見出し画像

顧客理解の流れ:量的理解から質的理解への段階的アプローチ

こんにちは、Marketing Strategistの丸山です。
今回はロイヤルティプログラムの構築等、CRMを含む全マーケティングに必要な顧客理解を整理してみました。基本的なことを紐解いていますので、ぜひ最後までご覧ください。

1. はじめに:ロイヤルティプログラム構築時の顧客理解課題

ロイヤルティプログラムの構築プロジェクトに携わる方々の多くが、その初期段階で共通の課題に直面します。「優良顧客とは誰か」「どのように顧客を育成していくべきか」―これらの基本的な定義の設定に悩まされているのです。既存の会員ランク制度や購買金額による単純な分類だけでは、効果的な育成戦略を描くことができません。
効果的なロイヤルティプログラムの設計には、顧客の現状把握と成長可能性の理解が不可欠です。顧客の成長段階や成長パスに応じた施策を展開することで、真の顧客ロイヤルティを構築できるのです。
しかし、現代のマーケティング環境では、データ過多による新たな課題が生じています。行動ログやクリック履歴など、取得できる顧客関連データが膨大なあまり、質の高い顧客理解(施策への反映性の高い質的理解)がしにくくなるケースがあります。購買金額だけの分類・セグメンテーションには、以下のような限界があります:

  • セグメント間の移動(顧客の成長)の視点が不足

  • セグメント内の顧客洞察が不足

  • 結果、データによる分類に終始し、質の高い顧客理解に至らない

これらの課題を克服するには、量的理解と質的理解を段階的に深めていくアプローチが必要です。

2. 顧客理解の全体像

顧客理解の体系は、以下のような入れ子構造で捉えることができます:

  1. 最も外側の枠組みとして、9segs®による顧客セグメンテーションがあります。これは、顧客全体を俯瞰的に把握し、構造化するための量的な基盤となります。この9segs®の枠組みの中で、セグメント間の移動や変化を捉えていきます。

  2. 9segs®の各セグメント間には、成長パスが存在します。これは、顧客がどのようにして上位セグメントへ移行していくかを示す道筋です。ウォレットサイズ・シェアの拡大、LTVの向上、利用カテゴリーの広がりなど、顧客の成長プロセス全体を表現します。

  3. その成長パスの中で、具体的にどのような体験や行動によって顧客が成長していくのかを示すのが、カスタマージャーニーです。認知、検討、購買、利用、推奨という一連の流れの中で、各タッチポイントでの具体的な行動と、それを促進または阻害する要因を明らかにします。

  4. そして、これら全ての背景には、質的理解という深層の視点が存在します。なぜその行動を取るのか、どのような心理状態や状況にあるのか、どのような価値観や動機を持っているのか―これらの理解が、各階層での施策の実効性を高める基盤となります。

3. 各要素の詳細解説

3.1 P&G式9segs®フレームワーク

顧客セグメンテーションの基盤として、まずP&G式の9segs®フレームワークを理解しましょう。このフレームワークは、顧客を以下の5つの基本セグメントに分類することから始まります:

  1. ロイヤル顧客:繰り返し商品を購入

  2. 一般顧客:購入頻度は低いが継続購入

  3. 離反顧客:以前は購入していたが現在は非購入

  4. 未購買顧客:認知はあるが購買経験なし

  5. 未認知顧客:認知、購入経験ともになし

さらに、これらの顧客層を次回購買意向の高低で「積極」と「消極」に分けることで、計9つのセグメントが形成されます(未認知顧客は除く)。この9segs®は、Who(誰に)、What(何を)、How(どのように売るか)というP&Gのマーケティング基本フレームに基づいた戦略立案を可能にします。

3.2 成長パス

成長パスとは、顧客がどのように価値を認識し、取引を拡大していくかを示す道筋です。具体的には以下の要素で構成されます:

  1. 量的な成長指標

    • ウォレットシェアの拡大プロセス

    • LTV(顧客生涯価値)の伸長傾向

    • RFMスコアの推移パターン

  2. 質的な成長要素

    • 利用カテゴリーの広がり

    • 使用シチュエーションの多様化

    • 満足度や推奨意向の変化

  3. 成長トリガー

    • セグメント間の移動を促す要因

    • クロスセル・アップセルの機会

    • ロイヤルティ深化のポイント

3.3 カスタマージャーニー

カスタマージャーニーは、顧客との関係構築プロセスを可視化する重要なツールです:

  1. 接点設計の基盤

    • 認知から購買後までの一連の体験設計

    • オンライン/オフラインの統合的な導線

    • 各タッチポイントでの期待値管理

  2. 行動促進要因の把握

    • 情報探索から購買決定までの意思決定プロセス

    • 各段階での促進要因と阻害要因

    • 顧客の文脈に応じた最適なアプローチポイント

  3. 長期的な関係構築

    • 初回購入から継続利用までの段階的設計

    • ブランドとの絆を深める機会の特定

    • 顧客価値の継続的な向上施策

4. 実践的なフレームワーク

これらの理解を深めるため、以下の4ステップで分析を進めます:

Step 1:量的セグメンテーション

  • 9segs®MAPを用いた現状の顧客構造把握

  • セグメント間のボリュームバランス分析

  • 重点アプローチセグメントの特定

Step 2:成長パス分析

  • セグメント間の移動可能性の検討

  • 理想的な顧客育成ルートの設定

  • KPI閾値による段階的目標設定

Step 3:カスタマージャーニー分析

  • 成長パスを実現する具体的な行動の分解

  • タッチポイントごとの機会と課題の特定

  • 行動を促進・阻害する要因の把握

Step 4:質的理解の深化

  • 各セグメントの心理・状況分析

  • 行動要因の背景にある動機の理解

  • ペルソナ設定による具体化

5. 実践事例:フレームワークの活用

ここまで説明してきた顧客理解のフレームワークは、さまざまな業界で活用可能です。とりわけ、顧客の生活習慣や行動変容を伴うビジネスでは、通常、顧客ははじめはブランドや業態・カテゴリに対して警戒か無関心状態であり、特定の購買状態に至るには段階的な顧客理解と顧客育成が成功の鍵となります。
特徴の異なる2つの事例から、フレームワークの具体的な活用方法を見ていきましょう。

5.1 某健康食品メーカーの事例:健康習慣の定着化

某健康食品メーカーでは、サプリメントを中心とした製品ラインナップを通じて、顧客の健康的な生活習慣の定着化を目指していました。そのために、以下のようにフレームワークを活用しています:

  1. 量的分析(9segs®)

    • 「積極ロイヤル顧客」は複数の機能性製品を定期購入

    • 「一般顧客」は話題の製品を中心とした散発的な購入

    • 「消極ロイヤル顧客」は特売時の大量購入が特徴

  2. 成長パス分析

    • 単一製品の定期購入から複数製品の活用へ

    • 健康診断結果や体調変化に応じた製品提案パス

    • 年齢層や生活環境に応じた段階的アプローチ

  3. カスタマージャーニー分析

    • 健康相談窓口での個別カウンセリング

    • アプリによる服用状況・体調変化の記録

    • メールマガジンでの定期的な情報提供と動機付け

  4. 質的理解の深化

    • 健康意識と実際の行動のギャップ分析

    • 継続利用における阻害要因の特定

    • 年代別の健康課題と製品ニーズの把握

  5. 統合的な施策展開

    • パーソナライズした製品試用ロイヤルティプログラム

    • 効果実感を促す記録アプリの提供・通知シナリオ

    • 健康習慣定着のための情報コンテンツ配信・得点運用

5.2 某コスメブランドの事例:美容習慣の定着化

某コスメブランドでは、スキンケア製品を中心に、顧客の美容習慣の定着化を通じたロイヤル顧客育成に取り組んでいました。以下のようにフレームワークを活用しています:

  1. 量的分析(9segs®)

    • 「積極ロイヤル顧客」は基礎化粧品を中心に定期的に購入

    • 「一般顧客」はメイクアップ製品中心の散発的な購入

    • 「消極ロイヤル顧客」はポイントセール時のまとめ買いが特徴

  2. 成長パス分析

    • メイクアップ製品からスキンケアへの導線設計

    • 季節や年齢に応じたステップアップパスの確立

    • 美容習慣の定着度による段階的アプローチ設計

  3. カスタマージャーニー分析

    • カウンセリングによる肌状態の可視化

    • アプリを活用した使用状況のモニタリング

    • 美容部員との定期的なフォローアップ体制

  4. 質的理解の深化

    • 美容への関心度と実践度のギャップ分析

    • 年齢・ライフステージによる美意識の変化把握

    • 継続利用における阻害要因の特定

  5. 統合的な施策展開

    • パーソナライズド用法・美容学習型ロイヤルティプログラム

    • アプリを活用した習慣化支援システム

    • 成果を実感できる可視化ツールの提供

両事例に共通するのは、単なる商品販売ではなく、顧客の行動変容や習慣形成を支援する取り組みとして、このフレームワークを活用している点です。量的な顧客セグメントの把握から始まり、具体的な行動促進、そして質的理解に基づく細やかなサポートまで、段階的なアプローチが成功のポイントとなっています。

6. まとめ:実務への示唆

効果的な顧客セグメンテーションとロイヤルティプログラムの構築には:

  1. 9segsによる現状の構造把握

  2. 成長パスの明確な設計

  3. カスタマージャーニーを通じた体験設計

  4. 質的理解に基づく施策の具体化

この段階的アプローチにより、施策への反映性の高い上質な顧客理解が進展します。本当に効果があるのか、説明や予測が難しいロイヤルティプログラムだからこそ、深い顧客理解に依拠しつつ、できるだけ論理的に施策に反映された状態を目指しましょう。当社ではワークショップや顧客分析を通じた戦略立案、顧客理解を反映したプログラム設計を支援しています。
今後は、今回紹介した9segs®の他、5segs×5segs=25segsや、サービス利用の幅等を指標にした27segs等、顧客セグメントや理解の方法を紹介していきます。
ロイヤルティプログラムのPDCA各局面が「具体的」に顧客に寄り添っていけますように。


Author

丸山 和人 (Kazuto Maruyama)

丸山 和人 (Kazuto Maruyama)
Marketing Strategist
ロイヤルティプログラム構築や、MAコミュニケーション戦略など顧客育成に関わるコンサルティングサービスを提供


分析・クリエイティブ・製品・最新技術など…マーケティングに役立つ情報を発信中!
チーターデジタルBLOGはこちら


過去セミナー動画やeBookなどのコンテンツはこちら


この記事が参加している募集