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石映画鑑賞会 第一回 『石と足輪』
ハーイ皆さんこんにちは!よくこのような記事に辿り着きましたね。石拾い専門雑誌の石映画企画に興味があるなんて、絶対に石にまつわる映画を観たいと思っていますよね?これは断言できますよ。否定されても私には届かないので悪しからず!
今回はAmazonのPrime Videoでみつけた、題名に石がつく映画をひとつ取り上げます。第一回目の今日は1974年の映画『石と足輪』。この記事のためにAmazon Primeに入ったのだからその本気度はきちんと評価してくださいね。まあ、30日間無料のお試しカードが来たんですけどね!
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『石と足輪』の概要
あらすじ
石と足輪
アジットとランジートは過去の困難から盗賊に。ランジートはアーシャに恋し、ギャングを去る。サルジュがアーシャとアジットを誘拐。ランジートは警察と連携し、脱出して救出しサルジュと決着。
この概要を見てなぜこの映画をと疑問に思った人も多いのではないでしょうか?Prime Videoの検索欄で『石』と打つと色々な映画が出てきます。その中であえて本作を選びました。まだ誰も観ていないのではと思わせるゼロ評価に、検索結果で一番下に来ること、製作国の表記すらない簡素な説明。そんなの絶対に最高か地雷の二択じゃないですか!
あと、『石と足輪』で検索してもAmazonしかヒットしないところも◎です。予告編がなく需要が不明なのに天下のPrime Videoにはある。2時間と長い映画なので観た後で後悔するのか恍惚に浸るのか、今からとても楽しみです!
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観ました!
『石と足輪』の感想
冒頭
冒頭からこの映画の製作国がわかりました。Goverment of IndiaによるCentral Board of Film Certificationが映し出されたからです。日本におけるところの映倫か何かなのですかね。インド映画を観たことがなかったのでわからないのですがこれが普通なのでしょうか?
今回はRolandのヘッドホンを使い音もプロフェッショナルに楽しみましたよ。一音も聞き漏らさないという断固たる意志も評価してください。冒頭の音楽と馬の足音の組み合わせは暴れん坊将軍を想起させました。70年代のインド映画なのにそこかしこに漂う日本の時代劇臭。鉄砲を撃っても火や煙、血が時々しかでないところも刀で切っても血飛沫が飛ばない時代劇とよく似ていますね。
この映画、開始2分までセリフが一切ありません。ようやくセリフが出てきたと思ったら原語なのに字幕なし。一瞬絶望しましたが画面右上で字幕の設定ができたのでもう一度字幕をONにして仕切り直しをしました。そうしたら字幕が一昔前のGoogle翻訳みたいでした!笑ったやり取りは『- 停止! - 動く!』(38分頃)。きっと「止まって!」「行かせろ!」とかなんでしょうね。こんな感じで意味は大体、大っ体わかります。前後で内容がチグハグすることもありますが……。あと、基本的に敬語なので盗賊なのに威圧感、というか怖さがありません。
序盤
主人公のひとりランジート・シン(チョテ)は復讐相手に対して暴れまわるダイコット(盗賊)です。この盗賊集団は最初義賊のような描かれ方をしています。
主人公はランジートなのですが、もうひとりの主人公とも言える存在がアーシャです。アーシャは盗賊相手に鉄砲を撃とうとしたり言いたいことを言い放ったりします。お嬢さまという設定ですが車も自ら運転していますし自立した存在として描かれています。物語はこの2人を中心に展開していきます。
そして33分あたり、出ましたインド映画名物の踊り。70年代にはもうすでに映画における踊り縛りは確立していたのですね。本作には合計4回の長いダンスシーンがありました。聞く限りにおいてはインド映画における踊りは唐突に始まる印象でしたが、この作品ではきちんとした流れのなかで始まっています。非インド映画の方が表現の名の下によっぽど突然踊ることが多いと思います。他のインド映画はわかりませんが、本作で女性の1人踊りは性的な誘惑と結び付けられています。一方、集団での踊りは祭りの最中でのことでした。男女関係なく踊っています。アーシャは集団と単独の2パターンで踊る唯一の存在です。
さてこの序盤でタイトルにも入っている「石」の意味が少しわかります。ランジートたちのアジトは渓谷にあり、そこが岩窟なんですよね。石はこのランジートたちがかつて追いやられた場所を指しているのだと思います。もうひとつのタイトル「足輪」の回収はもうちょっと先になりそうです。
