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懐かしのパン屋さん
可愛らしいイラストが描かれた表紙の、パン屋さんを舞台にした小説『謎の香りはパン屋から』。
一番印象的だったのは、第五章の『思い出のカレーパン』。
30年前、今は亡き旦那さんが夜勤明けの朝帰りによく買ってきてくれた出来たてのカレーパン。懐かしの味にもう一度出会いたいというおばあさんの願いを叶えるために立ち上がる、パン屋<ノスティモ>のスタッフたちの物語。
この章を読み終えた時、自分にもこだわりのパン屋さんがあったことを思い出した。
残念なことに、数年前になくなってしまったが、重厚感のある黒い看板が目印で、ちょうど通勤の通り道にあったこのパン屋さんのサンドイッチが大好きだった。
人気商品だったらしく、遅い時間に行くと売り切れていたこともよくあった。
そんな時は、わざわざ他店舗まで足を延ばしたこともある。
店舗によっては面積が広く、ゆっくりパンを選ぶことができた。
外国人の祖父母と孫娘と思われる3人が、穏やかな表情で店内でパンを選んでいる姿を見たことがある。
このお店のパンは、外国人の口にも合っていたのかも知れない。
『始めあれば終わりあり』とは言うけれど、あのパン屋さんがなくなると知った時は衝撃だった。
ずいぶん前の出来事に思えたが、調べてみたらほんの3年近く前のことだった。
しばらくして再起をはかり、多くのファンの声に応えて北海道で新たにオープンしたらしい。
またあのサンドイッチに出会えるチャンスがある!
思い出のカレーパンに再会できて感激したおばあさんの気持ちが、小説のページをめくる私にも伝わった。