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楽園を求めて

北海道のカムイヌフ岬。
日本海に面した断崖絶壁の上にある小さな大地。

その岬で生育したハイマツの実からしか作り出せないブレンド生薬『サラーム』。
その実は年に一度、9月初旬の早朝に、占いで決められた日に採取される。

『サラーム』とはアラビア語で『平和』『平安』『平穏』の意だという。

その実で作った生薬は、心と体に溜まった澱を洗い流してくれる不思議な薬。

その岬に引き寄せられるようにやって来て、その地に住み着いた人々は、その薬の影響で、歳を取らず病気にもならない。

精神が厳かに、静謐に、穏やかになる。

彼らは岬に選ばれた人々。
そこは辿り着くだけでも大変な岬。

岬は戻るべき場所。
心が解放される場所。

必要最低限のものしか持たない質素な暮らし。
食事さえほとんどせず、そこの住人同士、お互いに干渉もせず、外部との連絡も一切取らない。

しかし時が経つに連れ、自分の存在や毎日の生活に意味を見い出せなくなり『虚無の病』に陥る。

やがて無気力になり、家族のことにさえ関心をなくしてしまう。

あらゆる欲求からの解放。
その結果行きつく無気力。

そこは本当に楽園か?
それとも究極の引きこもりの場?

薬と毒は紙一重。

『失われた岬』より

薬はそれを使う人間次第で良薬にも悪薬にもなる。
大事なのは、正しい判断と知識、受け継がれてきた伝統、哲学、知恵。

ただ幸せを求めただけなのに、彼らは本当に幸せだったのか?

長編小説『失われた岬』。
人間の幸せとは何かを突き詰めた1冊だった。



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