛冶屋が修復できたのすごくない??
このベルトが壊れぬかぎり、アディンの直系はぶじなのだそう。
七つの宝石をみつけ、勇者にベルトを手渡すのが、リーフの使命です。
父親から息子に、伝説の装備と勇者を探す旅を託されるなんて、まるでドラクエ5のようですね。
ちなみに私が人生で初めて遊んだドラクエも5です。
つまりね。こういう物語、DNAに刻みこまれているレベルで大好物。
さて、RPGといえばパーティ編成がお約束。
リーフの旅の仲間は、庭を間借りしているこじきのバルダでした。
こじきが仲間になるとは珍しい……とか思っていたら、なんと彼はあの乳母のミンの息子だったのです!
うおお、彼女の願いもまた、血脈に乗って未来へ繋がってゆくのですね。なんだか泣きそう。
しかもバルダは元・城の衛兵です。RPGで言うところの戦士枠。
これは戦力的にも期待できそう。
ちなみに、そんなバルダにジャードはファーストコンタクトでパンチをお見舞いしたらしくて笑う。
衛兵のかっこうだったから、敵かと勘違いしたらしい。
リーフくんは「あの虫も殺せぬ顔をした父が!?」と驚いていますが、この子ってば昔はとんでもないイノシシ ヤンチャ坊主でしたよ。
影の憲兵団に見つからないよう、目立たず生きてきた弊害だろうけど、実の息子に舐められまくってるよジャードくん。
というかジャードくん、「虫も殺せぬような顔」って、意外と柔和な顔立ちなの?
どっちかというとエンドンのイメージなのですがそれは。
というかこの作品、出てくるキャラにことごとく容姿の描写がなくて、たまに示唆されるとビックリします。
ジャードくんが長髪だったことも、鍛冶場で働くにあたり、長い髪をきったことで知りましたし。
私が作者だったら、すぐ髪の色とか、瞳の色とか描写してたと思う。
何はともあれ、主人公リーフと元衛兵バルダ、このふたりで旅にでることになりました。
ぶっちゃけバルダはリーフを足でまといと思っていて、できればひとりで旅立ちたいという空気をひしひしと感じますが……。
リーフもそれを感じ取っているらしく、精いっぱい虚勢を張っています。
バルダに舐められたくないもんね、わかるよ……。
七つの宝石、どれも人の寄りつかない危険地帯にあるのに、顔に出さないよう頑張っててえらいね。
まだ十六歳だというのに、国の命運を背負って旅立つのは立派だよ。
きっと小学生のころにデルトラを読んでいれば、リーフに憧れと共感を抱いていただろうに、なまじこの歳になってから読んだばっかりに、もう親目線。何コレ。
リーフくんのご両親、存命だっつーのに。
なんなら少年時代から見守ってるせいで、親御さんのことも親目線で見てしまうわたくし。後方保護者面。
さて、最初の目的地は、夢にまで見た『沈黙の森』です。
夢は夢でも悪夢だけどな。
地図に記された七つの魔境の中でも、特別に恐ろしい場所なのですが、リーフくんは
「あとの六つだって、恐ろしくないわけじゃない」
「沈黙の森はデルの街の近くにあるから、特にいろんな話が聞こえてくるのだろう」
と思い直します。偉いね。
こうして旅を始めたふたりは、『沈黙の森』への一番の近道、『ウェン・デルの細道』にたどり着くのですが……。
ひとつ言っていい?
標識逆じゃね????
どう見ても標識では左を指し示してるのに、リーフたちは右に行ってるよ。
たぶん挿絵が間違ってるんだろうけど、文庫版では修正されてるのかな?
そもそも文庫版には挿絵がない可能性もあるけど。
まあ、そんな私の小姑のような指摘は置いておいて、標識には「気をつけろ!」と忠告もあったのです。
それを「近道を無視するなんてもったいない」と意地をはり、ウェン・デルの細道へ強行したふたりでしたが……。
はい、案の定つかまりました。
赤い目と、白くて細長い手足の化け物に捕まり、気がつけばふたりは痺れ毒にやられ、一歩も動けなくなっていたのです。
「リーフ! 俺はお前を、死に追いやってしまった!」
と嘆くバルダですが、今ごろ後悔しても遅いぞ!
