「2回目のデート」に誘われたい。
なんだかとっても嬉しいことがあった。比較的ざっくりとした性格の女の子に、初めてバスケ観戦という名のデートに誘われ、気乗りしないまま向かった会場でとってもうれしいことがあった。
その人は顎下くらいに切り揃えた白に近い金髪で、耳のあたりに少しだけシルバーがかったインナーカラーを入れていた。白のパンツに白のタンクトップの上から、マメクロゴウチの黒いシースルーのタンクトップを重ね着していた。耳の付け根に小さなタトゥーがあって、ピアスを5つ付けていた。性格も、ステレオタイプ的な外見のイメージそのままのカラッと明るい人だった。
ぼんやりとした癖っ毛メガネの、無印の無個性シャツが好きな私もやはり、見た目から連想されるのっそりとした性格だったのだが、初めて何人かで会った時にぽろっとこぼした一言が何故かその人のツボにはまったらしい。それで、あれよあれよとデートに誘われた。
明るさと不躾さは紙一重だと常々感じているから迷ったけど、バスケのプロリーグ観戦をずっとしてみたかったし行くことにした。のだけど、会場は思った以上に爆音だった。満員で、皆必死になって応援していて、すごく盛り上がっていた。あぁ、これ、やばいやつだ。
私はガヤガヤした大きな音がとても苦手で、ある程度までは周りに気を遣わせないよう我慢している。でもその会場は凄まじく、キンキン音がして、普通に頭痛がした。我慢できないししたくないと思った。
気乗りしなかったとはいえ初デートなのに、とは感じつつ、私はその人に「ちょっと音が強すぎるから」と言ってAirPotsのノイズキャンセリングを最大にして耳につけた。
初めてデートに来た男がバスケ会場で一人だけイヤフォンを付けて観戦しはじめる。そのシチュエーションはやばいし、こいつなんかあるな、と大抵の人は身構えると思う。私自身も体質的に過敏性や選択的傾聴が苦手であることにコンプレックスがあったから、イヤフォンが恥ずかしくもあった。
でもその人は「うん、わかった」とだけ言い、フラットに受け入れ、何か話したい時はリーフレットをくるくる丸めてお互い耳元で話した。すっごくいい人だった。
前に何人かで初めて会った時、私はバスケ好きだというその人に、プロ選手同士のハンドシェイクが見たいと話していたから、試合直後に選手同士が片手ハイタッチの流れでお互いをぐっと引き寄せ肩をぶつけるようなハンドシェイクも実際に見れて、テンションも上がった。
ーーとはいえこれはデートだ。試合後に露天で飲み物やアイスを買って会場となりの広い公園で少し話しながら、やっぱり申し訳ない気持ちになった。私はできるだけ私のまま、楽しく暮らしたい。だから、あそこで場にそぐわないAirPotsを付けたほうがずっとずっと試合を楽しめたし後悔はない。ただ、ありのままの自分でいるための行動と、相手がどう思うかは無関係なのだ。
普段なら、気になる誰かとデートをしたときは帰宅後でななく解散直前に、「次はいつ会える?」みたいな誘いかたをする。なんとなくそのほうが「次」がありそうだし、また連絡するね、と言われたら相手の気持ちの距離も計れる。でもその日はしないことにした。うん、やっぱりちょっと耳栓のようなイヤフォンが申し訳なかったのだ。
でも。でも帰る間際になってその人はカラッと「次はいつ会おっか」と言ってくれた。明るさと聡さを兼ね備えた人だから、普通にAirPotsを付けた理由も察しがついているのだろう。
でもひとまずそれはそれとして、と思ってくれたのが嬉しかった。私は「わ、すごく嬉しい、ありがとう」と言い、日程調整に入った。
ーー別れ際、その人はカラッとした態度で片手を上げ、私もつられて手を上げた。そしてハイタッチの流れからぐっと互いを引き寄せ肩をぶつけるようなハンドシェイクをした。
世界は素敵な人たちで満ちていた。そういう人たちと出会えて自分はとてもラッキーだなと思えた。自己卑下じゃなく、次会った時「やっぱこの彼とはちょっとちゃうな」でもいいと思った。自分とどうなるかより、この人がとても楽しく日々を過ごせるのが一番だと思った。
その人と公園で話す時に随分と久しぶりに買った、サイダーの残りをズビズビ飲みながら家に帰った。清々しい気分だった。彼女は素敵だった。みなに幸あれ。
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