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学習を知的活動にする ワクワク文字練習⑧ 漢字ノーマル編

今回は初めての漢字学習。
授業パターンは、ひらがなの時とほぼ同じ。
授業パターンが同じなら、子どもたちは迷わない。心地よいアウンの呼吸で授業が進むようになる。

しかし! この心地よさが退屈の入り口! 単純な繰り返しでは、退屈の悪魔がやってくる。(『タイプ別 こんな時、こんな子が悪魔に狙われる』

だから、ここで授業に変化を入れる。
子どもたちの知的活動のレベルを上げる。
漢字(表意文字)には、ひらがな(表音文字)と違う特徴がある。
漢字の特徴を使って、子どもたちの知的活動のレベルを上げる。

具体的には、漢字がもつ意味、複数の読み方、へんとつくりなど、漢字の特徴に子どもたちを注目させる。そのために、黒板の書き方、ノートの書き方にも小さな技を使う。
単純な活動は短時間に抑え、子どもたちの考える時間、発表する時間を増やす。知的活動で、子どもたちを授業に集中させる。
「学習を知的活動にする」それが、今回のメインテーマ。

授業パターンと所要時間はおおよそ次の通り。

《漢字学習 授業パターン》

①全員起立で筆順練習をさせる(1分)
②黒板の準備・読み仮名の確認をする(1~2分)
③国語ノートに書く準備をさせる(1~2分)
④課題を提示する
⑤課題が終わった後の行動を指示する
⑥課題をノートに書かせる(3~5分)
⑦「書く」時間の終了を宣言する
⑧自分が書いた言葉を発表させる(4~6分)
⑨練習帳に漢字を書かせる(2~4分)
⑩黒板を使って、授業をする(※適宜)

(メインテーマとなる知的活動の部分は⑩。これまでのシリーズを読んでくださっている方、お急ぎでしたら⑩だけ読んでください。)

では、上のパターンで漢字『一』の授業開始!

①全員起立で筆順練習をする(1分)

横棒1画なのでアッサリ。でも楽しく、リズムよく。(筆順練習の技は『筆順練習で遊ぶ①』『筆順練習で遊ぶ②』

②黒板の準備・読み仮名を確認する(1分)

漢字と送りがなを書いて、1つずつ確認する。

「なんて読むでしょう? せーの!」

「『ひと』つ!」

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子どもたちの声を確認して、漢字の横に読み仮名を入れる。(注1)
3回繰り返して、縦棒を入れれば黒板の準備が完成。

③国語ノートに書く準備をさせる(1~2分)

『ん』の時と同様に、小黒板の手本を見せ、次のように書かせる。(『ん』の授業は『ワクワク文字練習⑦』

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これは、読み仮名別に「見つけた言葉」を書かせるため。読み仮名を赤鉛筆で書かせると分かりやすい。(注2)

④課題を提示する

「漢字の『一』で始まる言葉を見つけよう。」

⑤課題が終わった後の行動を指示する

「読み仮名別にノートに書きます。どの読み方でもいいです。全部で3個書けたら先生に見せます。マルをもらった人は、その中の1つを黒板に書いてね。長い針が6まで来たらオシマイ。」(注3)

数以外は『ん』と同じ。子どもたちは直ぐに理解できる。

⑥課題をノートに書かせる(4~5分)

1分もしないうちに子どもたちがノートを持って来る。3個だから『ん』の時より早く、続々と来る。

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教師は3個のマルを書いて、『ん』の時と同様の指示を出しながら子どもたちを黒板前に送り出せばいい。子どもたちが黒板に書く活動は2回目だ。どうすればいいのか、子どもたちは何となく覚えている。これが授業パターンを作るよさだ。(詳しくは『ワクワク文字練習⑦』

⑦「書く」時間の終了を宣言する

「時間です。鉛筆をしまいましょう。」

鉛筆をしまわせる、これ、とても重要。
鉛筆があると、後から思いついた言葉を書きたなる。黒板を見ることに集中できなくなる。黒板を見て、発表活動に集中させるために鉛筆をしまわせる。