リーフの性格わかってて、負けん気に火をつけたのわかってんだからな、こっちは。
俺ひとりなら危険な道でも問題なかったと思ってるのかもしれんが、こんなにアッサリやられてるようじゃ、ひとりで旅に出たところで速攻で終わってたと思うよ。
そんでもって、嘆くバルダを、
「あなたのせいじゃない。ぼくたちは道づれだろ?」
「ぼくたち、まだ死んでないよ!」
と励ますリーフくん。
子どもに励まされてどーする。
おとなが毅然とした態度でいなきゃ、子どもが不安になるんだぞ。
反省せい!
と、そんな凸凹二人組の前に、妖精のような少女が現れました。
ここで彼女について『黒髪で、きれいな眉と緑の目』という描写が出てくるのですが、こんな具体的に外見の説明がされるの初じゃない?
これまでの登場人物は『ボサボサの髪』とか『もじゃもじゃのヒゲ』くらいしか描写がなかったので、いきなり具体的な外見がわかって、ちょっとビックリ。
そんでもってこの少女、妖精のような外見とは裏腹に、倒れているリーフたちから追い剥ぎしようとします。
あれ? 私ってば、いつの間に羅生門を読んでたんだっけ????
児童書なのに、出てくる少女が羅生門の老婆系少女とか、ちょっとハードボイルドすぎんよ〜。
とはいえ、主人公に感情移入している読者からしたら困るんですけど、ちょっとたくましいなと感心してしまったり。
しかし、リーフのマントは母上が手ずから織りあげた特別なもの。
リーフはカッとなって叫びます。
「お前にそれを持っていく権利があるものか! 母が、ぼくのために作ってくれたマントだぞ!」
すると『母』という単語に反応した少女、戻ってきてくれました。
どうやらリーフたちを影の憲兵団と勘違いしていたようす。
でも、憲兵団は子どものころから集団で育てられるから、母親の顔を知らないのだとか。
え、ひょっとして影の憲兵団って人間だったりする……?
私てっきり魔族かなにかだと思ってたんですけど。
いやでも、影の王国出身(たぶん)だからって人間扱いしないのは差別的な思考かもしれない。反省。
火ぶくれ弾とかいう、毒の入った爆弾なんてエグめのものを投げてくる憲兵団だけど、幼いころから洗脳されてきた人間兵器の可能性もあるんだな。
被虐待児童の成れの果てじゃん……。
なんか急に憲兵団が可哀想になってきた。
手心くわえたらこちらがやられるから、容赦しなくていいけどさ。
ていうか今気がついたけど、憲兵団のこと影の王国出身だとナチュラルに思ってたけど、デルトラ国民が子どものころに攫われて、憲兵団として洗脳教育されてる可能性もワンチャンある……??
ヤバい、考えると闇が深そう。
リーフたちは少女の親に助けを求めようとしますが、彼女の両親は憲兵団に連れていかれてしまったとのこと。
彼女の名前はジャスミン。
今の彼女の家族は、からすのクリーと、謎の小動物フィリーだけです。
この小動物 is 何????
なんか後に成長して、実は伝説の生き物でした〜とかありそう。
ピンチの時に助けてくれそうな予感がぷんぷんする。
頼れるおとながいないことにガッカリしつつも、リーフたちは、
「仔細は言えないが、影の大王を倒すために旅をしている」
という、どうにもうさんくさい理由で説得を試みます。
しかしジャスミンはその場を後にしてしまう……。
日が暮れれば、ふたりを食べにウェンバーという化け物がやってきます。
いよいよ絶体絶命に陥ったそのとき、戻ってきたジャスミンが、なにやら絶望的にまずい薬をふたりの口に流しこみました!
おかげでどうにか動けるようになったふたりは、木の上にのぼり、難を逃れるのでした。
このウェンバーが本当に気持ち悪かった!
