見出し画像

読書感想1冊目:姫神さまに願いを/藤原眞莉(集英社コバルト文庫)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

ここから本文

 諸国放浪中の行脚僧、カイが出会ったのは、出会った当初から握り飯を強奪し、容赦ないツッコミを食らわせてくる、恐ろしく自己評価が高くて食い意地の張った巫女装束の少女でした。

”このワタクシの美少女っぷりに悩殺されちゃったのかもねぇ”

本文26ページより

 ・・・と言うと、カイさんがとっても不憫な目に遭う感じ、というか実際不憫満載なのだけれども、実はカイさんもカイさんでなかなかの胡散臭さを持っていたり。
 カイさん、行脚「僧」、つまりお坊さんでありながら髪の毛あり。いわゆる有髪僧。そしてまぁ、しゃべり方も若造的な。
 初対面でも平気で悪態をつく、根性がすわっているのか多少のもめ事にも動じない。そりゃあ胡散臭くなるってもんです。
 そしてそんな胡散臭い有髪僧、カイさんが出会ったのは見た目は美少女、中身は剛柔、読めない食えないなんとも不思議な巫女さま。お名前はテン。
 出会いは握り飯の強奪。どちらも聖職だというのに態度も口も行動も悪いという笑。

 そんな二人の珍道中、もとい大河的ドラマな感じ満載の小説の始まりがこの一冊。

 一冊目は二人の正体()もわからないままなので、お話が進むのと同時、探り探りな展開。
 お話の主題は安房国(現在千葉県南部)の稲葉城の主、里見さんちのお家騒動。
 現里見家投手の義豊さんに頼まれて、力を貸しているというテンは、誰かに狙われていた。(テンは誰かはわかっているのだけれど)
 命を狙われた場面でカイさんに出会い、助けを求めたというのが冒頭説明の真相・・・というところ。
 しかし、読み進めるなかではこのお家騒動が中心的に語られるようでありながら、大きく感じるのは二人が「誰か」とわかるところが面白い。

 カイは行脚僧だけれど道々の寺で所在を伝えなければならない。どうやら天台宗の大物に監視されている様子。さらに、「宿曜」という占術も使えるため、なんだかステータスが高い。
 RPGでいうなら賢者だけど魔法使いみたいな、もとから強いぞこいつ、な印象を受けてしまう。
 それに、なにやら二十歳になったら絶対に出て行く、と決意する理由、背景があるようで、とってもとってもキャラが濃い。

 テンは見た目は十歳ほどの女童でありながら、つかみどころのない言動と仕草と色気を持ち合わせている癖もの。みんなが素直に従ってしまう、もしくは抗いきれない説得力でもって飄々としている。
 里見の家には鶴岡八幡宮の使いとして現れたと言い、しかも女神様を召喚したり一緒に観光したりする仲とのこと。
 これまたキャラが濃い。
 神さまゆかりの人、というか完全に人ではないのにどこかしらギャルっぽさも垣間見えて、読者も怪しむより前に、カイさんをどついたりからかったりしている様子を眺めているほうに気をとられてしまう。

 そんな二人の正体がしっかりわかるのは後半部分。
 義豊の願いは二十歳になったことだし、きちんと家督を継いだから一人前と認めてほしい、からのうるさい叔父からの自立だけど、腹心の家臣や叔父とはあんまりうまくいってない。
 のほほんとしていて頼りないところが玉に瑕というところで、平和な世の中ならきっと愛される君主になったんだろうなという感じです。
 個人的にはテンに「巫女様巫女様」と他力本願な感じがなぁ・・・と印象が薄いです。投手なのに。
 そして、義豊が自立したいと思っている相手の叔父が、また定番の悪いヤツ。
 叔父の実堯さんはまんま定番なので、読めばわかります。小物笑
 カイとテンの正体が判明しつつ、そこを懲らしめる場面は圧倒的カリスマ、力でねじ伏せる系なのでスカッとはするかも。
 というか、二人の正体をしっかり説明するための布石にしかなってないな・・・

 ほかのキャラクターも、なかなか面白い。
 「顔のいいおにーさん」(本文にほんとに出てくる)こと千倉景行さん、冷静沈着で主の義豊さん大好き、しかも義豊さんの妹をお嫁にいただき幼妻として愛でているという、なんとも素敵な設定。
 でも、里見の二人と、さらにカイ&テンの二人に振り回されるという難儀な人だったり。真面目すぎて悩んでてはげそう・・・と読んでました。
 若殿さまこと義豊の妹かつ顔のいいおにーさんこと景行さんのお嫁さんのみおさんも、出番が少ないながら印象に残ります。景行さんに全力らぶ、な感じが伝わっているところが好き。

 そして。本作で私が推したいのは、推し神さまが出てくるところ。
 テンが召喚した女神様は数柱。そのなかに、厳島神社の三女神がいらっしゃるのですが・・・
 その描写で私は「そうだ、厳島神社にいこう」となったわけです。もともと誓約の儀で生まれた神様とは知っていたのだけれど、登場時と活躍時の印象が良すぎて、いまだ変わらず大好きな女神様たちだったり。
 ほかにもちょこちょこと神仏系のお話があるのは、神話好きには結構にやにやしながら読めてしまうお話だったり。

 もともとこのお話が史実にフィクションを織り交ぜながら進んでいくシリーズなので、エンタテインメントとして楽しみながら歴史を学ぶこともできたりするので結構楽しい。
 ずいぶん長く続いて、最終的には江戸時代の始まりあたりまでいくはず。

 さらに、読み進めるうちになぜ、テンがこんなにもカイにこだわるのかというところの伏線が回収されるのも、乙女小説的な展開としてはおいしい。

「ーーーー離さない」
「は?」
 脈絡のない言葉に、カイはテンを見やる。いったい今度は何を言い出したのか、と。
 女童の紅い唇が三日月の形に歪んでいく。
「あたしは、一生、カイを離さない」

本文163ページより

 熱烈な表現過ぎる・・・!
 人生いただく宣言!!! お話の中では流れがよすぎてさらりと流してしまいやすかったりするし、カイさんてばけっこうおにぶさんなもんだから会話の中に紛れ込んでしまうのだけど、ほんとにこれが、テンの願いなんだなぁと思うのですよ。あとから!!!

 読んでる間は勢いに飲まれがちだけど、わりと心地よい話展開のこのお話。
 そも、このシリーズ、ずいぶん前にきちんと完結まで読了済にもかかわらず、引っ張り出してきて今回感想を書くことにしたのは大河ドラマ『どうする家康』の影響だったり。
 『姫神様に願いを』シリーズに徳川家康や織田信長や武田信玄も出てくるし、そのあたりを思い出したいなと思ったのが再読の理由。
 大河ドラマを楽しみつつ、このシリーズをもう一度楽しもうと思えたことがとても嬉しいなと思いつつ。また続きはゆっくりと。

*たいへん古いシリーズのため、紙媒体書籍の入手は困難。現在電子書籍は販売中です(2023.4月末現在)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集