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【後編】おっさん心をコロコロ転がした大胆な「ゴマすり」に僕が立ち向かった話

「いやぁ、田中部長と酒を飲むと味が違いますわ」

いや、違うわけがない。

誰が聞いても分かる露骨なゴマすりである。

だが、ベテランの「ゴマすりスト」はポッと出の素人とここから差をつける。
彼らは次に畳み掛けるボソっと発する一言を大切にする。そう、あくまで聞こえるかどうかの「ボソっ」と。

「俺、田中チルドレンでよかったな……」

田中部長は酒も手伝ってこのボソ語に、じんわりと酔いしれる。
田中部長も突っ込めるほどシラフではないので、聞こえていないフリをしつつも上機嫌で帰宅するのだ。

彼らはダメ押しも抜け目がない。
翌日に昨晩のお礼の言葉と併せて酔い覚めと言って缶コーヒーを手渡す。
すると田中部長はベテランのゴマすりテクニックの前に完全にひれ伏してこう思う。

「あいつは分かっとる。次は、もっと良い仕事を与えてみようかな」

ゴマをすっている人間に、ゴマをすれない人間が偉そうな口をきくことなかれ。ゴマをするためには、信じられないほど高度な技術と度胸が必要とされるのだ。

そう、この「後編」は「ゴマすり」によって白が黒になった世界をノンフィクションで綴った壮絶な死闘の完結編である。

【前編 おっさん心をコロコロ転がした大胆な「ゴマすり」に僕が立ち向かった話】

社長が「では最後の質問ですが…」と言いながら質問を投げかけた。

「うちの会社との親和性をどのようにお考えですか?」

「親和性か」
まぁ、比較的によくある質問だ。
僕は慣れたように、同業者の導入事例を滑らかに紹介し始めた。

が、すぐに言葉を遮られた。

「ちがうちがう。そうじゃない。一度導入したら長期の付き合いになる。相性だ、相性。君(営業部門)と我社の相性を聞いているのだ」

おっと、これはなかなか独特な質問だなぁ笑
人と人の相性ってこと?

最後に社長が聞く内容かよ笑
内心、プッと吹きだし笑いをしそうになった。

「良い関係を築けるようにこまめなフォローをさせて頂く」
これしかないでしょ。
この社長さん、それ以外にどんな気の利いた言葉を聞きたいんだろう笑

常日頃から斜に構えて精神の捻じ曲がった僕は、言葉に詰まってしまいモゾモゾとしてしまった。

それとは裏腹にプレゼンで大失敗した隣の無双男は、言いようの無い危機意識でここは一発狙いに行くしか無いぞと思ったのだろう。

前のめりな姿勢のまま、もの凄い勢いで話し始めた。

「我社のサービスをご採用頂きましたら私が御社の営業担当をさせて頂きます。相性というお話でしたので我社のサービスではなく個人的な話をさせて頂いてよろしいでしょうか。

私の家には幼い頃から、御社の商品がありました。

私だけでなく、父や母、そして祖父、祖母。
先祖代々、御社の商品のファンでございます。先日、御社に我社のサービスを提案しに行くことを実家に連絡したところ、大変喜んでくれて、今まで我が家が御社商品に恩恵を授かったものを『今度は返すチャンスが与えられたのだから絶対にお役に立てるように頑張れ』と叱咤激励されました。

もし、ご採用頂きましたらその恩返しの意識をもって営業を担当させて頂きます」
(※会話は一部抜粋にすぎず、実際はこのような内容を2分くらい語った)

う、
嘘やろ笑

イヤ、それはやり過ぎやわ笑笑笑
こいつ、 この大舞台で一か八かの奇策「ゴマすり」を披露しやがったわ。
禁じ手に手を出しよった笑

こりゃあ、あかんわ笑笑笑
おまえ、30歳にもなって訪問先をわざわざ実家に連絡しねーだろよ。
ここまで言うと、かえってワザとらしい笑

なんという大胆な「ゴマすり」やねん。

いい大人から新卒の面接のようなこんな臭いことを聞かされると、ゾクゾクっと寒気がするよねええええ、社長さああああん笑

僕が内心ニタニタしながらパッと社長の顔に目をやった。

・・・・

僕の瞳を通して映った光景は、なんとも意外なものだった。
無双男の「ゴマすり」話を食い入るように聞き入り、まるで感動したかのように笑みがこぼれてるのだ。

そして会議室全体が、社長への同調圧力の場と化す。
社長の反応をチラチラ見ていた出席者が、次第に社長と同じ反応を始める。

「いやぁ、商売ってそういう相性から生まれるしねぇ」
「え?昔はうちは〇〇って会社名だったけど、その頃から?へぇ~そんなコアなファンなんだ。こういう質問してみるもんですねぇ、社長。」

