日本の素敵なバレエダンサー⑦直塚美穂さん(新国立劇場バレエ団ソリスト)
舞踊評論家の桜井多佳子さんのインタビューを読み、海外で活躍する実力を持ちながらも、日本で踊ることを選んでくれた素晴らしいダンサー達を紹介するこのシリーズを書き始めました。
シリーズ第7回は私が日本のバレエ団を見に行くようになり、バレエnoteやSNSでのバレエ発信を始めるきっかけとなった直塚美穂さんについてご紹介したいと思います。
ちなみに上の写真は2024年の光藍社のガラ公演で、直塚さんのダンチェンコ(モスクワ)時代の同僚のボリス・ジュリーロフと踊られた時の写真です。ボリスはワガノワ、マリインスキー、ジョージア、ダンチェンコを経て現在はハンガリー国立バレエ団で踊っており、マリインスキー時代はなんとウリアーナ・ロパートキナからもパートナーに指名されていた実力者です。
ちなみに直塚さんをダンチェンコでソリストに昇格させたのはルドルフ・ヌレエフの時代にパリ・オペラ座でエトワールとして活躍されたローラン・イレールです。イレールはThe Guardianのレビューに写真があるシルヴィ・ギエムやイザベル・ゲランなど現在においても大人気もエトワール達と踊ってこられた方です。
これから紹介する直塚さんは、そのような世界レベルの方から評価されてきたダンサーです。
直塚美穂さんについて
愛知県出身の直塚美穂さんは、米沢唯さんと同じ塚本洋子バレエスタジオ(現テアトル・ド・バレエカンパニー)で学ばれ、2009年にはYAGPという世界中のバレエダンサーたちが集まるコンクールのニューヨーク決勝で銅メダルを受賞し、2012年からはロシアの名門ワガノワバレエアカデミーで学ばれました。
バレエ学校卒業後は4つのバレエ団(ロシア3つ、日本1つ)に在籍されていますが、どれも超名門ですので彼女がどれだけ凄いバレエ団にいたのかを少し解説します。
①サンクトペテルブルグ·バレエ·シアター(タッチキン・バレエ団)
卒業後の2013年にサンクトペテルブルグ·バレエ·シアターにソリストとして入団されましたが、ここは世界的にかなり知名度のあるカンパニーです。専用の劇場を持たないツアー公演をメインとするカンパニーですが、数多くあるツアーカンパニーの中でも抜群の知名度を誇るカンパニーです。
②ミハイロフスキー・バレエ団(サンクトペテルブルク)
2016年にはサンクトペテルブルクでマリインスキーバレエ団に次ぐ規模を誇るミハイロフスキー劇場バレエ(1833年設立)にコリフェとして入団されました。現在でもロシアの大手バレエ団は旧ソ連圏出身者や白人以外にはかなり門戸が狭く、地方バレエ団だと結構アジア系も多いのですが、ミハイロフスキーのような超名門の場合は冗談抜きでアジア系の入団がかなり困難なのが実情です。
ちなみにコリフェというのはソロを踊る機会もあるポジションで、アジア人であるにも関わらず入団当初からこのポジションをもらえた直塚さんがいかに評価されていたか分かります。
③モスクワ音楽劇場バレエ団(ダンチェンコ)
2018年にはモスクワでボリショイに並ぶ人気と歴史を誇るモスクワ音楽劇場バレエ(ダンチェンコ)に移籍し、2020年にはソリストに昇格しています。
しつこいですがロシアのバレエ団は旧ソ連兼出身以外、特に有色人種に対してはかなり門戸が狭く、日本人がダンチェンコに入団するだけでも大快挙ですが彼女はソリストというソロを踊るポジションに昇格しています。これだけ有色人種に対して厳しいロシアバレエ業界で入団するだけでも本当に凄いのに、ソリストにまでなるって彼女の実力がどれだけ評価されていたか分かるかと思います。
④新国立劇場バレエ団(東京都渋谷区)
ロシアで大活躍されていた直塚さんですが、戦争が始まってしまったために2022年に日本に帰国し、現在は東京の新国立劇場バレエ団でソリストとして踊られています。彼女の渡り歩いてきたバレエ団はどこもかなりの知名度と実績を誇る超名門です。名門バレエ団を渡り歩いてきた彼女の実力は誰が見ても明白で、今の日本で1番技術も実力もあるバレエダンサーは直塚さんです。
余談ですが私は直塚さんの入団をきっかけに日本のバレエ団を見に行くようになりました。今も新国立バレエのチケットを買う際は彼女の配役を見てから決めているくらいです。
直塚さんのファンは非常に多く、舞台でも彼女が踊り終わるといつも拍手が大きく、ブラボーが出ることもあります。私はnoteやSNSでダンサーの話題をよく書きますが、彼女について感想を書くとアクセス数が飛躍的に伸びます。それだけ観客に愛され、注目されている存在ということが実際に裏付けられているダンサーです。
