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この本で人生が変わったんじゃなくてこれを読むための人生だったという妄想

俺の高校デビューは失敗だったと断言できる。なぜか。それは間違ったものを参考にして、間違った思い込みを持ったまま、間違った行動をしてしまったからだ。やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。いや違う。間違ったから青春ラブコメにならなかったのだと。青春は事後報告でどうにでもなる、コメもまあ客観的にはどうあれ楽しかった、しかしラブだけは如何ともしがたい。なぜだ。

それを読んだのは中学だった。図書室にはラノベがおいてあるタイプの学校だったので、当然それを読んでいるうちに中学時代は終わった。SAO、カゲプロ、ノゲノラ、はがない、りゅうおう、そして俺ガイル。その結果、自然の摂理として影響を受ける。中二病を飛び越えて高二病を発症した。合併症と診断され、もはや誰にも手の施しようがなかった。

とりあえず手を付けたのは中二病オタクと男の娘を捕まえ友達にすることだった。うん…。今考えると論理が種子島から発射され衛星軌道に乗る勢いだ。おそらく正解のルートはそうじゃない。入学初日に早めに家を出て散歩している犬をラグビーボールのように抱えて高級車に向かってダイブしたあと2週間入院することが唯一の正解だったのだ。ひねくれた作文を国語教師に提出し強制的に女子のいる部活に軟禁されることが肝心だったのだ。しかし、入部したのはメガネの男子×5を擁する将棋部だった。不覚にもここでりゅうおうのおしごと!を読んでいたことが仇になった。将棋をすれば別のルートも開けると思ってしまったのだ。だが、とりあえず中二病オタクは確保できた。将棋部はヤベー奴には事欠かなかった。次は男の娘だ。なので、偶々同じクラスだった吹奏楽部の男の娘に付きまとうことにした。優しかったので話しかけたら言葉を返してくれた。移動教室で横を歩いても文句を言われなかった。ちなみにお昼は部活の友達と食べると言って出て行った。とりあえず自分は満足した。満足したので家に帰って発売されたばかりのスイッチでゼルダをする毎日にギアを入れ替えた。ついでにシャドバとFGOも始めたので忙しかった。

ここで終わればよかったものの、潜伏期間の安定期を経て間違いはまた繰り返された。それは、「文化祭」「劇」「台本」である。
・・・。
もうここまでで勘のいい読者諸君は泣き叫んでいるだろう。やめてくれと。わが敬愛する渡航氏もため息をついていることだろう。書いたのにと。そしてすすり泣く声が聞こえるだろう。これは私である。こうして誰からも望まれぬ悲劇は起こってしまったのだ。劇の台本を書いてしまったのだ。これはもはや主人公の行動ですらない。彼には既に通った道なのだ。これは中二病ゴミカスワナビムーブなのである。自分はいったい何を学んだのか。何も学んでいなかったに違いない。それっぽい言い回しのエッセンスをすすった気になって自らをさも重要人物かの如くふるまう私は滑稽な喜劇で全米を共感性羞恥で震わせたのだった。こんな黒歴史は語って薄めるしかない。その後はラブの要素など一ミリもなく終わった。

そんな生活にも終わりを告げる時が来る。大学に行ったのだ。しかしコロナとかあって結局、今までまともに通えてもいない。挙句の果ては実家ニートだ。こっちは悲劇で売れそうである。そんな生活で暇を持て余したので、俺ガイルを読み直してみた。そしたら全く違う。全然違う。俺がやってきた、分かったと思い込んでいたことは全て掠ってもいなかった。これはその反省である。供養である。最初から最後まで、徹頭徹尾、間違いで筋違いの勘違いだったのだ。

Q『あなたの人生に一番大きな影響を与えた本はなんですか?』

私はどう答えるだろう。もし、あの本が学校の本棚に存在していなければ、もし何かの間違いで出版すらされていなければ、もし作者の人生が少しでも違っていたら、私もこんな生活を送ることはなかったのか。まともな青春ラブコメを過ごせたのか。

いや、違う。ご存じの通り、自分はどうあがいても間違っていただろう。間違い方を間違えるほどなのだから筋金入りだ、保証する。だがあえて言いたい。自分はこの本を読むために生まれてきたのだと。そう勘違いしていたいのだと。人生が変わったんじゃない。この本に会うために生きていたのだと。間違えまくった高校生活があったからこそ、消えた大学生活で再読したときに刺さりまくったのだと。

可能性という言葉を無限定に使ってはいけない。我々という存在を規定するのは、我々がもつ可能性ではなく、我々がもつ不可能性である

四畳半神話大系

自分はこの言葉の解釈をあえて間違える。どうあがいても不可能性で規定されている人生。ならばあえて肯定する。間違いさえも肯定する。不可能のマグマ溜まりを可能の縁石で飛び渡るように、今ある可能性のない人生は今までもこれからもやはりこの本と出合うためにあったのだと。

A『やはり俺の人生はまちがっていない。』

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