『掠れうる星たちの実験』 乗代雄介
批評文(論説文)、書評、掌編が収められたアンソロジー。
著者について前から後ろから横から解析する糸口が詰まった一冊だ。
サリンジャーと柳田國男を結びつけて考察する批評は、ずっしりと読み応えがある。
思春期に読んだままなんとなく読み返す機会がないままのサリンジャーを、しっかりまとめて読み返してみたくなった、と同時に、巨木柳田國男にも気合を入れて対峙してみたくなった。
書評は、比較的近年に出版され、入手が簡単な書籍たちを、ジャンル幅広く取り上げている。
ここでもまた著者のサリンジャー及び柳田國男への敬愛がたっぷり染み出しているが、他にも、史実や自然科学を取り扱うニッチな本や、漫画、海外の知られざる傑作など、自由な選書で読者の好奇心を刺激する。
収められた短編も味わい深い。これから先ふと思い出すのだろうと思われる、心に刻まれる名もなき場面がいくつもあった。
「八月七日のポップコーン」は、姪と一緒に留守番をする夏の夜の、なんということのない数時間を描いた、しみじみと心に響く作品。
「鎌とドライバー」、「フィリヨンカのべっぴんさん」は、若い女性の飾りのない心を掬いとるように言葉にする。女性を書く腕が素晴らしい作家だと思った。
言い方は雑だが、福袋のように楽しめる、濃い一冊だった。