直塚さんを知ったきっかけ
私が直塚美穂さんを知ったきっかけは2021年の光藍社主催のガラ公演ですが、実はこのときは直塚さんのことを全く知りませんでした。その公演にはマリインスキーのヴィクター・カイシェタとボリショイのアナスタシア・ゴリャーチェワ目当てにチケットを買ったのですが、コロナの影響で2人の出演がキャンセルになってしまいガックリしながら劇場に向かった記憶があります。
「ロシア・バレエ・ガラ」というタイトルでしたので参加者はスラブ系ばかりで、日本人は彼女ただ1人。失礼ながらNBSのガラ公演に毎回イマイチな日本人ダンサーがバーターとして出場しているような、光藍社のバーター枠もしくはスポンサー枠かと思っており、当初は「誰やねん、これ。」と思っていました。
そんな感じでガラへの期待度はゼロだったのですが、トップバッターで出てきた直塚さんがあまりに美しく心を打ち抜かれました。
↑↑↑の映像にもある「眠れる森の美女」のローズ・アダージオを踊られたのですが、柔軟な体から繰り広げられるポールドブラが本当に優雅で綺麗で、こんなに美しい日本人ダンサーが出てきたのかと衝撃を受けました!エレガントで美しいだけでなく16歳のオーロラ姫に相応しい初々しさもあり、本当に素晴らしかったです。
今だから言いますが、このガラ公演は盛りを過ぎたダンサーや夏休みモードでポヨンとしているダンサーが多く正直に言って結構ひどい内容で、まともだったのは直塚さんとラウラ・フェルナンデスくらいでした。多少手を抜いても全く気が付かないくらい他がひどかったのですが、直塚さんは一切手を抜かず自分の出せる最大限のパフォーマンスを見せてくれたことがとても印象的でしたし、一気に彼女の虜になりました。
ロシア人ばかりの中で見劣りするどころか輝いていた彼女の姿は同じ日本人として心から誇らしかったです。「どうだ!こんなに綺麗なバレエダンサーが日本から出てきたぞ!どうだ!」って心の中でドヤ顔してました😂
ちなみにラウラ・フェルナンデスはこちらです。当時は直塚さんと同じモスクワ音楽劇場バレエ団に所属しており、現在はニーナ・アナにアシヴィリ率いるジョージア国立バレエ団でプリンシパルとして活躍しています。
私がバレエnoteとSNSを始めた理由
直塚さんが2022年にロシアから日本に帰国し東京の新国立劇場バレエ団に入団されたと知り、今までは日本のバレエ団に全く興味が無かったのですが彼女目当てに公演に足を運びました。新国の「くるみ割り人形」を見に行ったのですが、雪の精と花のワルツに出演されていた直塚さんはラインが美しく、どこにいても目立つ存在でした。
帰宅していかに直塚さんが美しいか家族に力説していたところ、バレエオタクの細かい話に聞き飽きた家族から「そんなに直塚さんが好きなら、ブログとかに書いたら?」というアドバイスを受け、noteやSNSに彼女の素晴らしさを書き始めました。
今でこそ色々なバレエ公演の感想を書き、Twitterも色々なダンサーの話題を出していますが、直塚さんの美しさの虜にならなければそもそも「バレエファンの会社員」は生まれなかったかもしれませんし、ネットでバレエファンの皆様と交流する機会は無かったでしょう。そう考えると今の私があるのは直塚さんのおかげですね。
ちなみに記念すべきバレエ感想第1回はこちら。2年前の記事ですが言っていることが今と1ミリも変わってないという…😂
先ほど調べたらこのくるみは5回も見に行っていたので、それだけ直塚さんの踊りに心惹かれたのでしょう。直塚美穂さんはそれまで日本バレエ界に全く興味が無かった私に、日本にも素晴らしいバレリーナはいると言うことを身を持って教えてくださった本当に特別なダンサーです。
直塚さんの美しいポールドブラと柔らかな上半身について
直塚美穂さんと聞くと180°以上開く柔軟な体を持つイメージですが、実は私が直塚さんの踊りに惹かれるきっかけになったのは彼女の美しいポールドブラがきっかけです。
ワガノワならではの優雅さはまるで水の中でゆったりと手を動かしているようでもあり、指先から雫が滴るかのような独特の美しさがあります。ワガノワ出身だからといって全員が美しいポールドブラを会得出来るわけではありませんが、直塚さんは間違いなくワガノワスタイルを日本で体現できる数少ないバレエダンサーだと思います。
