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【勝手に読書感想部】世にも奇妙な君物語:朝井リョウ⑤

ありえない話なんだけど、すごくリアリティがある。
私の大好きな、「世にも奇妙な物語」風のショートストーリーを集めた、朝井リョウ先生の短編集。
第5話は今までのお話の総まとめみたいな仕掛けがあって本当に楽しかったです。

第5話 脇役バトルロワイヤル

[あらすじ]
世界的に有名な演出家、蜷川幸子演出の新作舞台の主役の最終オーディションに訪れた溝端淳平・・・じゃなくて溝淵淳平。
オーディション会場に蜷川の姿はなく、確かな実績と手堅いキャリアを持った「名脇役」と呼ばれるような役者陣が集められていた。
演出家席にはカメラが設置されており、集められた役者が次々に脱落していく。


[ネタバレと感想]
*以下ネタバレ含みますので、まだ読まれていな方はご注意ください。

これまで収録されていた、4話のストーリーの中に散りばめられながら、ストーリーを円滑に進めてくれて、時には説明的な役割を担っていた「脇役」たちが、この第5話で主役を勝ち取りたい一身でオーディションに臨んでいた。
・第1話で主人公の親友として、主人公の暗い背景を説明するようなあからさまなセリフを当てがわれていた浅見れいな・・・じゃなくて桟見れいな。
・第2話で、ちょっと席を外した隙に状況が変わり、ついて行けなくなる間の抜けた裁判官を演じた八嶋智人、ではなく八嶋智彦。
・第3話で、主人公の友人として「冷める前に食おうぜ」と脇役あるあるな食いしん坊キャラを当てがわれた勝地涼、いや勝池涼。
・第4話で、主人公が憧れる上司を演じた板谷由夏、じゃなくて板谷夕夏。
・同じく、第4話で主人公の同僚の上司で「おやつおじさん」として話題に上がった、ベテランの渡辺いっけい・・・渡辺いっぺい。

みんな、こんな役しか来ないってぼやいてて笑った。
私はよく、小説を読むとき、登場人物に実在する俳優さんを脳内で当てがって読み進めていくんだけど、
絶妙な名前のせいでそれぞれのバイプレイヤーの顔が完全に頭によぎって、余計おかしかった。笑

残念ながらこれらの役者さんたちは、自分の身に染み付いた脇役魂がどうも拭えず、脇役っぽい振る舞いをしてしまい次々に脱落し奈落の底に落ちていく。
ドラマや映画を見ているとついつい脇役の重要性を見落としがちだが、彼らがいないとストーリーを説明してくれる要素がなくなり、自然と主役も輝かなくなる。脇役が客観性を持っているからこそ、主役はただその場に佇み「主役」であることができるのだ。
淳平が最後まで残ったと思ったのも束の間、これまでの努力も虚しく、布に包まれてずっと眠っていた芦谷愛菜に全てを持っていかれてしまうのだった。
ちょっと切ない結末ではあったが、「脇役」に対するリスペクトがたっぷり詰まった作品だと感じた。
これまでの作品も改めて読み直すと、彼らがいかに重要な役割を果たしていたかがよく分かって、物語がより味わい深いものになる。
この短編集の中で、個人的に1番好きな作品でした。

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