中盤
中盤で目を見張るのはランジートの兄アジット・シン(タークール)の語りです。46分40秒あたりでアジットは世間一般に対する彼の見解を述べます。例えば、「飢餓を引き起こすために買いだめに耽る」「その同じ穀物が人の名誉のために取引される」「偽薬の販売により、人々は何人かの罪のない命を殺す」といったことです。この映画では「名誉」が女性の貞操という文脈で使われているので、独自に翻訳をすると「食べ物のために性を売る=貧困ゆえ身売りする」ということになるのかもしれないと思いました。実際に売春を思わせるシーンも映画内に登場します(中年女性が「育てた」ディララという少女は盗賊団の男たちの前でランジートを誘惑するように踊る)。インド映画全般がそうなのかはわかりませんが、本作において女性がひとりで踊るときは男を誘惑する表現になっています。アジットの語ったことは当時のインドの社会問題を反映していたのかもしれません。
シャンカー/ルという道化役は良い味を出していました。最初は三枚目のお金持ちおぼっちゃんなのですが、途中でこいつ相当頭が切れるぞと判明。ランジートとは相性抜群の良いバディでした。エンタメ映画に欠かせない笑いの要素をきちんと押さえています。
終盤
終盤は悪役のサルジュが光るアクション多めの構成です。サルジュ役の俳優はインドの人が見ても演技がうまいと思うのではないでしょうか。見た目からもうものすごく悪いオーラが出ています。アーシャを岩窟で監禁してから徐々に酒を飲むのですが、時間経過とともにだんだん顔が赤くなっていくんですよね。そういった細かい演出も見どころです。そしてもうひとりの名脇役、警察官の上司みたいな人。この人は善人に描かれているのですが見た目でそうだとわかります。警察が盗賊に協力するなんて実際はあり得ないことだと思いますが、この善人上司はランジートを信じ協力します。本作は話がエンタメとしてよくできているなあというのが第一印象です。ハリウッドのアクション映画の多くも結局はこのようなありえない絆の物語が多いですからね。
最後の戦いはアジトとその近くの石原で行われます。映像が石にフォーカスしているわけではないのでどのような石が転がっているのかは判別がつきかねますが、丸っこい石が多かったので柔らかそうな印象を受けました。柔らかい石ならそう、火山石の可能性がありますね!
本作は盗賊の映画なのですが、同じ時期に作られた『ゴッドファーザー』(1972年)を思い出させます。ならず者集団内のルールと血縁(家族)の間を揺れ動く天秤が両作に共通しています。ゴッドファーザーに家族愛は見受けられませんが、石と足輪では家族愛が至るところで勝ってしまいそれが引き金となって盗賊団に亀裂が生じます。コルレオーネファミリーは存続していますが、盗賊団はランジート以外はあの世に行き彼は盗賊をやめたので事実上崩壊しました。
最後
この映画で特筆すべきはその終わり方です。正直に告白すると、この作品を鑑賞中に何度もインターネットが止まり途切れ途切れで観ていました。一番最後のシーンもネット回線の不具合かと思って何度も更新しましたが改善せず。もういいやとそのまま観続けたらなんと、インターネットはきちんと通じていたのです!何を言っているのかわからないと思うので実際に観てみてください。映画通はもしかしたらこういう終わり方に慣れているのかもしれませんが、私にとっては新鮮でした。また、THE ENDの文字が出てくる時の雰囲気は鈴木清順の『ピストルオペラ』のような感じを受けます。
まとめ
いかがでしたか?石縛りがなければ『石と足輪』には絶対に出会えなかったと思います。映画を観終わっても足輪がどこにも出てきていないのですが、装身具なので踊りあるいは踊り子のアーシャを指すのでしょうか。石はランジートが育った渓谷を指していると思うのでランジート。ということは題名の意味はランジートとアーシャなんですかね。そう考えると文学的な見た目のわりにはわりと凡庸なタイトルです。『石と首輪』の方が物語的には合っていると思います。
ランジートがこの後どうなるかのヒントは最後のシーンに手がかりがあるのだと思いますが、なんせ終わり方が抽象的なのでどうなるかは個々人の判断に委ねられます。最後のセリフはヒンドゥ教の聖典か何かからの引用なんですかね。インドに対する教養を求められる作品でした。
この映画は色々な意味でおもしろいです。もうすでにPrime Videoに入っている方は冒頭だけでも観てみてはいかがでしょうか?よくある話の構成だとしてもエンタメとして充分楽しめますよ!
『石と足輪』内の石拾いたい度
⭐️⭐️
参考:
ピストルオペラ
ゴッドファーザー
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