BYARDという未知の大海原で理想のカスタマーサクセスの実現に挑む
2024年3月、BYARDの新たな執行役員である「VP of Customer Success」として鈴木高太郎がSmartHRより転籍・就任いたしました。
なぜ出向から戻るのではなく転籍を選んだのか。
SmartHRという大企業ではなくBYARDというスタートアップ企業で何を実現したいのか。
就任にあたっての想いや、これからの意気込みについてインタビューしました。
カスタマーサポートや営業とは違う「カスタマーサクセス」という仕事
ーー 鈴木さんの担当である「カスタマーサクセス」とは、どういう役割ですか?
鈴木:名前に「サクセス(成功)」と付いていますが、これには2つの視点があります。
1つめは、売っている会社視点でのサクセスです。
最近「サブスク」という言葉をよく耳にすると思いますが、これは「プロダクトを使い続けている間は利用料を支払う」というモデル(サブスクリプションモデル)のことで、多くのSaaSが採用しています。
たとえば、映画や音楽を鑑賞したいと思ったら、昔はDVDやCDを買わなければなりませんでしたが、今は皆さん、NETFLIXやSpotifyを使っているのではないでしょうか。
サブスクはお客様が好きなときに契約し好きなときに解約できます。ですので、売っている側にとってはいかに長く自社のプロダクトを使い続けてもらうかが重要です。
お客様が解約(チャーン)せず使い続けてもらえるよう支援すること、そして、使い続けるなかで新しいオプションや上位プランを追加契約(アップセル)してもらうことが、カスタマーサクセスの1つめの役割です。
2つめは、お客様視点でのサクセスです。
使い続けてもらうためには、お客様がプロダクトの価値をちゃんと体験し「使って良かった」と感じてもらわなくてはなりません。
たとえば皆さんは、Excelを使っていて「こんな機能があるなんて知らなかった」ということはないでしょうか。
数式や関数を使えばパッと処理できるのに、知らないから苦労して一つずつ計算している……というように、毎日使うものでも使い方のすべてを知らないことは多いものです。
便利な機能があっても、ちゃんと知ってもらわなければお客様に「使えない」と思われてしまいます。しかも、サブスクの場合は解約が容易ですから「使えない=解約」に直結します。
そのためカスタマーサクセスの最初の段階では、使い方をレクチャーしたり、お客様の会社のなかで使える人が増えるよう広げていったりという支援をします。
さらに、ビジネスにおいてはその先、プロダクトを使うことでお客様が成果を得てもらうことがとても大切です。
マーケティングではよく
……という話が出てきますが、いくら性能の良いドリルを売り、使い方を丁寧に教えたとしても、お客様が自分で望んだ穴を開けられなければ使い続けてもらうことはできません。
プロダクトの価値をちゃんと体感してもらったうえで、お客様がプロダクトを使うことにより成果をちゃんと得られるという、文字どおり「カスタマーサクセス=顧客の成功」を実現することこそが、私たちの大切な役割です。
ーー カスタマーサクセスとよく似た単語として「カスタマーサポート」がありますが、この2つはどう違いますか?
鈴木:よく言われるのは、サポートは受動的(リアクティブ)でありサクセスは能動的(プロアクティブ)であるという違いです。
サポートは、お客様から受けた質問や要望に対して適切な回答をする役割ですので、どちらかといえば受動的です。
一方でサクセスは、先ほど述べたように、お客様が成果を得られるよう支援することが役割ですので、成果へ向けお客様と一緒に能動的に取り組んでいく仕事です。
ただ、能動的と言ってもこちらの都合や勝手な想像で「こうすべき」「ああすべき」とやっていたのでは、お客様にとっては単なる押しつけです。
お客様の業界や事業、組織や業務の構造がどうなっているのか踏まえたうえで、初期設定の完了率やログイン率などの定量的な数字と、日常のやり取りや定例ミーティングなどで見聞きした定性的な情報を踏まえ、仮説を立て提案するというのがカスタマーサクセスにおける能動だと思います。
ーー 営業の業務と重なる部分もありますが、営業とはどう違いますか?
鈴木:これは善しあしの話ではないのですが、「主な業務が既存顧客へのフォロー営業になっている」というケースはけっこう多くあります。
少し背景を補足すると、ここまで紹介してきたカスタマーサクセスの役割も含めて
……という役割のすべてを、かつては営業担当者が担っていました。
2010年代になると、営業担当者だけで担うのは(とくに大きな組織において)負荷が大きく非効率ということで、米国のSalesforce社が提唱した「The Model(ザ・モデル)」によって科学的に役割が分担され、インサイドセールスやフィールドセールス、カスタマーサクセスなどに細分化されました。
ただ、カスタマーサクセスの概念が日本に入ってきたのは2016年頃で、比較的新しい概念のため、十分な理解を持っている人はまだ多くありません。
……をひと言で説明しようとすると「これまで営業担当がやっていた既存顧客へのフォロー営業みたいなもの」という言い方になりやすいのです。
さらに、カスタマーサクセスは広報などと構造が似ていて、成果は遅効(遅れて効果が現れる)なので、短期的に測りづらいということも関係しています。
たとえば、企業がプロダクトを解約する意思決定をしても、移行先の選定やトライアル、並行運用の期間を経て、実際に移行完了・解約となるまでには半年以上のタイムラグがあります。
また、解約を決めた理由も機能・料金・サポート品質などさまざまな要素が絡み合うため、原因を一概には特定できません。
冒頭でカスタマーサクセスの役割は「使い続けてもらえるようお客様を支援すること」と述べましたが、だからと言ってKPIを“解約数”と設定しても「今月は解約数が減ったからカスタマーサクセスは成果が上がっている」と簡単には言いづらいのです。
他方で、経営側としては投資対効果をなるべく短期間で出したいと考えるのは当然で、スタートアップ企業であればなおさら短期的な成果へのプレッシャーがかかります。また、社内の他部門からも「カスタマーサクセスは仕事しているのか?」という目線を向けられがちです。
経営層からも他部門からもプレッシャーがかかり、その結果、比較的短期で成果が測りやすい「アップセルの獲得数」などのKPIが設定され、それを追いかけているうちに既存顧客フォローの営業部隊ができあがるーーこんな話がよくあるのではないでしょうか。
事業成長のためには全部門が一丸で売上を上げていくことは大切ですので、こうした話が間違いだというわけではありません。そこが、カスタマーサクセスの理想と現実の難しさかなと思います。
カスタマーサクセスの本来あるべき姿を、BYARDで追求する
ーー そうしたプレッシャーに耐えているという観点で、BYARDのカスタマーサクセスは他社とどのように違いますか?
