LVMHも投資したNY発の人気ブランドAimé Leon Dore(エメ・レオン・ドーレ)が作るニュー・ラグジュアリーのプレイブック
行列を嫌うニューヨーカーが、連日100人以上の行列を作るほどのブームを作った人気ブランド「Aimé Leon Dore(エメ・レオン・ドーレ)」。2022年にはLVMHから出資を受け、ラグジュアリーとストリートを融合させる次世代ブランドとして注目を集めている。
Aimé Leon DoreはいかにしてNYのムーブメントの中心となったのか?その背景と戦略について3つの視点から紐解いていく。
NYで生まれ育ったファウンダーならではの「NYらしさ」が体現されたブランド
Aimé Leon Doreの創業は2014年。90年代のアメリカン・プレッピーとストリートウェアを融合させたデザインが人気を呼び、2019年頃から若者の間で人気に火がついた。
創業者のTeddy Santisはラルフローレンから多大な影響を受けていることを公言しており、古き良きアメリカのエッセンスをベースにしながら、ストリートウェアの要素と機能性を取り入れ、現代的に再解釈しているのがAimé Leon Doreの特徴だ。
セレブリティやスポーツ選手にも愛用者が多く、特にNew Balance 550とのコラボスニーカーは爆発的な人気となり、一時期は「NYの誰もがNEW ERAのキャップとALD×New Balance 550を身につけている」と創業者自身が語るほどの加熱ぶりを見せた。
Aimé Leon Doreがアメリカの中でもNYを中心に熱い支持を受けているのは、ブランドの創業者であるTeddy Santis自身がNYで生まれ育ち、街へのリスペクトを持ってリアルなNYカルチャーを体現してきたところが大きい。彼自身も10代の頃からNYのラップやバスケといったストリートカルチャーに親しみ、そのライフスタイルをAimé Leon Doreにも反映させているという。
Teddy SantisはSSENSEのインタビューで「ストリートウェアはNYで生まれたものだと強く確信している」と語っており、自分自身が生粋のニューヨーカーとして培ってきたNYらしさを、プロダクトを通して表現していると語っている。
最近アメリカではブランドを語る際に「authenticity(正統性)」というワードがたびたび使われるが、ニューヨーカーだからこそ共感できるリアルな「NYらしさ」がブランドのauthenticityとしてAimé Leon Doreの強みにつながっている。
一方で、急激な人気の高まったことによってTeddy Santisはブランドが一過性のムーヴメントで終わってしまう危機感も強く抱いていた。そこでブランドの世界観とストーリーテリングの強化に注力し、それがよりAimé Leon Doreの人気を高めることにつながった。
Z世代に向けたトレンドドリブンなインスタブランドが乱立する時代に、あえて流行に乗るのではなく自分たちの世界観を作り上げることで、他のブランドとの差別化を図り、トレンドを追うのではなく創り出す側としての地位は盤石なものとなっていった。
特に力を入れているのがシーズンごとのルックブックで、創業から現在にいたるまで、クリエイティブディレクターでもあるTeddy Santis自身がディレクションを手がけている。
ダークカラーを基調に、90年代のアメリカからインスパイアされた写真はどれも「Aimé Leon Doreらしさ」が表現されており、ブランドのファンでなくともAimé Leon Doreのルックを参考にしているというファッショニスタもいる。
また、ルックブックとは別に人気を博しているのが、Teddy Santisが個人的に親交のあるアーティストやアスリートをアンバサダーとして起用する「Friends And Family」キャンペーンだ。
「Friends And Family」はシーズンごとのキャンペーンとしてほぼ定番化しており、創業者と関係が近い著名人を起用することで、コミュニティやつながりを重視するAimé Leon Doreの哲学も表現している。
このように、独自の哲学や美学を持ってブランドを確立している点が、Aimé Leon Doreの人気の理由のひとつでもある。
店舗は「顧客が過ごす場所」。ブランド哲学がいかんなく発揮された店舗デザイン
Aimé Leon Doreの哲学は、店舗デザインにも反映されている。
