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新規事業と「モチベーションの心理学」
企業の新規事業部門にいると、よく耳にする言葉がある。
「新規事業には必要なのは、情熱だ」
会社の置かれた状況に対する危機感。目指している世界観や夢。変わることない軸であり、周りの人にも伝播するもの。それが情熱。
情熱になりそうな小さな火を抱いた新規事業担当者は、日々その火を絶やさぬよう、風や雨をしのぎ、身をかがめて過ごしているのではないだろうか。
自然に燃える自然発火タイプやだれかにすぐ触発される可燃性は少数派。「どうしたら火がつくか分からない」という難燃性タイプには、モチベーションを上げるスキルが不可欠だ。
そもそも、なんでやらないといけないの?
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新規事業部門に配属された社員は、まず「なぜ新規事業をやらないといけないのか」というところから始まる。それは学校に通う子どもが親に対して「なぜ勉強しないといけないの?」と聞くのと同じように、課題を与えられた人は誰しも抱く疑問だろう。
課題そのものがもつ価値には、興味・実用・文化関連価値がある。「新規事業は面白い取り組みだし、組織にとって効果的な手段で、かつ社会的にも求められている職種だ」と説明されたら、「ならやってみよう」と思える(かもしれない)。くわえて、課題とは別に自我・報酬・対人価値がある。「勉強ができるようになると誇らしいし、成績がいいと良いキャリアにもつながるし、お父さんも期待しているよ」といわれると、子どももまんざらではない気持ちになるだろう。
成功しそうか×意味はあるか
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では課題はさておき、人はどのようにやる気をもつのだろうか。マズローの欲求階層説は有名だが、そういった個人の性格や欲求に基づいた考え方とは別に、『期待価値理論』という考え方がある。主観的に「これは成功しそうだ」という数字と、主観的に「これは魅力的だ」という数字を掛け算して、期待×価値=モチベーションと計算する、という考え方だ。「この新規事業テーマは成功しそう」で「このテーマはやる意義がある」と思えたらモチベーションはMaxだろうが、「できそうもない」上に「意義も感じない」と思っていたらヒアリング一本やる気にならないだろう。
社内に新規事業案件が1つしかない、という組織はほとんどないはずだ。いくつもの案件があるなかで、「このテーマこそ成功すべきだ」と思えないと「この案件が事業立ち上げする必要性はない」と感じてしまい、意味合いが目減りする、ということもあるだろう。
加えて、「成功しそう」と信じられないのも問題だ。自分も組織も、事業立ち上げとともに成長しなければ、その先に成長はない。
成功することがしたいのか、成長したいのか
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これまで順当な評価をもらい、大きな失敗なく生活をしてきた人にとって、「有能な自分を証明したい」という感情を抱くのは当たり前のことだろう。ムダムリムラをなくすよう教わり、効率的に働いてきた会社員は、才能と能力を発揮できる「成功できる仕事」で成功したいという信念をもっている。
しかしそれでは新規事業の雲行きは怪しい。壁にぶつかり、想定が覆り、過ちを認めなければならない瞬間が幾度となくやってくる。有能さを示し続けようとしても、無知であることを晒し続けることになる。そこで必要になるのは、「これから有能さを身につけたい」という『マスタリー目標』だ。壁を乗り越えようと努力を続ける行動量は足腰とアタマを鍛える。大人も成長し続けられる。新規事業だって社会の勉強なのだ。
新規事業はモチベーションが上がる仕事なのか
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新規事業は、期待価値理論からみるとなかなか前途多難な仕事だった。一方で、モチベーションの上がる仕事の方程式からみると、かなりいい仕事だということがわかる。1.多様なスキルと能力が必要で、2.最初から最後まで関わることができ、3.人や社会にとって意義があり、4.自由度や独立性がある。1.から4.までは星5つ付けられるのではないだろうか。
唯一問題になるのが5.評価のための適切な情報が得られる、だろう。新規事業が立ち上がる、という目に見える成果がでるまでは「何をどう評価したらいいかわからない」となりがちな仕事だ。半期の目標を設定し、その達成度で測っても、コントロールできない要因で結果が大きく左右される。
打開策としては、2つ。「評価されるかどうかを気にしない」でいるか「新規事業とは別の仕事でしっかり評価してもらう」だ。気にしないためには、副業やプロボノに取り組んで「外で評価してもらう」というのもいいかもしれない。
モチベーションを高く保ちながら3年5年10年と新規事業立ち上げに取り組み、事業立ち上げ経験を獲得して、また新規事業を立ち上げようと思う人々が増えることを願っている。