なんか生理的嫌悪をもよおすヤツでした。
ところで、母上からもらったマントがハリポタの透明マントみたいになったけど、どういう素材?
てかなんで母上はそんなもの手に入れられたんだろう。
絶対に貴重なものだよね。
アンナも、今はジャードも一般人だというのに、いろんな伝手があるのがすごい。
宝石集めのために情報収集もめちゃくちゃしてたみたいだし。
さて、ウェンバーから助けてくれたジャスミンは、ふたりを自分のお家に招待してくれました。
大木の上に木の枝を編み合わせて作った鳥の巣のような家とはいえ、これを当時七歳だった彼女が作ったのだからすごすぎる。
なんでも、彼女が七歳のころに両親は連れ去られてしまったそうで、以来ひとりで生きてきたとか。
偉すぎる。ジャンブルブックの主人公かなにか??
リーフは最初、家の中にある戦利品を見て、
(影の憲兵団とはいえ、死骸から物をはぎとって見捨てるなんて、残酷じゃないか)
と幼い正義感を覗かせますが、すぐに
(ジャスミンを残酷だと決めつけるなんて、思いあがりだ)
と思い直します。
まあ、日本人なら義務教育で芥川龍之介の『羅生門』をやるけど、リーフくんはそんなこと習ってないだろうからね。
生きることと正義を天秤にかけたとき、どちらを選ぶのが正しいのかなんて、この時に初めて考えたのでしょう。
でも、そこで「残酷だ」と思ったことを口に出さず、相手を理解しようと努めたあたり、リーフくんて育ちがいいよね。
ジャードとアンナが、ちゃんと躾けたんだろうなぁ。
さて、ジャスミンとの会話で宝石のありそうな場所がわかったふたりは、彼女の先導で案内してもらうことになりました。
なんとジャスミン、木や動物と会話できるようす。
マジでリアルジャングルブック。
いや、ターザン?
とにかく、ここからラスボスとの戦闘になるのですが、なんと約15ページくらいで決着がつきます。
めちゃくちゃスピーディ。
そもそも、ジャードとエンドンの過去話だけで半分使ってるので、冒険に出てから60ページくらいしかないんですよね。
なのに全く性急さを感じさせない。
しっかり濃厚な冒険で、とてもページ数が少ないとは思えない満足感。
作者の筆致が巧みすぎる。
つーかラスボス、花を守るためにツタで囲っていたせいで、かえって光がさえぎられて咲かなかったとか……わかるだろ! 植物なんだから!!
ひょっとして二人を殺して、独り占めしようとした呪いだったのかな。
だから正気を失って、いつまでも正解にたどり着けなかったのかな。
魂のままヨロイに宿っていたのも、呪われていたからだったのかも。
やはり、人を殺してまで永遠の命を得ようとすると、ろくなことがないですね。
そんなわけで一行は、第一の宝石・トパーズを手に入れたのでした。
いやー実は私の誕生石がトパーズなので、初めての宝石がこれなのが嬉しい。
表紙の色から「もしかして?」って思ってたけど、トパーズってなにかと地味扱いで、あまりピックアップされない印象だったので。
そして、この世と霊界をむすぶ力があるというトパーズにジャスミンが触れたとたん、彼女の母があらわれ、「ふたりと一緒に行きなさい」とお告げをします。
こうして、パーティにジャスミンがくわわったのでした。やったね!!
しかし、オッサン・少年・少女のパーティ、けっこう目立ちそう……。
いや、父親と子どもたちに見えるだけかな?
ジャスミンは、これで母が亡くなっていることが確定してしまったとガッカリしていましたが、逆にいえば父親はワンチャンまだ生きているのでは?
旅の果てに、ジャスミンが父親と再会できるといいな。
さて、長々と語ってきた『デルトラ・クエスト』第一巻『沈黙の森』の感想はここまで。
なんか楽しかったから取りとめもなく語っていたら、気づけば感想というよりあらすじ解説みたいになってしまって反省。
次回はもっと書くべきことを取捨選択してまとめたいですね。
それでは、今回はこのへんで。