NYとロンドンの店舗はどちらも「店舗は顧客が過ごす場所である」というTeddy Santisの考えのもと、商品を買うためではなくAimé Leon Doreの世界観のなかで過ごすことを意識した店舗づくりがなされている。
本店であるNYの店舗では、入ってすぐのスペースには商品ではなく古いポルシェが顧客を出迎える。一つ目の部屋は玄関のようなものであり、Aimé Leon Doreの世界観に入り込むための緩衝材のような役割を果たしている。
次の部屋には商品が並べられているが、ここでも商品は美術品のようにゆとりを持ってディスプレイされており、試着室にいたるまでその美意識が行き渡っている。
さらに、その奥にはバーのようなリラックススペースがあり、アートなどの高額な商品がメインにディスプレイされている。商品が置かれているスペースはほんの一部で、店舗の大半は顧客が過ごすためのスペースとして作られている。
以前は世界中の160の店舗で販売していたAimé Leon Doreだが、パンデミックを機に販売チャネルをNYとロンドンの店舗、オンラインの三箇所に集約。店舗体験を高めつつ、ブランドとしての希少性を高めることに成功した。
一時期は店舗に入るのに長蛇の列ができていたが、入店可能な時間になったらテキストメッセージを送る仕組みを導入したことで行列も解消され、店舗体験の満足度も向上させた。
また、店舗に併設されているAimé Leon Doreのカフェ「Café Leon Dore」もNYの人気スポットだ。
Aimé Leon Doreの商品の購入が難しい層や自分のスタイルとは異なる層にも、カフェを通してアプローチすることでTikTokやInstagramで「ホットなスポット」として紹介され、人気が高まっていった。
製品としての魅力だけでなく、ブランドの世界観を体験する場所としての店舗デザインの作り込みが、Aimé Leon Doreの人気を支えている要素でもある。
一過性の「シーン」ではなく、新たなラグジュアリーのあり方を牽引するブランドへ
NYの若者を中心にブームを巻き起こしたAimé Leon Doreは、2022年にLVMHから出資を受けたことでも注目を集めた。LVMHの御曹司であるAlexandre ArnaultがAimé Leon Doreの顧客であり、今後のラグジュアリーブランドにとって学びの多いブランドであるとして出資を決定した。
New York Timesの取材によれば、LVMHがAimé Leon Doreに注目したのは下記の3つのポイントだという。
ランウェイやファッションウィークといった伝統的な手法に依らずにシーズンごとのアイテムをドロップしている
ペイドマーケティングや広告をしていない
フラッグシップストアが顧客を惹きつけるパワーを持っている
つまり、顧客との直接の結びつきを強固にすることで従来のラグジュアリーブランドの戦略とは異なる手法でブランドを築き、ファン層を拡大している点が「新しいラグジュアリーブランドのあり方」として注目されたということだ。
近年はラグジュアリーブランドもヒップホップやストリートカルチャーから多大な影響を受けているが、オーセンティックなブランドらしさと現代的なセンスのバランス感覚に優れたブランドとしても評価されている。
一方で、ファッション好きの間では製品のクオリティに対して人気が加熱しすぎているという見方もある。創業者であるTeddy Santis自身も、幼少期からNYのトレンドの移り変わりの激しさを身をもって感じてきた経験から、「 "シーン"はいつか終わる」という危機感を抱いているという。
Aimé Leon Doreが一過性のブームで終わらないためには、ラグジュアリーブランドが歴史によってヘリテージを築いてきたように、時間をかけて支持されるものづくりが必要不可欠と言えるだろう。
Teddy Santisも自身がティーンの頃にラルフ・ローレンのポロシャツに感銘を受け、毎日着続けていた経験から、「表面的には違いがわからないように見えても、何十年もの間作り続けられてきたことに納得する製品というものがある。それは時間の問題であり、ALDもそこを目指している」と語っている。
"シーン"として消費されることなく、ラグジュアリーブランドの新しいあり方を牽引するブランドになっていけるかどうか、Aimé Leon Doreはまさに今正念場を迎えている。
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