萩原慎一郎 歌集「滑走路」を読んで。
短歌が好きです。自分だけの日常と感性を31文字に閉じ込める。それが、思いのほか多くの人に届く。自分だけの日常と感性が、沢山の自分だけの日常と感性に響いていく。夜光虫のよう。自分の命の欠片でもある日常とそれに付随する感性を夜の海に投げ込むと、飛沫を受けて水面下でゆらゆら光る夜光虫。みんないたんだ、と思う。投げた方も、海面で光る夜光虫も。
「滑走路」もそんな歌集です。やっぱりいたんだ。
NHKで特集されたりしてご存知の方も多いかと思いますが、「滑走路」は自殺した萩原慎一郎さんの歌集です。萩原さんは、学生時代いじめに合い、成人してからは非正規社員として働きながら短歌を詠み続けました。32歳でした。
非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている
夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから
この歌集で、自分はいま夜光虫のように光っています。自分も非正規で働きながら生きてます。疎外感。ここでは脇役。ここの主役は自分ではない。そういう時間を強いられることの不甲斐なさ。抗えない自分への苛立ちや焦燥。そういうものが全て、この歌集を受けて光っています。
光続けますずっと。それだけ、この歌人が夜の海に放り込んだものは大きい。日常どころか、人生そのものを投げ込んできた。そこに居合わせた夜光虫の一匹として、こういう歌人がいた、てことをなかったことにはできない。そうすると光続けるしかない。この歌人が放り込んだ人生そのものが海底に沈む時がきても、その飛沫を浴びた者がその刺激を忘れず発光することを続ければ、それは、なかったことにはできないはずです。その中の一匹が、自分です。
読んでみてほしい。歌集なんで、すぐ読めます。通勤とか通学とかの合間に。昼休みに。寝る前に。きっと、どこか、光ると思うんです、あなたがいま夜の海にいるのなら。
蛇足です。夜光虫は、仲間を守るために光るという説があるそうです。自らが光ることで、捕食者を自らに誘導し、仲間を逃がす。もしくは、光ることで捕食者の捕食者に捕食者の所在をアピールしている、とかなんとか。。。もう月曜日ですね。GWまであと少し。自分が精一杯光るんで、皆さんは十連休、楽しんでください!!!!!!