⑧自分が書いた言葉を発表させる(5~6分)

「『一つ』の所に書いた人、起立。大きな声で読んだら座ります。書いたのがまだ残っていたら、そのまま立って待っていてね。」

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黒板に書かれた言葉を次々に指さして、読み上げた順に印を入れる。ここは慣れている。リズムよく、スピードを上げて。
『一こ』『一まい』についても同じように行う。

「『一とおり』ってどんな時に使う言葉かな?」

「全部、とか、そんな感じで使う。」(お、なかなか。)

「『一ごう』は、どんな時に使う?」

「あつ森の1号とか2号……」(ごめん、それ知らん。私の世代なら仮面ライダー。)
「お酒も1合、2合って言う。」(Mr.きざくら、よく知ってる。)

どんな時に使う言葉かが分かりにくい場合や、音(オン)が同じで違うものがある場合は、発表者に説明させる。
特別に外れてない場合はそれでよし。発表者が困っていたり、援護発言が出てこなかったら、教師が3秒程度で簡単に説明する。(発表させる時の技については『ワクワク文字練習⑤』

同音異義で混乱している場合、短く「『ごう』にはいくつか漢字があって、あつ森の『号』は番号の号、お酒の『合』は量をはかる時の合。どちらも小学校で習うからね。」と教師が黒板に書いて見せる。「へぇ、そうなんだ」でいい。子どもたちが漢字に興味をもてればOK。

1つに時間をかけず、黒板に書かれた言葉全部を発表させて終わり。慣れれば5~6分で80~100単語はできる。全員発表に必要な時間は、繰り返すほどに短くなる。
この時間は、全員に「自分が書いた言葉を発表させる」のが目的。教師の説明は短く、最低限に。教師の説明で30秒も取るのは悪手!

⑨練習帳に漢字を書かせる(2~4分)

「練習帳に(漢字の『一』を)書きます。」

既にひらがなで練習帳(ワークブック)を使っていたから「では、練習帳をどうぞ」で子どもたちは練習帳を出して書き始め、書き終われば教師の所に持ってくる。
子どもが提出した練習帳に、教師はその場で大きくマルをつける。間違っていなければマルをつける。丁寧に書けていれば、そこを認めて「いいね」と声を掛ける。(注4)

提出が済んだ子には次の指示をする。

「誰も発表していない言葉が国語ノートに残っていたら、それを黒板に書いてね。」

この時は、1人で何個書いてもいい。ノートに残ってなければ、新しく考えてノートに書いて持って来させる。

⑩黒板を使って、授業をする

「時間です。書くのはおしまい。鉛筆をしまって黒板を見ましょう。」

「黒板に書き足した人、起立。先生が指さしたら大きな声で読んでね。」

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書き足した言葉は、必ず発表させる。
誰も気がつかなかった言葉なので「それがあったか!」と歓声が上がる。たまに「それ、もう書いてあるよ」と言われることもあるけど、それはご愛嬌。何度か間違えれば次第にノートと黒板をよく見比べて書くようになる。

一通り発表が終わったら次のように聞く。

「黒板の言葉を見て気がついたことがある人は、いますか?」

この時は、挙手させる。

よしはるくんが、落ち着いた声で言った。

「『まい』は紙とかお皿でしょ。『ぴき』は動物。何かを数えるときに使う言葉が多い。」

「なるほど。今のに関係して言いたいことある人、起立。と指示。

何人かが起立する。起立をさせた時は、列指名形式を使って発表させる。

「虫やヘビ、魚も『ぴき』で数えます。」
「動物だけど、馬は『とう』って数えます。」
「鳥は『わ』です。生き物でも、種類によって違うみたい。」
「数えるものによって、くっつく言葉が違う。」

発表した子が次々に座る。
言おうとしていたことが同じだった子も座る。
慣れないうちは、その区別が難しいけれど、次第に「まなちゃんと同じ」と自分で気づくようになる。自分で判断して座った子には「ゆうきくんと、かんなちゃんも、まなちゃんと同じだったんだね」と声を掛ける。
慣れるまでの初回とその後の数回は時間をたっぷり使うつもりで授業をする。

