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この坂を登れば
横山展望台という所に行ったことがある。三重県は志摩にあるそこからの眺めは誰がどう見ても絶景で、英虞湾を一望できる景勝地である。
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空は広くずっと先に水平線が長く続く。手前にある英虞湾の入り組んだ江の形がその絶景をより絶景にしていた。
「英虞湾」といえば中学校の社会の授業で習ったことがある。地理的分野で「リアス(式)海岸」について学習する際、その例として出てくる。
当時の僕からすれば「アゴワン」と聞いて真っ先にイメージしたのは元横浜ベイスターズ内川聖一の「顎」である。この用語を内川聖一のイメージで暗記をしていた気がしてならない。
だが一度英虞湾をこの目で見ると、もう「アゴワン」と聞いて内川聖一は思い浮かばない。浮かんでくるのは先の絶景だけだ。
そんな横山展望台はなぜ「横山」というのかといえば、それは至って単純で展望台付近は山であり、その付近にさらに連なる山が存在するからである。
まあその辺に横山さんが住んでいたとか、そういった理由もあるのかもしれないが、大方地名から名前は想像できる。
それにしても横山展望台という名前はとても良心的である。誰が聞いても横に山がある展望台なのだと感じるからだ。
では「横浜国立大学」はどうか。目を閉じて横浜をイメージしたとき、誰もが思い浮かべるのはみなとみらいであろう。ランドマークタワーやクイーンズ・スクエア、コスモワールドの大観覧車といった都会的な建築物と、海。
横浜はビルと海が織りなす大都会というイメージで差し支えないだろう。しかし、あろうことか横浜国立大学は山に位置しているのである。
「横浜」なのだからサイドに海がなくてはいけないのに、サイドは山だろ、ここ。
当然、山の中にあるためポジティブな表現をすると「自然豊か」な場所である。あとは戦国時代的な視点で、「攻め込まれにくい」場所ともいえる。
しかし、誰が横浜と聞いて山や自然を思い浮かべるのか。野球ファンが「阪神ファン」と聞いて上品で客層の良い集団と認知しないのと同じように、横浜に山と自然があるなんて誰も認知していない。しかも現代は別に戦国時代ではないから、攻め込まれにくさは単純に不便な場所というだけのことである。
当方、この横浜の山にある大学院へ通っているのだが、駅からの遠さには度肝抜かれた。
電車というのは山岳地帯を走れぬ乗り物であるため、当然、山にある横浜国立大学に直結したような駅は作れない。
ルートは様々だが僕は和田町という相鉄線の駅から約20分ほどかけて登校している。なんだ、20分くらいかと思った諸君、この20分を侮るべからず。山を舐めてかかってはいけない。我々は毎年箱根駅伝の5区山登りで苦しむ選手の姿を数多に観ているではないか。
この坂が箱根駅伝レベルかと言われれば誇張表現としてもそこまでとは言い難いのだが、端的に申し上げて「毎日が登山」である。「every day 登山」。登山というのは日常的な現代社会から離れ、非日常の自然を味わうから楽しいのだが、日常が自然を味わう登山になってしまえばそれは苦痛以外の何者でもない。
特に最近のように暑くなってきている時期はなかなかの地獄である。心拍数は階段を登り切るとアベレージ130くらいにはなるので、汗が吹き出るし、標高も高い(数十メートルですが心理的な高さはエベレスト級だ)から紫外線もなんだか強く感じるし、もっとも空気が薄く感じてならぬ。
この大学、入試へのハードルよりも階段を登り切るハードルの方が高いのではないかとも思った次第だ。学部は知りませんが、少なくとも大学院は。
ではこの坂をどのように乗り越えるか。僕はこの春から様々な工夫を施してきた。以下、その工夫点である。もし、あなたが下記に挙げたもの以外にも有用的な工夫点を思いついたら、是非コメント欄にその案を書き込んでいただきたい。
①この坂を長崎だと思って登る
3月上旬、長崎に訪れた。大学の卒業旅行で訪れた長崎でちゃんぽんを幾度となく喰らい、急な坂や階段を幾度となく登った。長崎旅行の思い出はとても楽しいものとして今も記憶に残り続けている。
