見出し画像

「アパレル店員やっててよかった」と思う瞬間は突然に


今年の元旦初売りは、ひとりぼっちでスタートした。十数年経験したアパレル人生のなかでも初めてのことだった。

というのも、コロナが明けてからもお店の客足は以前のようにまでは回復していない。

福袋もやらない店舗が増えたし、全盛期ほど人員を置く必要もなくなった。残業が減るの素晴らしいことだが、ひとりでスタートする元旦は結構寂しかった。

前は「福袋…初売り…予算…ヒィ…」と大晦日は寝つけないほど元旦がくるのが怖かったのに、落ち着いてしまったらしまったで「もっともみくちゃにしてほしい!!」なんて思うんだから人間とは勝手な生き物である。


さておき、私はいつもの土日よりほんの少し混雑しているほどの落ち着いた店内で、売上も思うようにふるわずこりゃどうしたもんか…と悩んでいた。

数字が振るわないと、気持ちは焦る。
焦ると、お客様には逃げられる。
お客様に逃げられると、へこむ。

負のサイクルに飲み込まれそうになりながら、ある言葉を思い出した。


「普段からできていないことはここぞというときにもできないし、逆に普段から当たり前を大切にしていれば、それは大事なときに自分を守ってくれるよ。いつも通りで大丈夫!」


ずっと前の元旦のオープン直前、見るからに顔色の悪い私に、その頃の店長がかけてくれた言葉だ。

焦ったり、悩んだりしたときの私のお守り。


そうだった、そうだった。
いつも通り、いつも通り。
それでいいんだった。


気を取り直してレジに入る。
以前より混んでいないとはいえ、それなりにお客様で賑わう元旦の店内ではゆっくり接客もできない。ならば、せめてレジだけでもお客様に気持ちよくお帰りいただけるようにしたい。

(今年もよろしくお願いします、あ、おつりは小銭からお渡しのがいいかな、値引き間違えないようにしなきゃ、紙袋はどのサイズがいいかしら、急いでたたんで、あら、レシート赤い線入っちゃった)

いろんな情報が忙しなく入り乱れる脳内に「あの、」と突然、お客様の声が響く。

お会計は済んでいるし、あとはお品物を渡すだけなのだが、なにか間違えただろうか。

レジミスか、商品不良か、それとも何かご意見が…と、またしてもよくないイメージが巡る。


その不安を悟られないように「はい!」とつとめて笑顔で顔をあげると、思いがけない言葉が飛び込んできた。


「なんか、すごく素敵な対応ですね。また来ます」


照れくさいような笑顔で、そう一言だけ伝えてくれたその方は、笑顔でお店を後にされた。


わざわざそんなことを言ってくれるなんて、なんて素敵な人なんだろう。なんて勇気のある人なんだろう。

危うく、レジで泣いてしまうところだった。


どれだけ大変でも私がアパレルをやめられない理由、第一位はこれだ。

一言、たった一言のために笑顔を絶やさず、いつも元気に、誠心誠意で働こうと思えるのだ。


この瞬間から、私の今年の抱負は「魔法の言葉をかけられる人になる」に決定した。


ぎゅっと強めに目をつむって、ほんの少し霞んだ視界を元通りにする。

素敵なあの人に負けないように、今年もありったけの笑顔とありがとうを届けていこうと思えた年明けだった。


いいなと思ったら応援しよう!

にほ
サポートしていただけると、切れ痔に負けずがんばれます。