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2023年上半期の読書記録とほんの少しのメモ

1月

  • 橋本治『ふしぎとぼくらはなにをしたらよいかの殺人事件』(ホーム社)@伊勢治書店ダイナシティ店

  • オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(大森望訳、ハヤカワepi文庫)@BOOKOFF

  • ジョージ・オーウェル『一九八四年』(高橋和久訳、ハヤカワepi文庫)@BOOKOFF

  • 野呂邦暢『野呂邦暢ミステリ集成』(中公文庫)@ジュンク堂書店池袋本店

  • 野呂邦暢『愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集』(岡崎武志編、ちくま文庫)@ジュンク堂書店池袋本店


『ふしぎとぼくらは〜』は橋本治の伝説のミステリ小説。年末にホーム社から復刊されていた。地元の書店で見つけて購入(正確には、わたしの母親が孫に文庫本を買ってあげようとしてるところに滑り込ませて、一緒に買ってもらった)。ラッキー。『人工島戦記』もいつか読みたい。

ハクスリーとオーウェルは、昨年末に読んだ『愉しみながら死んでいく』(三一書房)からのsuggest。どちらも買ったままになっていた改訳版を読んだ。ピンチョンの「1984」の解説がちゃんとしててびっくりした。

野呂邦暢はジュンク堂で推されていたので2冊同時に購入した。どちらも良かった。「愛についてのデッサン」の中で、唯一実名で登場するのが、詩人の安西均だ。
「菫の花咲くころ」という詩を辺見庸が何かの文章の中で引用していたのをきっかけに、学生のころに彼の詩集やエッセイを集中して読んだことがあった。エッセイは大学の図書館で借りて、印象的なページをコピーしたことを思い出した。安西均が新聞記者だった戦時中を回想したもので、路面電車に憲兵が乗り込んでくるシーンだけ憶えていた。どこかにあったはずだと思って部屋の中を探したら、そのコピーは捨てずにあった。タイトルは「愚問について」。いいエッセイだった。大学生の頃のわたし、いい線いってる。

2月

  • 佐々涼子『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)

  • 『ユリイカ 総特集 ジャン=リュック・ゴダール 1930-2022』(青土社)@ブックス音羽


1月末から2月にかけて、ドイツのニュルンベルクに行った。帰国してすぐ身内に不幸があり、葬儀に参列した。『エンド・オブ・ライフ』はそんな最中に読んだ。信頼している本屋大賞ノンフィクション賞の第二回受賞作で、在宅での終末医療の現場を追いかけたノンフィクション。自分らしく、生きて、死にたいものだ。

『ユリイカ』のゴダール特集はまだ半分も読めていない。映画を観ながら、ゆっくり読みたい。死ぬまでに。

3月

  • 村上春樹『スプートニクの恋人』(講談社文庫)

  • 奥泉光『死神の棋譜』(新潮文庫)@三省堂書店有楽町店

  • 加藤典洋『大きな字で書くこと/僕の一〇〇〇と一つの夜』(岩波現代文庫)@ジュンク堂池袋本店


3月3日、大江健三郎が亡くなる。

村上春樹の新刊がもうすぐ出ると聞いて、積読本だった『スプートニクの恋人』を読んだ。学生の頃、一学年上の友人が、発売されたばかりのこの文庫本を買うのに付き合ったことがあった。場所は大学生協だった。「ハードカバーで読んだけど、文庫本でもやっぱり買いたくなる」と言っていた。思い出したのはそんな風景だった。彼女が今どこで何をしているのかは知らない。そんな、誰かの人生からは消えてしまった人は、誰かの数だけいるのだろう。そして、わたしもきっと、誰かにとっては消えてしまった人だったりするのだろう。

『死神の棋譜』は3月の新刊文庫。

『大きな字で書くこと/僕の一〇〇〇と一つの夜』も3月の新刊文庫。『増補 もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために』と一緒に購入した。東大でのフランス語の授業のエピソードが残った。「あなたの親しい友達が亡くなったとき、あなたはフランス語で何と挨拶しますか?」

西中賢治さんのお誘いで、吉祥寺の「古書防破堤」を初めて訪問。閉店後の店舗で、お酒を飲みながら古本を漁らせていただく。アガンベン、ドゥルーズ、野呂邦暢、須之内徹などを購入。

3月28日、坂本龍一が亡くなる。

3月31日、八重洲ブックセンター営業終了。

小学生のころ、父親に「東京の大きな書店」に連れて行ってもらった。それが八重洲ブックセンターだった。地元の書店にはない本が見上げるほどたくさんあった。お小遣いを握りしめて、吟味して、結局買ったのは椎名誠の『アド・バード』(集英社文庫)だった。分厚い文庫本は当時にしては高かったので、それしか買えなかったのだ。今も本棚のどこかにその時の『アド・バード』はある。だから、もしあの素敵なSF小説を読み返す時には、ページを捲る前に、あのとき見上げた、巨大な本の森の記憶が蘇るのだと思う。いつ、どこで読んだかだけでなく、いつ、どこで買ったかという記憶のブックカバーに包まれて、本はある。