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横浜国立大学までの坂道の幅は鎌倉の小町通りの半分くらいしかない狭い道で、つづら折りになった坂はどことなく長崎に似ている。似ていないポイントといえば、通学路の道中、ずっと海が見えないことくらいだ。見えるのは坂に建てられた住宅街だけ。急勾配にそびえる家々が長崎感を醸し出していることだけが唯一の救い。
もちろん長崎感を演出するために、福山雅治を爆音で聴きながら登ろう。春夏秋冬問わず、「桜坂」を聴いておけば間違いない。
大学へ行くのではなく、観光として長崎に訪れている錯覚をすることで幾分か楽しく登校ができるのだ。
この唯一の弊害といえば、ちゃんぽんが無性に食べたくなることである。是非とも横浜国立大学の学食のラインナップにちゃんぽんを。あと、和田町駅前にリンガーハットを。
それと、なぜか長崎だと思って登校したその日は一日中声が低めになってしまいます。イケボになってくれれば完璧なんですけどね。
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②応援ソングを聴く
ただ、毎日長崎旅行をしていたら当然飽きてしまう。福山雅治の音楽も至高なのだが、坂を登り切るのにエールがほしい。そこで思いついたのは応援ソングを聴くということである。世界に応援ソングは無数に存在するだろうが、やはりZARDの「負けないで」に叶うものはない。ということで、実際にイヤホンを耳にさして「負けないで」を再生してみる。
すごいぞ。坂井泉水が歌い出す前にも関わらずエネルギーが内側から溢れてくる。聴くエナジードリンクだ。
弊害としては、気づいたら走ってしまいそうになっていることである。走らずとも無意識のうちに勝手に早歩きになってしまう。だいぶゆとりを持って大学に着くようにしているため、全く走る必要はない。エネルギーを得られる代わりに消費するエネルギーも多いようだ。
大学に着きそうになったら加山雄三の「サライ」を流そう。
大学付近にはもう急な坂は存在しないため幾分か楽ではあるのだが、「サライ」の序盤はなぜか歯を食いしばる険しい顔になってしまう。気のせいか、膝が突如と痛み出す。サポーターを巻きたい気分だ。この痛みは心理的なものなので当然身体的痛みは全くない。
それにしてもクライマックスは感動的だ。横国の木々たちが僕に黄色い声援を送る人たちに見えてくる。教室まであと少し。腕を強く振って、前へ前へ進むのみ。校舎が見えた!そして僕は24時間、走り切ったくらいの高揚感と共に教室へ入る。
なんだか達成感に満ち溢れた挙句「もう帰りたい」、というのが毎度思うことである。
あとは、「チャリティーの一部を独占したい」も結構な頻度で思う。
それから忘れてはいけないが、僕は広島東洋カープというチームを贔屓にしているものだから、黄色のTシャツは好んで着たいと思わない。チャリティーTシャツは広島東洋カープの真っ赤っかなTシャツで統一すればいいでしょう。
③坂上忍がいるという妄想をする
この坂を登れば、この坂の上に、坂上忍がいるかもしれない。いや、「坂上が忍んでいる」が正しい表現か。
たくさんの子犬たちと共に、「この坂さぁーパワハラだよねぇっー!」と大きな声で怒鳴り散らす坂上の姿があることを信じて。
一生に一度は観たい、坂上忍。
生「パワハラだよねぇっー」。
当然、これまでの人生で彼と会ったことはない。しかし、坂上がいることを信じればいつもより坂の傾斜は緩く見える。
「それさぁー錯覚だよねぇっー!」
気のせいでしょうか。今、坂の上から声がしました。
④誰かと一緒に登校する
坂上忍は置いておいて、これが一番楽しい。一瞬で教室に着く。どこでもドアとは友人のことだったのか。のび太、持つべきは友達や。いつまで道具に頼ってんねん。
登校において、福山もZARDもサライも友人に勝ることはない。無論、坂上忍も。
ということで、これを読んでいる横浜国立大学の皆さん、今後も僕と一緒に登校してください。まだ一緒に登校したことない方、是非行きましょう。でないと僕はいつしか不登校になってしまうかもしれません。
不登校の原因 : 通学路における急な坂
【追記】
ちょっとばかし「ちゃんぽん」が食べたくなったあなたへ贈る!ちゃんぽん特集記事。あわせて読みましょう。「実におぅぃしそうな記事でぇーす(低音イケボ)」
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