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「男には寝食忘れて仕事をすべき時がある」と結婚式のスピーチで聞いてから時は経った

東日本大地震から1カ月も経っていないある日、私は某都内の結婚式場に居た。

当時勤めていた日系企業の職場の知り合い同士の結婚式で、男性とも女性とも付き合いがあった私は職場友人枠で招待された。

世間はまだ震災の痛手から立ち直っていなく、人の移動を伴う催し物は次々とキャンセルされていたし、交通機関の利用を控える人も相次いでいた。

私もまた、大きな地震が来て逃げづらいのは嫌だなと思い、いつまで着られるかわからない振袖を着ようと思ったのをやめてドレスにした。と言うよりまるで行く気も削がれていた。

震災の直ぐ後だからってだけじゃない。

新婦の実家が東北にあり家族しか来られないというのに(それすら、かなり無理して来てくださるのではないだろうか)、決行されたからだ。

理由は本人達に聞いていないから真相はわからないけれども、新郎の招待した会社の偉い人たちの面目のためではないだろうか。もしくは、リスケジュールできない都合で。

新郎は上層部に気に入られており(タバコ仲間、お酒仲間)参列者には、社長、人事部長、その他部長が揃っていた。ちなみに新婦は派遣社員。私が女だからかもしれないが、新婦の招待客が彼女の所属部長(夫の招待客みたいなもの)の他は家族と都内にいる友人しかいないのに決行するなんて新郎、勝手なんじゃないかと思って怒れてしまった。

ついでにボイコットしたくなったが大人だし行きはしたものの、全く楽しい思い出ではなかった。

新郎新婦はそれぞれ、いい人たちだし仲も良かったのだけどなんだろう、偉い人たちからの挨拶が「新郎は仕事ができる」「新婦は気立がよく新郎を支えてくれる」という性別的役割の押し付けが前面に出ていて辛かった。本人たちが良ければよいのだが、新婦の招待客もなく新郎が立てられ、まるで新郎だけのための式で、痛ましい気持ちになった。

帰ってから苛立ちのあまりに引き出物のバームクーヘンをやけ食いした。

特に私が怒りに燃えた某部長のセリフがある。

「男には寝食を忘れて仕事に没頭すべきときがある。どうか、奥様はそんな新郎を理解して支えてほしい。」

これ、誰が喜ぶのだろうか?

このセリフには、さまざまな暴力が含まれている。

男にしかさせない仕事がある。
女は寝食忘れるほど仕事をしなくていい。
女は家を守れ。
女は夫の仕事を支えよ。
男なら寝食忘れて仕事しろ。

今なら完全にアウトだと思うけどまだ、アウトと思っていない人も存在している可能性がある。

しかし、驚くことに、当時この会社ではこれが普通だったのだろう。

さて、最近、会社で男性育休を取得した人から話を聞く機会があった(怒りに燃えた結婚式の2年後からずっと外資系企業にいる)。

実家を頼れないということでパパが育休を取る、都会ではよくある話ではあるが驚いたのは、夫婦シフト制にして夜間のミルクおむつ対応まで分担していたことだった。完全に、パパママどちらが抜けても大丈夫な体制を築き上げて、ママが1人になれる時間を確保していた。更に、育休を分割しママの復職時にパパは育児にあたると言う。

その方は、男性の中でもかなり意識の高い方で 誰もがこのようにはいかないと思う。しかし、これが令和のイクメンかぁ、と私は感無量。

その方がこのようにも言っていた。
専業主婦のママに育児家事を放り投げて仕事に奔走したことをまるで武勇伝のように語る年配の人がいる、と。自分は絶対そうはなりたくないと。

意外ではあった。私の周囲の年配の男性たちはむしろ、武勇伝にするどころか仕事中心の過去を恥じていたり今崩れた信用を立て直すのに必死だと苦笑いする方も多い。お子様が小さい同じ年頃の方々は、普通に旗振り当番で抜けたり園児の送迎もしている。

職種にもよるかもしれない。業界的に、営業部門は昼夜休日問わず呼び出されることがあり得るため、子育て放棄を武勇伝にする人もいかねない。

いずれにせよ、時代は変わった、と思う。

変わってしまったことに不都合な人もいるかもしれないけど、今の時代の方がいいなと個人的には思う。

パパとママが協力しあって家を守り、子どもを育てる方が家族みんなハッピーじゃないかな、と思うから。

そして、人は寝食を忘れてはいけないと思う。

怒りのあまりバームクーヘンのやけ食いをしたのはよくなかったけど、そこから何かを掴みたいと奔走してきて、それこそたまに寝食も忘れそうになりつつ仕事も続けて、夫と共に子育てをしてきて、同じような考えを持つ人に男女問わず出会えて嬉しい。

こんな些細なことが子どもたちの未来のためになっていると願っている。

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