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神さまの使わしめ
問題を抱えた人のもとに現れる琥珀色の目をしたトラ猫。
まるで『大丈夫だよ』とでも言っているようなその目に惹かれていると、いつの間にか家に上がり込み、しばらくの間、一緒に暮らす。
これは唯川恵先生の著作『みちづれの猫』に収録されている短編小説『運河沿いの使わしめ』に登場する不思議なネコの物語。
ある時は、認知症の義母を抱え、介護に苦労する主婦のもとへ。
この家での名は『ニャン助』。
またある時は、3回の流産を経てやっとできた新たな生命にも関わらず、気持ちが不安定で、家庭内がギスギスしていた主婦のもとへ。
この家での名は『小虎』。
そして物語の主人公、江美のもとへ。離婚して生活がすっかりボロボロになり、ゴミ屋敷と化した部屋に住む江美が、本来の姿を取り戻すまでを見届ける。
ここでの名は『茶太郎』。
その後、学校でのいじめが原因で引き籠りとなった少女のいる家庭へ。
ここでの名は『マロン』。
しばらく滞在し、その家での厄介ごとが消え、平和が訪れると忽然と姿を消す。
必死になって探し回り、運良く見つけた時には、何か問題を抱えた人の家のネコになっている。
訪れた各家庭で名前を付けて貰い、複数の名を持つこのネコは、まさに『神さまの使わしめ』。
作中に登場する言葉『神さまの使わしめ』。
『使わしめ』とは、神の使者という意味だという。
新たな家庭のネコとなり、2階の窓から江美を見下ろすラストシーン。
『今度はその女の子に寄り添ってあげるのね。(中略)それでいいの。私はもう大丈夫だから。』
切なさが胸に広がるが、悲しさはない。
振り返ることなく江美は去って行く。
最近、色々あった自分と江美が重なる所があり、以前読んだこの作品を急に思い出して再読。
この作品は、私にとっての『使わしめ』。