腕の動きだけでなく、彼女は上半身の動かし方もとても優雅です。最近でこそ直塚さんのように長い足や柔軟性を持つ人も出てくるようになりましたが、それらを完璧にコントロールした上でただ足が上がるだけでなく、上半身で優雅さを表現できる人はほとんどいません。極上の身体表現能力を持つ直塚さんからこれからも目が離せません。
印象に残っている直塚さんの舞台3選
①光藍社のガラ(2021年)
何度も上述している光藍社のガラで見た彼女の「ローズ・アダージオ」は一生忘れません。初々しくて美しくて上品で、素晴らしいオーロラ姫でした。あれを超えるオーロラはあと100年は出てこないでしょう。
②新国立劇場バレエ団「ニューイヤー・バレエ」(2023年)
A Million Kisses to My Skinのリードを踊られました。音楽のテンポが遅くて最初寝そうになりましたが、彼女が出てきた瞬間空気を切り裂くような鋭さと大きなエネルギーが客席に伝わってきて衝撃的でした。踊っている彼女はとても大きく見え「ロシア帰りだから背が高いんだな」と思っていましたが、カーテンコールで並んだ彼女が誰よりも小柄でビックリ。改めて彼女の存在感の大きさと実力の高さに恐れ入りました。
③新国立劇場バレエ団「白鳥の湖」(2023年)
これは直塚さんと周りの日本人ダンサーとのあまりの実力の違いを感じたという話なのですが、白鳥のコールドで1人だけものすごく柔らかくて美しい白鳥がいるなと思ったら彼女でした。もちろん足の高さや腕の位置は周りと全く同じです。しかし上半身の使い方が柔らかで、首から肩にかけてのラインがとても綺麗で、動く時は風をまとっているかのような立体感ある動きだったことが印象的でした。
凄いダンサーはコールドにいても素晴らしいんだなと実感した瞬間でした。(彼女のオデットが見たい!)
直塚さんのバレエ映像(時系列順)
①YAGP(Youth America Grand Prix 2009)
日本ではローザンヌ国際バレエコンクールが有名ですが、YAGPも同じくらい世界的に有名で権威のあるコンクールです。直塚さんはなんと13歳でこのコンクールで銅メダルを受賞するという、幼少期から将来が期待されていた存在です。黒鳥カッコいいなぁ❤️
②サンクトペテルブルク・バレエ・シアター(タッチキン・バレエ団)
色々な役を踊られていた直塚さんですが、ご本人がアップしてくださった絶品のオデットはタッチキン時代のものかと思います。このオデットを初台で見たいですね。
Youtube映像はタッチキンのプリマであるイリーナ・コレスニワの宣伝ビデオで、白鳥たちの一員として直塚さんの姿を確認することができます。
③ミハイロフスキー・バレエ団(旧レニングラードバレエ団)
こちらのペザント・パドドゥはなんとジュリアン・マッケイと一緒に踊られています!ジュリアンというと最近はKバレエのゲストとしてよく来日していますが、直塚さんとも踊っていたとは…!(見たい❤️)
映像はありませんが、ミハイロフスキー時代にはプリンシパルのヴィクトル・レベデフとも踊られていました。レビューを見ると結構良かったみたいで、私も見たかった…✨
④モスクワ音楽劇場(ダンチェンコ)
ダンチェンコでプリンシパルとして活躍するオクサナ・カルダシュのドキュメンタリーに入団したばかりの直塚さんの姿が…。ずっと見てたのに気づかなかった!
ちなみに私が初めて直塚さんを知った2021年の光藍社ガラでボリス・ジュリーロフと一緒に踊られた「タリスマン」もダンチェンコ時代の映像です。
⑤新国立劇場バレエ団
こちらは直塚さんの戦友である石井久美子さんのYoutubeで、光藍社ガラで黒鳥のパドドゥを踊るまでの密着と、本番映像が収録されています。直塚さんとボリス・ジュリーロフの黒鳥のパドドゥはなんとノーカット!最高画質での素敵な映像をお楽しみ下さい❤️
その下はNHKでテレビ放映された直塚美穂さんのブライズメイドのヴァリエーションです。本拠地である新国立劇場での公演ではありませんが、NHKバレエの饗宴2024に新国立劇場バレエ団が「ドン・キホーテ」を披露した際のもの。私は実際の舞台も見ましたが、多分この映像はゲネプロのものな気がする…。
映像ではなく雑誌ですが、クロワゼ96号に直塚さんのインタビューと、購入者特典のボリス・ジュリーロフとのリハーサル映像はかなり見応えがあります。石井久美子さんのストレッチ解説の映像もありますので、ぜひお買い求めください。かなりおすすめです!