幼き頃の私にとって
紅をつけるその仕草は
色っぽさの象徴だった
母の手が紅をとり
指先でそっと塗る瞬間
まるで魔法のように見えた
紅の艶が唇に映ると
母は一瞬で大人の女性に変わる
その姿がまぶしくて
私も早くそうなりたいと思った
小指か薬指か
どちらの指先が紅に触れるのか
そのたびに心が踊った
紅の香りと共に
微かに感じるその味は
幼い私には未知の世界
大人の秘密が詰まっていた
唇に紅をのせる度
女性は少しずつ大人になっていく
そんな風に感じたあの頃
今も変わらず
紅をつける仕草は色っぽい
母の手元で見たその瞬間
私の中に大人の階段があった
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