無双男への称賛の言葉が止まらない。

え?ウソでしょうよ笑
ウソでしょ。
え?そういうノリなの?マジかよ、そういう感じなのかよ。

全く自分の想定していた感じと違う流れになり、ど真ん中の正解であるはずの
「良い関係を築けるようにしっかりフォローする」
という言葉を次に発することが、小学生の遠足の感想文
「楽しかったです。また今度行きたいです」
レベルの語彙力に思えてしまって気が動転してしまった。

あのゴマすりの後に僕は何と答えればいいのだろうか。
この雰囲気。
絶対にクサいエピソードを求められているよね?
どうしよ?どうする?

しかし黙っていても、確実に僕のターンである。
無双男への称賛の嵐が去ったあと、会議室は静かで冷たい空気となった。

僕の言葉を待っている。
隣でドヤ顔で踏ん反り返る無双男。
永遠とも感じられる息苦しい時間が流れる。

「ええと、ま、我社と御社は距離的にも近いですし…。ですから担当営業だけでなく、全社をあげてフォローできますし、、、担当者が休んだとしても、、。」

と言いながら、パッと会議室全体を見てみた。
さっきまでのプレゼンの時の光景はどこにいった。
誰も頷いてもいないし、ニコニコもしていない。
「それで?」
って顔だ。

「だからそういう体制だと心の距離、、、とかも、ま、縮まりますし、、、ね、、えぇ、はい。」

慣れない言葉でつなげてみたけど、「俺はいったい何言ってんだ」と自分自身が恥ずかしくなるのでそれ以上に言葉が続かない。

想像通りの地獄だった。
これで「滑った」とかで終われたならば良かった。
あれ、もう社長の質問に対する回答終わり?
まだ続くよね?
無双男のようなエピソードないのかよ?
ないなら即興で作れよ?

的な無言が続く。

いつまで続くの?俺のターン。
というより、最初のプレゼンなんだった?
君たち、僕を支持してたよね、、、

ほどなくして会議終了の時間がきた。
プレゼンでは勝った。しかし妙な後味の悪さだけが残った。

結果は果たして、、、

なんと負けてしまった。納得いかないけど負けてしまった。
長々と語ってきたが、これこそが、このエピソードが教えてくれる教訓だ。

あれから時が経ったけども、結果的に僕は今でも変わらずに斜に構えて捻じ曲がった精神で意味不明に物事を捉えている。

「ゴマすり」は、自分にとって「正しいこと」ではないかもしれないが、組織の中にあっては「有効なこと」といえるかもしれない。

20年も仕事をやってきて思うのは、悔しいけど実力がない人がゴマすりだけで勝ち取るほど仕事の世界は甘くない。

「ゴマのひとつくらい、やろうと思えば俺だって簡単にすれるんだ!」
と思っても、思うのとやってみるのとでは天と地ほどの差があることに気づく。試してみるとゴマをすっている人が、どれほど大変な思いをしてゴマをすっているのかを自分でも実感でき、ゴマすりを悪く言うことができなくなる。

「正しいこと」にこだわることは一見潔いが、もしかしたら本当に達成したいものが見えていないのかもしれない。

相対比較でプレゼンは成功した。しかし、それを発揮できる環境を獲得できなかったことで、次のワンランク上のステージの経験ができなかった。
「人生は選択の連続」と言うが、案件獲得によって生まれていたはずの人脈も無になってしまった。

これは長い人生でみると「機会損失」と捉えることもできる。

そうだな。
僕も変わる時がきているのかもしれない。
ゴマすっちゃう?商品レビュー笑
僕が書いたら、とんでもないものになるよ笑
ちょっとはふざけさせてもらうよ。それでも良い?

業者さああああん。

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