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【勝手に読書感想部】世にも奇妙な君物語:朝井リョウ③

ちょっとブラックで後味の悪い。
ありえない話なんだけど、すごくリアリティがある。
「世にも奇妙な物語」風のショートストーリーを集めた、朝井リョウ先生の短編集。
あらすじと、自分なりの感想を書いていこうと思います。その3。

第3話 立て!金次郎

[あらすじ]
幼稚園児の保護者からのクレームはいつだって理不尽だ。
童話の絵本のエンディングを子どもに悪い影響が出るからと全てハッピーエンドに改変したものを書い直したり、カエルの写真が表紙になっている自由帳を「子供が気持ち悪がるかもしれない」と言われ書い直したり、薪を背負ってたったまま本を読んでいる二宮金次郎像に対して、「子どもが真似すると危ないから」という理由で座った像に作り替えたり・・・。

幼稚園の先生である孝次郎は、年間行事の中で園児一人ひとりに対して必ずどこかのタイミングで役割を与え、全員にスポットライトが当たるように、なければならないという命題を強いられていた。
これも声の大きな保護者グループからの要請だった。

目立つことが苦手で、運動も不得意な学人に、必ず運動会でスポットを当てるようにと同僚の須永から強く念を押され、孝次郎は頭を抱えていた。
年間行事が表記されたエクセル表を渡され、各行事で目立つ子どもの名前の箇所に均等に★マークを付けるよう指示される。
須永は子どもたちのことより、保護者の顔色を伺って仕事をしている。
このことに孝次郎はどうしても納得できなかった。


[ネタバレと感想]
*以下ネタバレ含みますので、まだ読まれていな方はご注意ください。

応援団長も無理、怪我をして競技にも出場できない。
そんな学人に対して、孝次郎は自分のクラスのかけっこの際の放送担当という役割を与える。
みんなの前に出ることは苦手だが、本をたくさん読みいろんな言葉の表現を知っている学人にはうってつけの役割だった。
この試みは見事に成功し、いつも孝次郎に冷たく当たっていた声の大きい保護者たちも彼を褒め称えてくれ、賞賛の笑顔を向けてくれた。
一方で、今まで評価の高かったはずの須永に対しては強い口調で非難を向けたのだった。
やっぱり自分のやってきたことは間違っていなかったのだと、人間の成長に対する喜びを実感し清々しい思いに浸る孝次郎だった。

・・・とまあ、ここで終わらないのがこの物語のお約束。
園児に★マークをつけて、均等にスポットライトを当てていた先生と同じように、保護者も先生を均等に褒めるように★マークをつけた表を用意していたのだった。
運動会の日から2ヶ月はどんなことがあっても孝次郎が褒められるターンに決まった。
孝次郎がどんなに頭を働かせて、子どもたちのことを考えて行動しても★がついていない期間は無条件に怒られるし、対して努力しなくても★がついている月は確実に褒められる、、、という悲しいオチ。

保育士をしている友だちと話していても、子どもより保護者の対応の方が大変だとよく言っている。
この物語においては保護者も、孝次郎以外の先生もみんな子どもの事が見えていない。
保護者は起こりもしない「かもしれない」に託けて因縁をつけているだけ。先生たちはそれに真摯に対応することで仕事をしているつもりになっているだけ。
園内の二宮金次郎は結局、立っていていも座っていてもどっちでもよかった、、、というオチできれいにタイトル回収されちゃいました。

すごい皮肉だけど、現実なんてこんなもんなんだろうなと思う。
そうじゃないって願いたいけど。
どうでもいいことにばっかり目を向けて、本質を見失ってばっかりだ。



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