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伊藤緑
2022年3月30日 22:15
移ろうものの前に座り膝を抱えて背を丸めながらじっとじっと見ていられるほど我慢強くはない目玉が植わっている
2022年3月29日 23:37
家の前のドブ川に沿うガードレールに腰掛けてポケットに手を入れ持たされなかった鍵を弄びながらも痛みの父母は生であることを幼い頃は思い描けず
2022年3月28日 22:19
目をつくっていただけませんか光を閉じ込めることのない暗い色で塗りたくられた目玉です深く深く潤った目玉ですどうしても見たくてたまらないんですだからどうか見せていただけませんか空っぽな目玉をつくっていただけませんか
2022年3月27日 22:39
始まりとは終わりであって始めることは終わらせることなのですから決して始めてはならないのですよねと石に向かって苦く笑いかけながら指先に溜まっていく老いた心音を浅く握り締めるほかありません
2022年3月26日 22:45
見えない字で書いた手紙があるのです引出しの奥で束になって眠っているのです切手は持っているのですが宛先だけがないのですだからどうか教えてください宛先を
2022年3月25日 23:04
肉の形状が精神の喉を通ろうとするたび心はむせてえずき震えながらも涙を拭い隠してほかの肉に向かって笑みを浮かべる
2022年3月24日 20:56
結局言葉を並べているだけでなにも再現できずに理想だけがただ腕を広げて微笑んでいる
2022年3月23日 20:47
箱を開けてみて中身がないことに遠く微笑み閉じて次の日もまた汗ばんだ手で箱を開けての繰り返し
2022年3月22日 22:30
川も月も草も土も街灯もコンクリートだってそう言葉を使ったりはしないからだから誠実なのです
2022年3月21日 20:50
覚えているのは言葉です。思い出しているのも言葉です。過去というものそれ自体を覚えているわけでもなければ、思い出しているわけでもない。再現できるのは、想起できるのは言葉であって過去ではないから、だから苦しいのです。
2022年3月19日 22:08
詰まりかけのシンクが、流れていかない薄い水が言うんです。何かを見ようとしている目、その目の焦点は合わないものだと。曖昧な視線だけがその何かを見ようとしていると。まっすぐな目玉に何も感じないのは、その目が恣意と概念と乱交しているから。それを見せびらかしながらも平気でいるから。虚ろに輝く、色のべったりと塗られた瞳だけが何かを映そうとしている。だから震えるくらい、そうした目に指を入れたくなるんだって。
2022年3月18日 20:40
なにかを映してはその水面に閉じ込めて離さない目玉よりもなにひとつ映ることのない虚ろな瞳のほうにずっとずっと目を奪われるんです
2022年3月17日 19:35
心臓に詰まりを感じながらも狂っていると思えないのはこの肉が狂っているからでしょうかそれとも狂っていないからでしょうか
2022年3月16日 22:11
どれだけ声を出そうとしたところで、叫ぼうとしたところで、周りに聞こえたりはしないんですから、同じような耳を持った遠くの人にしか気配はゆかないんですから、だから大丈夫、言葉、絞り出そうとしていいんですよ。