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【勝手に読書感想部】琥珀の夏:辻村深月
[はじめに]
一部内容にネタバレ含みますので、まだ読んでいない方はご注意ください。
キラキラと美しい、ちょっぴりほろ苦い夏の思い出。
夏の軽快な陽射しと森の中の澄んだ空気、目の前に広がる美しい泉。
読み進めるほどにこんな美しい光景か頭の中にイメージできる。
森で発見された少女の白骨遺体に心当たりがあると言う老夫婦からの依頼を受けて〈ミライの学校〉担当者に掛け合う、弁護士の法子。
〈ミライの学校〉は子供たちを親元から離れた山奥で生活させることで、主体性や考える力を身につける教育機関というか合宿施設のようなトコロ。世間からはカルト教団のような扱いを受けており、白骨遺体が施設の近くで見つかってからはその世間の風当たりはさらに強いものになっていた。
法子は小学校4年生からの3年間、夏休みの1週間だけこの〈ミライの学校〉に合宿していた。
ひとりになりたくない、悪口を言われたくない。心の柔らかさが幼いノリコを締め付けてて苦しかった。
ノリコがこの場所でミカと出会えて良かったって思う。
その夏に経験したことや、学び成長したこと、育んだ思い出は30年の時を経て琥珀の中に封じ込められてしまっていて、きれいな情景や断片的なエピソードしか思い出せずにいた。そんな中でも〈ミライの学校〉で幼少期から暮らしていたミカとのストーリーは法子の思い出琥珀の中でひときわ光を放っており、例の白骨遺体がミカじゃないことをせつに祈る法子だった。
驚いたのは、法子の目の前に現れた、化粧っ気がないキツめの情勢が、美しい夏のひとときを共に過ごしたあの「ミカ」だったこと。
「ミカの遺体だったらどうしよう」という不安は、意外な形で裏切られるのだった。
ー ずっと放っておいたくせに。
ー 死んでてほしかったんでしょ。
・・・なんて言葉を発して法子を凍りつかせた無愛想な女性と、キラキラとした夏の少女の面影が全然一致しなくて、衝撃的な展開だった。
のちに白骨遺体の正体はヒサノだと分かる。法子を陥れるような行動を取った意地悪な女の子だった。
更に驚いたのは、ヒサノを殺したのは自分であるとミカが言っているということだ。
ー 世間はキレイゴトだけでは成り立たない。
大好きな先生たちのロッカーから出てきたというエロ本を目の前に叩きつけられ、ミカは逆上した。
今まで信じてきた美しい世界が音を立てて崩れていった。
どうしていいか分からなくて、やるせなくて、許せなくて、ミカはヒサノを自習室に閉じ込めた。「反省しろ」と。
そして翌朝、ヒサノは自習室で変わり果てた姿で発見された。
大人の悍ましさに、読んでいて嫌悪感を憶えた。
口ではミカを守ると言いながら、大事なことは何一つミカに伝えず、話し合わず、全てを隠蔽し、学び舎から追い払った。
幼いミカはすごく深い傷を負ったと思う、間違った守られ方をしてしまったことに。
ミカは、何が起きたかも分からず、反省もできないままこの組織の中で育ち大人になってしまった。
性に対する嫌悪感と心の傷を負ったミカが、結婚して子供を持てたことは、意外な感じがするけど、親の愛情を知らずに育ったミカはやっぱり自分の子供たちもうまく愛せていないみたいだった。
だけど、そんなミカを救うことになるのが、家族でも組織の人間でもなく、〈麓の生徒〉である法子だってことも、ミカの人生にとって大きな意味があるんだろうと思う。
最終的には事件に一区切りつけることができて、ミカが少しずつ自分の人生を歩んでいけそうな、そんな希望を感じられるて、いい物語だったと思う。
長いブランクがあったけど、この2人が「ずっとトモダチ」でいられるといいな。