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短編小説

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短編「わたしはあしながおじさんなんかいらない」⑧

短編「わたしはあしながおじさんなんかいらない」⑧

ただ、わたしには母がどんな想いでそれを見つめていたのか、いくら考えてみても分からなかった。

一つだけ言えるのは、ここに立った者は、心に溜まった穢れを洗い出され、告白を促されてしまうだろうということだった。わたしがそうだったから、きっと幼い母もそういう想いに浸っていただろう。写真の母が神父の隣で笑っていたのはそのあかしだった。その微笑みは、わたしが知っている、あの作り物めいた笑いではなかった。少な

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短編「わたしはあしながおじさんなんかいらない」⑥

短編「わたしはあしながおじさんなんかいらない」⑥

それからというもの、わたしは暇を見つけては紗英の店へ顔を出すようになった。

紗英の料理は疲れた身体を癒してくれたのみならず、寂しさで震えた心を温めてもくれた。わたしは、暗く閉ざされた人生に光明を求め、さらには、喪われた母親の温もりも求めた。

もっとも、紗英の方も、まったく同じことを考えていたかもしれなかった。彼女は、母を喪った寂しさを、わたしで紛らわせようとしているふしがあった。

母と紗英は

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