賞味期限の長いことばがあった
ふと思い出した、中学2年生の合唱祭。
祭とは言っても、上手かったクラスは賞がもらえるので、れっきとした勝負事である。一生懸命がゆえに、揉めごと(青春!)もきっとあったと思うけれどほとんど覚えていない。
歌うことが好きだったので、1番楽しかったイベントだという印象と、ある一つのことだけが心に残っている。
合唱祭への熱量が高まってきた頃、先生たちからの応援メッセージが載った学年通信が配られた。
「練習の成果を舞台で出し切ってね!」「めざせ、金賞!君たちならできる!」というようなメッセージの中に、
「本番の次の日も口ずさんでいたら、ホンモノだよなあ〜」
と書いている先生がいた。
今でも覚えている、美術の木村先生。
生徒指導の担当で、“学年集会”という名のお説教の時間では、マイクを片手に睨みをきかせる姿が怖かった。見た目もちょっとコワモテで、風変わりな先生。
でも、授業では生徒の作品づくりにとことん向き合ってくれる面白い先生で、私は好きだった。
なんだかゆる〜い感じがするけれど、頭から離れない。
「本番の次の日も口ずさんでいたら、ホンモノだよなあ〜」
どういう意味なんだろう。ホンモノ??
よく考えても意味がわからないまま、“心の引き出し”に15年間しまってあった。
*
実は最近、その15年間しまってあった言葉が、不意に転がり出てきたのだ。
「ここのご飯がほんとにおいしかったよね」
「あの海はきれいだったよね」
最近夫はご飯を食べるときや寝る前に、よく写真を見ている。
先日、夫と初めて海外旅行に行った。
国際線に乗るのが初めてで、お家でのんびりすることが好きな夫が楽しめるか、少し不安だったが、思っていた以上に楽しく、最高の思い出になった。
訪れた国が大好きになったし、いつかの節目にまたいけたらいいなと思う。
何よりも、普段よりテンションが高く、浮き足立っている夫の姿を見てうれしく思った。
自然や動物に心を癒され、美味しいもので満たされ、心も体も一回り大きくなったとてもいい旅だった。
帰ってきてからも旅を思い出したら、ホンモノだよなあ〜
木村先生の言葉が重なった。
「本番の次の日も口ずさんでいたら、ホンモノだよなあ〜」
金賞が欲しいから、そのときだけ頑張るんじゃなくて、
心と体に沁み込む歌を歌って、
歌うことを楽しめたらいいね。
という意味だったのかな。
今回の旅も、帰ってきてから何度も見返すくらい、私たちは心の底から楽しんだ。
普段は写真を撮っても、人に見せたりSNSにアップしたりするときくらいしか見ないけど、毎晩のようにカメラロールを見返したくなる思い出たち。
これがホンモノか。
楽しみにしていた旅行が終わってしまったことは寂しいけど、二人だけのおそろいの思い出ができたことがうれしい。
行く前よりも、少しお互いに優しくなった気もしている。
先生、15年越しだけどメッセージ受け取りました。
ずいぶんと、賞味期限の長い言葉があるんだなあ。