わずかな隙間
最後に温泉に浸かったのは約7年前。
以前宿泊した地方のその宿には、大浴場2つの他に、部屋にも1つ、露天風呂が付いていて、いつでも自由に入ることが出来た。
とどまることなく溢れ出て、流れ続ける源泉かけ流しの露天風呂を眺めながら『これを自宅に持って帰れたら…』と思っていた。
広い浴槽にゆったりと浸かる至福の時間。
先日、フリーペーパーを見ていたら、行ったことのない温泉街の記事が載っていた。
『歩けば温泉に当たる!』と書かれたその記事に、その街に80年住んでいる方の感謝の気持ちが綴られていた。
腰を患って入院し、退院後、温泉通いして完治させたという。
温泉に感謝の気持ちを込めて花を飾るその女性の姿が、何だか神々しく見えた。
そういえば、私が生まれた街に、70年近く続いているという銭湯がある。
昔、その銭湯には、男湯・女湯の浴槽を挟んだ壁の底に僅かなすき間があり、子どもなら潜って行き来できたという。
高齢のある男性は、子どもの頃、その僅かな隙間から女湯の方によく顔を出し、「またこの子だよ!」と顔なじみの常連女性客に毎日のように言われたそうだ。
因みに現在は全体的にリニューアルされたそうなので、隙間は残っていないと思われる。
そこの銭湯は、子どもの頃から知っていたが、行ったことは一度もなく、長い歴史があることも最近知った。
意外と自分が生まれ育った街のことで知らないことは多い。
遠くの温泉に思いを馳せつつ、まずは近場から…とフリーペーパーをめくりながら、温泉旅行の計画を、お昼休みに考えた。