【創作】大納言あずき
前書き
これは創作物であり、実際のプリキュアとはなんの関係性もないことや、プリキュアを卑下する目的はないこと等をご理解頂けると幸いです。
時が過ぎるのは早いもので、高校一年生の冬を迎えた。通学に電車を使うようになり、毎日のように制服に腕を通すようになった。その制服に加えマフラーを装備し始めた頃、駅の自動販売機の左下、ホットと書いてある商品の並ぶなか、黄色やオレンジ色のコンポタージュや、はちみつレモン、柚子湯、キャラメルラテが並ぶ中、1つ赤色のようなすこし黒っぽい…あ、小豆色の缶が目に留まった。
大納言しるこ
強く冷たい風が吹き、伸ばしかけの髪が視界に入り暴走する。髪を退かすためにポケットから出した無防備な手は早速冬の外気の洗礼を食らう。早めに手をポケットにしまったつもりだったが、手は完全に冷えきっていた。早急に温めなければ。
ピピッ ガコッ
不可抗力。決して今まで飲んだことが無くて気になっていたとかそういう訳では無い、決して。これは不可抗力だ。少ししゃがんで手に取った缶は今まで触ったことのないすこしボコボコしたものだった。掌の上を撫で指で包み込む。手を伝わるその熱は少し痛いくらいだ。
いただきます
カパッ
ふわっと広がる湯気に頬が緩む。まず1口。口内を駆け回る熱に少し驚いたので、味わう暇もなく飲み込んでしまった。もう1口、次はしっかり味わって。
甘く、無い…
家でしかおしるこに触れてこなかったので無理は無い。本来小豆を煮ることからはじまるおしるこだが、彼の家のものは餡子を水の中に溶かし入れて作る為だ。勿論餡子として市販されているものは既に甘くしてあるので、自ら小豆を砂糖を入れて煮るという工程が無いまま大量の糖分が溶け込んでいるのだ。空の缶に温もりはもうない。家の味を想像していたからか、どこか味気ない気がした。見上げた空は雲ひとつない凍て晴れである。
キラッ
空に光る星。今は昼なのにと目を擦るとその間に降ってくるような風が吹いた。
「こいつまめ!激甘粒餡からお汁粉を作るという小豆に大しての冒涜を犯した愚か者は!」
「ありがとうビーンズ。いくよ、変身」
「艶やかな赤は情熱の印 キュアショウズ!」
「煌めく黄色は希望の印 キュアチャナ!」
「麗らかな緑は穏やかな印 キュアグリンピース!」
「輝く太陽は実りの印 キュアリンネウス!」
「弾けて 4人の美しき種子
おまめプリキュア!」
ドーーン
状況が読み込めない。確かに餡子からお汁粉を作るのは小豆に対する冒涜だったかもしれない。だが、それが今の今まで自分の中の常識だった…こんな所で、折れ、砕けても良いのか…?果たして自分はそれで…!?
「出たなプリキュア…
食くらい自由にさせろ!」
気が付かぬ間に、本当に気が付かぬ間に腹の底から声が出ていた。まったく、食に対する人間の執念は強いものである。しかし、そんな執念は即刻折れる…いや、折られることになる。
「貴方もこし餡になりなさーい」
「ひよこ豆は小さくてもいっぱい食べるとお腹を下すんですー」
「その莢剥いて差し上げます」
「鬼は外!福は内!!」
拳をあげた瞬間タコ殴りである。こっちはまだ彼女達を1発も殴っていないのに。
「くっ…先週親父にグーで殴られたばかりなのに」
膝をつくと彼女達は変なもの、恐らく武器をいそいそと用意し始めこちらに向ける。
「プリキュアビーンズシュート」
クソダサい台詞だこと。そう思うが最期、自分の中に眠っていた邪悪な心が消えた。
「美味しく実りましたっ」
とてもスッキリした気分だ。どのくらいスッキリしたか例えるならYouTubeで角栓が取れる動画でとてつもなく大きく長い角栓が取れるのを見たくらいスッキリした。いやもっとだ、とにかく、かつてないほど心は晴れやかで澄み切っている。
「さあ、本当のお汁粉を味わいなさい。」
ピンク色だった変身が溶けた姿の少女がそう言いさっきの大納言しるこを差し出す。静かに受け取った。
カパッ
熱くてやけどしないように、ゆっくり。落ち着いて1口。
「…北海道産小豆の味がします」
4人の少女はニコッと笑った。
「ようこそ、こちら側へ」
そしてよく分からない生命体もひょこっと姿を表した。
「今日からお前もプリキュアの仲間まめ」
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