「先生、ちょっとお話が」はとても大切なお話です 事件簿⑩
「先生、ちょっとお話が」年度初めの保護者会後、担任が一人になるのを待って話しかける保護者がいる。それはとても大切な話をする時だ。内容は様々だけど「予め伝えておきたい。子どものことを知っておいて欲しい」そういう願いをもって話しかけている。
この年、教室に残った私に話しかけてきたのは、あかレンジャーと きレンジャーのお母さんだった。あかくんのお母さんは「すぐにカッとなるようで……先生にはご迷惑をかけると思います」と園生活での出来事を話した。お母さんの話から、思うようにならない子育てに何をすればいいのか分からず困っているのだろうと感じた。
以下が、二人のお母さんから聞いた話です。
そして、入学3週間後 あかレンジャーと きレンジャー、その他の子どもが絡んだ「乱闘事件」が発生した。(詳しくは『事件簿①』)
リプレイ方式で「乱闘事件」の経緯を確認した時、二人のお母さんの心配を理解できた。きっと幼稚園でも似たようなことが繰り返し起きていたのだろう。あかくんは「乱暴な子」と言われていたかもしれないし、きくんは「ワケが分からない子」と思われていたかもしれない。少なくとも、二人の保護者は我が子が楽しく学校に通えるかを心配していたに違いない。
この「乱闘事件」は あかくん と きくん の行動を理解するいい例だった。だから、これを機会に学級の子ども達にも二人を分かって欲しいと考えて全体指導を行った。子どもだって「ああそうか」「そういうことだったのか」と分かればそれだけで落ち着くものだ。保護者からの事前情報があったお陰でできた全体指導だった。(その様子は『事件簿②』)
もし、あの事前情報が無ければどうなっていただろう。「乱闘事件」を目にした私が驚いて「何やっているの!やめなさい!」と大声を出し、周囲の子どもが「この子、幼稚園の時からそうなんだよ」みたいな言葉を言い始めていたら全く違う一年間になっていたかもしれない。そう考えるとゾッする。
私は保護者からの事前情報に救われたのかもしれない。
長く教師をしていると保護者の「ちょっとお話が」はよくあることだ。教師にしてみれば珍しいことではない。
でも、保護者にしてみれば、この「ちょっと」を話すためにずいぶん考えたんだろうと思う。
「言った方がいいのか、言わない方がいいのか。」
「こんな話をしたら『心配し過ぎ』と思われるかな。」
「どう伝えれば誤解されず意図が伝わるだろう。」
そんなふうにいろいろ考えた末の「先生、ちょっとお話が」なんだと思う。(注)
教師の皆さん、保護者からの「先生、ちょっとお話が」はとても大切な話です。急がず大事に聞きましょう。保護者は十分に考えた末、話しかけているのです。その話で子どもも教師も救われることがあるかもしれません。いえ、救われることが多いはずです。その時、時間が無ければ、あらためて時間を作って聞きましょう。
そして保護者の皆さん、どうぞその「ちょっと」をお聞かせ下さい。何事もなく終われば「心配し過ぎだったね」と一緒に笑えばいいのです。保護者が子どものことを思うのは当たり前です。心配に思うことを教師に伝えるのは当たり前です。教師もまた子ども達の笑顔を望んでいます。
(注)「先生、ちょっとお話が」このような話をする保護者は、担任が一人になるのを待っていることが多い。時には、一度教室を出た保護者が意を決したように戻ってくることもある。だから、保護者会の後、担任は教室に残る時間を作るといい。教室の机や掲示物を整えながら保護者の帰り確認しよう。