読書記録63『悪人正機』
吉本隆明、糸井重里
『悪人正機』(新潮文庫 2001年)
聞き手の糸井重里氏による追記、追加が2004年。20年経った今、世の中は変わってしまった。
しかし、吉本隆明の語る言葉には色褪せない魅力がある。
むしろ、2004年よりもグラデーションがわかりやすくなり、区別する明瞭な「線」も引かれた2025年でも通用する金言。
糸井さんが吉本隆明さんからいろんな刺激を直接受け取っている様子が羨ましい。
まえがきで糸井さんがおっしゃる内容が全てのような気がした。
吉本隆明さんの言葉がなぜ「なんかいいな」と思うのか。
自分にとってとある身近な先輩がうるさくてめんどうなのになぜ「このひとのためにうごいてやるか」となるのか。(←上から目線で超失礼!!でも愛してはいます。)
それは、
『ほんとのことを言う人』であるからだ。
決して『語るために語る』人ではないからだ。
耳障りがよい言葉ではなく、誰も傷つけないだけを目的とする言葉でもなく、その人が発する不器用な言葉や本音に惹かれるからだ。
アクティブラーニングなどと言われディベートさせようとする場面に吐きそうになる。形式ばかりを重んじるポスターセッション、準備ができていないプレゼン(もちろんこれは大人に限る。修行中の学生は除く。)や、当人がやらなくていいと思ってる飛び込み営業にげんなりする。設定されたから実施するだけの会議に参加すると意識が飛んでしまう…。『語るために語る』ことのないように気をつけよう。有限で特別な個々の時間を決して奪ってはいけない。奪うからには、納得してもらう(=満足)ために働きかけることが必要だ。
文庫版に追加された「病院からもどってきて」の部分に、ハッと気付かされる。
何かに迷ったり、少し時間を置いて読むとまた違った感覚になるんだろうな。
以下、気になった部分。自分のためのメモ、備忘録。
1、「生きる」ってなんだ→・具体的な問いに対する答えは「なにもない」。頭だけ使って手で考えていないようなものはなにもならない。
2、「友だち」ってなんだ→・小学生くらいの友達はどうしようもないくらいに別々になってしまう。青春期の入りかけ(中学)の時に、生涯で唯一助け合える友人ができる。こう撃てばこう響くがわかること=友情
3、「仕事」「理想の上司」ってなんだ→ただで奉仕するというボランティアが好きではない。自分のテーマを決めて仕事をする(=自分の機能を高めていく)間は、上司がどうの、給料安い、つまんない職場だのは忘れる。仕事ができ、細かく干渉しない自由な空間をつくれる人=理想の上司。怒ったりせず自分がやればいい=リーダー失格。
4、「正義」ってなんだ→高度な資本主義の段階に入ると、現実の人間の行為がもともとあった倫理からはみ出していく。今まで通りの法律では間に合わなくなる。何が正しいか?を決められない=今までの善悪の基準もおかしいんじゃねえかと考えないといけない。自分だけがストイックはかまわない。突き詰めると他人もそうでないと気に食わない=こりゃかなわない。「清貧の思想」はダメ。人間はそういうふうには生きられない。(=これは自分が正しいと思っている人に理解してほしいこと)みんなが同じように一色に染まらないと…は戦時中に散々やって結局無効だった。
5、「宗教」ってなんだ→宗教には深さがあるのではないか(あやふやなこと、怪しげなこと、おかしなことも含め)。吉本の関心=「信ずること」と「科学的に明瞭なこと」をつなげたい。信じるが科学的にあぶなっかしいってなっちゃう。
6、「戦争」ってなんだ→現在を第二の敗戦だと思っている。超消費過剰の超資本主義にふさわしいカタチに変化できずにいる。真剣に考える自分の隣の人が遊んでいたりすると許せなくなってくる=間違っている。
7、「教育」ってなんだ→大学=天才的な人はいかなくともいい。普通の人は一度行ってなんだこういうところかって知っておくのもいい。失恋を経験する、がっかりすることが大切。根本的な判断力を養っておけばあとはその場、その場の必要や利害に応じて学んでおけばいいよという基本的な姿勢が必要。知識なんて古墳時代くらいまでには出尽くしている。(変化がないのだから、どんな研究もたいしたことはないんだとも言える)
8、「素質」ってなんだ→これは長所だと思うところを伸ばしていけばいい。誰でも10年やれば一丁前になる。とにかく毎日を10年やる、それだけでいい。
9、「性」ってなんだ→性同一性障害=文化的なことなのか、習慣的、遺伝子から…?よくわからないので保留。
10、「ユーモア」ってなんだ→ユーモアがない。思考方法にゆとりや遊びがないということ。(吉本自身)考える経路の取り方にあそびがないと思う。笑いやユーモアは小さい頃からの修練が違っている(もともとねえという理屈=育ちであろう)。だからユーモアを身につけないとみたいに考えなくていい。これでいいじゃねえか。
11、「ネット社会」ってなんだ→情報メディアが発達すれば感覚が発達して精神も発達していくといっている情報科学系の人たちは間違っているのでは?精神=魂、心。ギリシャ時代のひととなんらかわっていない。基本的なことは発達が、人間にどのような利益と損害をもたらすか。発達し問題が発生。それに対処するでいい。発達を妨げる理由にはならない。
12、「文化」ってなんだ→おしゃれ=ごく当たり前のことと、前衛的なところ。衝撃的なデザインでも普通の人が普段でも着られるところがある。古典的な部分を心得てやっている。純文学至上をいっても仕方ない。週刊誌がその役目を必然的に背負う。人も才能も集中していくかもしれない。
13、「お金」ってなんだ→経済学者なんかもお金には神秘性があるって言い方をする。得体のしれなさ=物神性という近代貨幣経済以前の呪術的な要素がのこっているからだろう。この点を無視するような学者さんの理屈はみとめらんねえよ。
14、病院からもどってきて→意識的なものは力にならない(いやいや参加するリハビリ。食事。)タモリは持続力の源泉を見つけた=どこかで仕事を遊びなんだと思うようになったから。大真面目にしていたらもうだめだ…になっていまいがち。自然体で続けていくこと。「逸らさないという魅力」=年下、年上関係なく人を逸らさない。真面目な話、馬鹿な話であろうと逸らさない。やわらかくて逸らさない。(いいかげんに人に対応してしまうものであるがそうしない。)管理機構において「管理されている者の利益を第一とする」さえあれば他に何も要らない。未開社会の人、宗教家にいくら話をきいてもわからない。わかるためにはそこに生きていた人と同じようなことをやるしかない。
#読書記録 #読書感想文 #新潮文庫 #悪人正機 #糸井重里 #吉本隆明