営業終了の少し前に、八重洲ブックセンターに娘への誕生日プレゼントを買いに行った。あのハートマークのついたブックカバー付きの本を贈りたかったからだ。
大好きな5階フロアは閉店に向けて、少しずつ棚が整理されていて、もうすでにスカスカの棚もあった。子どものころに見上げた本の森は、少し古ぼけて、疲れているように思えた。
娘へのプレゼントとは別に、影書房から出ている『目取真俊短編小説選集』の1巻と2巻を購入。3巻はなかった。

4月

  • 『広告 Vol.417 特集:文化』(博報堂)@amazon

  • 大江健三郎『万延元年のフットボール』(講談社文芸文庫)再読

  • 村上春樹『街とその不確かな壁』(新潮社)@Book +東中野店


『広告』は小野直紀編集長の最終号。判型も価格も毎回異なる小野編集長による『広告』は毎号楽しく読んだ。「価値」「著作」「流通」「虚実」と続いて、最後の特集テーマは「文化」。ジャニー喜多川による性加害について言及された対談のテキストに修正が加えられたことを明示したことでも話題になった。当該対談の末には、小野編集長によって書き足されたと思われる一文がある。
「本記事は、ビジネスパートナーであるジャニーズ事務所への配慮の観点から、博報堂広報室長の判断により一部表現を削除しています。」
「博報堂広報室長」の部分に代入されうる人物はこれまでたくさんいたはずだ。文化とは何かという特集のなかで、出版という文化に内在する自己検閲をこういう形でみせる。小野編集長はクリエイターでもあるので、作り手の意思を見せることは雑誌を作る上でも当たり前のことだったのだろう。博報堂という組織の中でそれを貫くことの大変さも、何となくだけど、想像できる。
後半に収録されている塩谷舞のエッセイ「普通の暮らしと、確かにそこにある私の違和感」が良かった。

『万延元年のフットボール』は再読。

村上春樹の新刊は発売日に買って読んだ。1章より2章が、2章より3章が良かった。あとがきも良かった。ひとりの人間が書けるのは、一つの物語だけというボルヘスの言葉が引かれている。「バベルの図書館」は一人ひとりの中にあって、一つひとつ異なっている。そして、その図書館の入り口の鍵は次の世代へと継承されていくのだろう。

5月

  • 藤井大洋『オービタル・クラウド 上下』(ハヤカワ文庫)@BOOKOFF

  • 島田雅彦『虚人の星』(講談社文庫)

  • 小島信夫『小説作法』(中公文庫)@往来堂書店

  • 小島信夫『うるわしき日々』(講談社文芸文庫)@ブックアイランド

  • ヘレーン・ハンフ編著『チャリング・クロス街84番地』(江藤淳訳、中公文庫)@BOOKOFF

GWは青森へ。弘前城、三内丸山遺跡、奥入瀬渓流などを回る。藤井大洋は行き帰りの新幹線で読んだ。GWにはSF小説を読んで、夏休みには戦争小説を読んでいることが多い気がする。
旅行中、弘前駅近くにある小山古書店を訪問。文庫で鈴木いづみ、野坂昭如、ケメルマン、牧野富太郎などを購入。

5月4日、原寮が亡くなる。

5月5日、フィリップ・ソレルスが亡くなる。

島田雅彦はある時まで全ての作品を読んでいたが、ここ何年かは何となく読まなくなっていた。積読本から『虚人の星』を選んで読んだ。読めていない他の作品も少しずつ読みたい。

『小説作法』は5月の新刊文庫。後半が特におもしろかった。『小説作法』からのsuggestで『うるわしき日々』と『チャリング・クロス街84番地』を読んだ。前者もやはり学生時代に家の近所の古本屋で買ったままになっていた積読本。表4には100円のシールが貼られていた。ずいぶんと、まあ、お安く買ったものだ。

6月

  • 堀川恵子『永山則夫 封印された鑑定記録』(講談社文庫)@BOOKOFF

  • A・ナフィーシー『テヘランでロリータを読む』(市川恵里、河出文庫)@サクラ書店平塚ラスカ店

  • オースティン『自負と偏見』(中野好夫訳、新潮文庫)@BOOKOFF


堀川恵子は、『この30年の小説、ぜんぶ』(河出新書)からのsuggest。永山則夫の母親がいわゆる「からゆきさん」だったことを知る。犯罪の背景に何があったのかを徹底的に追いかけると、そこには日本の近現代史の暗部があった。もちろん、それが犯罪の原因だったという単純な話ではない。だけど、個人史は大きな歴史と無関係ではありえない。
『文芸別冊』の永山則夫特集を読んだのは高校生の頃だった。その1998年3月号は今も手元にある。若い頃に読んだ本や雑誌にはやたらたくさんの付箋が付いているのだけど、これも例外ではない。付箋の付いたページだけを20年ぶりくらいに読み返してみたりした。

『テヘランでロリータを読む』からのsuggestで、『自負と偏見』の旧訳版を読んだ。読んダーシー。なんつって。

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