【勝手に読書感想部】世にも奇妙な君物語:朝井リョウ②
ちょっとブラックで後味の悪い。
ありえない話なんだけど、すごくリアリティがある。
「世にも奇妙な物語」風のショートストーリーを集めた、朝井リョウ先生の短編集。
あらすじと、自分なりの感想を書いていこうと思います。
第2話 リア充裁判
[あらすじ]
「コミュニケーション能力促進法」というトンデモ法律が成立し、豊かなコミュニケーション能力の向上を向上を促進する日本政府。
世の中ではレジャー施設の拡大や女子会の奨励、SNSによるリア充拡散などが推し進められ、飲食店での1人掛け席の廃止、一人暮らしの禁止などの政策がとられた。
この世界線では、就労前の市民から無作為に選ばれた対象者がこれまでに培ってきたコミュニケーション能力を査定する「能力調査会」が行われている。これがいわゆる「リア充裁判」だ。
この裁判で不合格となった知子の姉は、コミュ力を矯正するために、コスプレして渋谷のハロウィンに参加、サークルの先輩の家で鍋パ、W杯のパブリックビューイングに参加、などのいかにもリア充って感じの行動を強いられた。
コミュニケーションを矯正された姉は変わってしまい知子の元を去っていった。
そして月日は流れ、知子の元にもリア充裁判への出廷通知が送られてきたのである。
[ネタバレと感想]
*以下ネタバレ含みますので、まだ読まれていな方はご注意ください。
こんな裁判、本当にあったら怖すぎる。笑
充実したコミュニケーション能力を持っているかの証明なんて、SNSの投稿や友達に囲まれた写真で判断できるものでは決してない。
もし自分がリア充の証拠提出を求められたら、陰キャがバレて即不合格確定だーと思いながら読み進めていました。
リア充裁判の対象者は知子を含めて3名。
他の2人は、海外でボランティア活動をしたり友だちとディズニーに行ったりと、これまたいかにもなリア充の証拠を提示するも不合格。
薄っぺらなアピールはこの裁判の議長には通用しなかった。
知子は一緒につるむ友だちもいないし、教室でも図書館でも常にぼっち。
だけど、議長はそんな知子だからこそ今まで1人積み上げてきた思いがコミュニケーションの種として培われているのだと言って、彼女を評価してくれた。
この議長は、かつて知子の姉に思いを寄せていた「やさしいめがねの人」だったのだ。
…っていうすごいいい話しで終わらないのが「世にも」の悪いところ。笑
次のページで一気に現実に引き戻される。
実はこの話、全て知子の妄想。テスト中に書いていた漫画のストーリーだった。
妄想の中でコミュニケーションの種が育まれているという評価だった知子は、コミュ障を激しくこじらせていた。
なんとも後味の悪いオチで、え?ええっ?!ってなった。
一旦持ち上げて、そして突き落とす。
まぁ、そこがこのお話の好きなところなんだけど。
いくら1人で過ごす中でコミュニケーションの種を培っていたとしても、ちゃんと言葉にして人に伝える努力をしないと芽は出ないし実らない。
人のコミュニケーション能力は訓練の賜物だと思う。
もちろんSNSでのアピールでは測れないけど、いろんな集まりに参加したり、自分から外に出て、積極的に人と関わっていくことで磨かれるものだと思う。
知子はそういった努力を一切してこないまま大学生になり、コミュ障ゆえに就職も決まらず、教室の中で唯一リクルートスーツを着ている。
妄想の世界だけで自分を評価しても、現実は、はたから見れば「キモい」と切り捨てられて終わり。
なんとも皮肉で、考えさせられる物語だった。
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