【鉄則】最初はゆっくり、少しずつ。慣れてきたらペースを上げて。(『ワクワク文字練習③』)

起立していた全員が座ったら、再度聞く。

「他に気づいたことがある人は、いますか?」

まさゆきくんが、遠慮気味に手を挙げた。

「まさゆきくん、どうぞ。」

「真ん中はマル(半濁点)で、左はテンテン(濁点)になってる。」

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「ああっ。ほんと!」
「なんでぇ!」
「じゃあ、『一ざん』『一じん』『一ずん』『一ぞん』とかある?」
「『一ぴん』『一ぺん』はある?」
「右側は、なぁに?」
「『びん』『かん』は入れ物。」
「家にある物とか?」
「絵に描けそうなもの…。」

まさゆきくんの発表に、子どもたちが次々と反応した。(注5)
自然に盛り上がってるのは見ていて楽しい。ここには、素朴で面白い気づきがある。

黒板は発想の宝庫だ。知的活動の源だ。

よしはるくんの発言も、まさゆきくんの発言も、それに続く子どもたちの発言も、黒板にたくさんの言葉があるからできた。たくさんあるから、比べることができる。違いや特徴を見つけることができる。知的な活動が促される。

『まい』や『ぴき』が「何かを数えるときに使う言葉」だと気づいたのも、「数えるものによってくっつく言葉が違う」と気づいたのも、「真ん中はマル、左はテンテンになってる」と気づいたのも、それに続く子どもたちの発言も、とても知的だ。

教わって何かが分かるのも楽しいけれど、自分で何かに気づくのはもっと楽しい。「気になるぞ」と考え続けている子どもの顔はスッゴく可愛い。1年生だって、とても知的な表情を見せる。(注6)

学習内容が、ひらがなから漢字に変わった。
ここで、授業パターンに変化を入れた。
子どもたちの知的活動のレベルを上げた。
漢字の『一』がもつ意味、複数の読み方を利用した。
だから、よしはるくん、まさゆきくんの発言が出た。
知的活動の時間を増やし、子どもたちを授業に集中させることができた。
1年生だって、単純な繰り返しよりも知的な活動が大好きだ。



次回、『ワクワク文字練習 漢字イケイケ編』。
子どもたちの知的活動をさらにイケイケ状態にする技をご紹介。

(注1)教科書の音読で既に読めるようになっている。読めなければ教師が言えばいい。

(注2)ノート黒板(小黒板)と見本帳(子どもが使用しているものと同じ形式のノートにペンで太く書いたもの)を用意するといい。国語・算数とも、年間を通して見本帳として使う1冊を作ると便利。

(注3)見開きとは言え、ノートのアチコチに書くと「何個書いたか」が分かりにくくなる。1年生の1学期は「1、2、3、いっぱい」が実感。だから3個にした。そして、教師も3個くらいなら超高速で確認して3個のマルを書くことができる。大きく1個のマルを書くより少し面倒だけど、3個までなら頑張れる。教師がモタモタしていたら、マルつけを待つ子どもたちの行列ができる。行列ができれば、後ろでおしゃべりや小競り合いが始まる。それだけは絶対に避ける。

(注4)練習帳に書かせる時間は、殆どの子が書き終わる4分程度が目安。止め、払いを意識してトコトン丁寧に書く、指先操作の不具合など何らかの理由で書くことに時間を要する子には、持ち帰る(または他の授業時間の残りに仕上げる)ようにさせる。みんなが終わった中、1人だけで書かせない。

(注5)まさゆきくんは、活動的なAタイプではない。友達と競ってノートにたくさんの言葉を書くことはしない。でも、課題に集中した時はすごい。黒板に書かれたたくさんの言葉を見て、考えることができる。何か気になり出すとじっと考えているBタイプ。(ABCタイプについては『タイプ別 こんな時、こんな子が悪魔に狙われる』

(注6)漢数字は『一』から『十』まである。全部をこのペースではやらない。たぶん『三』まで丁寧にやって『四』以降は端折ることになる。そこは担任の考えと学級の子どもたちの様子による。

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