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古くてあたらしい生き方|『西の魔女が死んだ』
梨木香歩
新潮社 (2001年8月1日発売)
今日のお昼はサンドイッチを食べよう。
そう考えながら、パンを焼いてバターを塗り、鶏の飼育小屋へ行って卵を拾い、なめくじ付きの庭のレタスをひとたま抱える。香り付けに、摘んできたばかりのキンレンカの葉も数枚挟んで出来上がり。
そんな暮らしは、なんて真新しく、鮮やかなのだろう。
私たちが幸せに生きるために、本当に必要なものは何か。私たちの人生にとって、本当に価値のあるものは何であるのか。この本には、現代を生きる私たちの社会が求めた答えの一つが隠されているように思える。
洗濯機も、掃除機もない暮らし。けれど、無いからこそ生まれるものがたくさんあった。近所の人とのつながり、穏やかな心、母なる大地への尊敬の念、
西の魔女と呼ばれるおばあちゃんの、一見古風で時代遅れな生き方は、古くもあり、どこか新鮮だった。それどころか、生まれた時から、人間が自然に反して作り上げた文明文化に身を置き、文字通り「人工的なもの」に囲まれていた私にとって、自然の一部として、ごく自然に身を委ねるおばあちゃんの生き方は、真新しく、カッコよく思えてならないのであった。
それでも、無理をする必要はない。自分を責める必要はない。
「(中略)自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きる方を選んだからといって、誰がシロクマを責めますか。」
生物としてのリズムを目覚めさせ、体と心をしっかりさせる。そして、何かを口にするときはふと思い出したい。「料理される前は、みんな自分と同じように生きていたのだという事実、そのお陰で自分は生きていられるのだという事実」を。