「人は見た目か中身か」と「足切りライン」
いやもうそれは外見でしょうよ!中身よりまず外見! と女友達が言い切って、私はうっとりした。うんうん、わかるよ。理由はさておき僕もこの質問には「雰囲気含めた見た目」って答えるからすごくわかる。
だって見た目が違ったら違うでしょうと、その女の子(外ちゃん)が続けると、別の女の子(内ちゃん)が「私は内面だな」と言った。私達はもう随分と長いこと友達をやっているのだが、恋愛対象は見た目か中身かというオールドスクールな話題を3人でするのは初めてだった。わーい、僕こういう話大好き。
実は外ちゃんと2人では以前に話したことがあって、私の気持ちを彼女は全部知っていたので実質2対1だ(なぜかこの話題は半分争いのようになるのが不思議だ)。だから私は口をつぐみ、2人の話をジャッジするレフェリーに徹した。内ちゃんが言う。
「でもさ、わたしは優しい人が好きだし、それって中身だと思うんだよね。外見が良くても乱暴な人は嫌だし。もちろん内面が外見ににじみ出るのもあるとは思うけど、それもまず内面の魅力あってこそだと思う」
内ちゃんは、今の台詞を補強するような数々の素敵なエピソードを補足し続けた。彼女はそれこそ心根の優しい女の子で、彼女の内面的な魅力も相まって聞いた人間が思わず「そうそう」と同意したくなる強い説得力があった。私も思わず頷きそうになった。
でも、彼女が話し終え、ひとしきり聞いた外ちゃんが私に「行くわよ」という目配せをしたとき、悪徳レフェリーの私は「頼むぜ兄弟」みたいな視線で応えた。外ちゃんが満を持して口を開く。
「じゃあさ、その人がカマキリだったら付き合える?」
「えっ、カマキリ?」と、内ちゃんは何泊かトリッキーな言葉を脳内で整理する時間を設けて「それはもう人間じゃないじゃん。無理だよ」と笑った。でも内ちゃんは既に山ほどギザギザの付いた鎌に捕まっていた。
「違うよ。人間なんだけど、顔だけ比喩じゃなく本物のカマキリなの。でもその人はとても優しいし、内面が魅力的なの」
えっ、、と内ちゃんがまた常軌を逸した言葉をなんとか咀嚼するのを待って外ちゃんが続ける「それでね、内ちゃんの前の彼がいるでしょう。ほらあの、『何でもない日に季節の花を一輪プレゼントしてきた』彼。もしその彼の顔が本物のカマキリだったら付き合ってた?」
内ちゃんの顔がひきつる。……付き合っていないと思う、と言う。
「ほらな!!」と外ちゃんが言い、私がレフェリーストップをした。内ちゃんは「でも私は『この人のここの部分がすごく素敵だなぁ』と思って好きになるんだけどな」と敗者インタビューでしゅんと答えた。
これ以上話すと血が流れるし、私達はなんとか普通の雑談に(多少ぎこちなくなりながらも)徐々に戻した。戻しながら私は、以前外ちゃんに話した内容を思い出していた。
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随分昔のある夜、私と外ちゃんは喫茶店で外見vs中身について話していた。意地悪な私が最初にこう言った。「中身派の人は、カマキリとは付き合えないと思うんだ。もちろん中には付き合える人もいるし、そういう人はすごく尊敬する。でも、中身派の9割以上は、顔が本物のカマキリの人とは付き合えないと思う」。そしてこう続けた。
「カマキリは特殊すぎるけど、中身重視の人に、『じゃあこういう見た目の人は』って言って、一般的にすごく敬遠されそうな、清潔感がなかったりする人を挙げると『いや、さすがにそれは無理だよ』って言うんだよ。中身派の人は、普通に足切りポイントがあるんだと思う。『これ以下はそもそも勘定に入れていません』という前提で、見た目か中身かの話をしている気がする。僕の中ではそれは傲慢だから、自分がもしその話になったら、『ファッションとかその人が醸し出す雰囲気とか含めた見た目』って絶対に言うようにしてる」
それは常々、私自身が思っていたことだった。
外ちゃんは聞いてるんだか聞いていないんだかよくわからない顔でタバコをふかし、「なんかよくわからないけど、私は普通に外見がいい人が好き。良ければ良いほど好き!」と言った。清々しさにうっとりした。
ーー外見か中身かの話はつまるところ、「それぞれの誠実さ」の話になるのだと思う。外ちゃんはとにかく美しい人がいいという気持ちへの誠実さ、私は足切りラインを無視したくないという傲慢な自分への誠実さ、内ちゃんは外見に囚われずその人の素敵な部分を大切にしたいという誠実さ。それぞれの誠実さを、私達は俗っぽくも真理でもある「見た目vs中身」という形でもって差し出し合っているのだ。
今回は一方的に外見派の一個人の意見を提示して申し訳なかったけど、中身派の誰かの話を聞いて「なるほど確かにそうだ!」と思うことも普通にあると思う。というかあってほしい。
やいのやいの言ったが、私は外ちゃんの、「とにかく顔がいい人が好き!大好き!」みたいな、世の中の綺麗な風潮とかを無視した清々しい意見も結構好きだったりする。話す相手に気を配る必要はあるけれど、外ちゃんは外ちゃんのまま過ごしてほしいなと思う。私は私で、足切りラインにならないようビクビクしながら、地道にがんばろう。
そしてこれは本当にちなみになんだけど、ちなみに内ちゃんは外見も中身もけっこうパーフェクトなのでスーパーモテる。この世の真理だなぁと私はいつも思う。みなに幸あれ。
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