鈴木:カスタマーサクセスが本来あるべき姿を追求するためには、
経営者の理解
部門同士のリスペクト
開発体制
……の3つの要素が必要だと考えています。
1. 経営者の理解
鈴木:1つめは、カスタマーサクセスについて経営者が理解してくれていることです。
SaaS事業の成長とは「日々の意思決定やアクションの積み重ねでできあがるもの」だと僕は思っています。
エンジニアやセールス、バックオフィスなどが、それぞれのやるべきことをミルフィーユのように1枚ずつ積み重ねていき、その高さが成長の度合いになる。正しく丁寧に重ねていけば安定して高く積み上がり、急いで雑に重ねていけば不安定になって倒れてしまう、そんなイメージです。
カスタマーサクセスで言えば、お客様が成果を得られるよう長期的に支援することが、もっとも正しい積み重ね方だと思います。
もちろん、会社の売上が足りなければ短期的な売上増加に取り組むべきですが、それ以外は「長期的なアクションをいかに地道に積み上げられるか」が重要です。
BYARDは、代表の武内がSaaSマニアでいろいろなSaaS企業を研究していることもあり、カスタマーサクセスの成果が地道な積み上げで現れることを理解してくれていますし、「それをやることが会社にとっても重要だ」と思ってくれています。それが、1つめの要素としてとても大きいですね。
2. 部門同士のリスペクト
鈴木:1つめの要素と関連しますが、経営者だけでなく、会社全体として「それぞれの部門は本来こういう姿であるべき」という意識を共有し、お互いを尊重できていることもまた大切であり、これが2つめの要素です。
たとえば、セールスは短期的な成果が重要ですが、カスタマーサクセスは長期的に取り組まなければ成果が現れません。部門によって価値基準が異なるのは当たり前で、ときに利害が食い違ったり、どちらかへ偏ったりすることもあります。
しかし、最終的に目指しているのはどの部門も同じで「会社として掲げているビジョンの実現」のはずです。
自部門のミッション達成を目指しつつも、自分たちの価値基準だけで考えず「それぞれの部門は本来こういう姿であるべきだよね」と互いを尊重し合えているBYARDの社風は、とても良いなと思います。
3. 開発体制
鈴木:そして3つめは、機能開発と運用回避のバランスが取れた開発体制であることです。
SaaSはローンチしたら終わりではなく、アップデートを重ねることで少しずつカイゼンされていきます。もし、現時点でユーザーの望む機能が足りなければ、カスタマーサクセスがカバーするための運用方法をユーザーへ提案(運用回避)し補完することも大切です。
しかし、いつまでも運用回避の状態が続くと、機能が足りていなくても「運用で解決できているならそれでいいのでは」という方向へ流れがちになり、結果、カスタマーサクセスは運用回避に追われて本来やるべきことに時間を使えなくなってしまいます。
開発側はただでさえ忙しく、取り組むべき課題はたくさんありますので、運用回避できている課題の開発優先度が下がってしまうのは当然です。機能開発と運用回避のバランスを取るのは、とても難しいことです。
この点で、BYARDはCTOの辰本のもと、
R&D(Research & Development)チーム
Foundationチーム
Enhancementチーム
…という、3チームによる開発体制を敷いています。詳しくは以下のnoteをご覧いただきたいのですが、これは非常にユニークですし、機能開発と運用回避のバランスが取れた開発体制にもつながっているのではないかと思います。
「大企業」という安全具を外し未知の大海原へと飛び込む
ーー 出向任期満了後、転籍する/しないはどのように決まりますか?
鈴木:出向元であるSmartHRと出向先企業、そして出向者本人の三者が合意すると「転籍OK」となる仕組みです。
ただ、僕は2年前にBYARDへの出向を決めた時点で「もうSmartHRには戻らない」と決意していました。
ーー 出向の時点ですでに心を決めていたのですね
鈴木:「戻る」という選択肢を持ったまま出向するのは、BYARDのメンバーに失礼だと思ったのです。
僕は、スタートアップの創業に携わるのはBYARDが2社目です。事業立ち上げには、ここではしゃべりきれないくらいさまざまな苦労があります。その経験から、いつでも元の居場所に戻れるなんて考えでは、事業を成長させることなどできないと思っていました。
なによりも、BYARDというプロダクトと、彼らが作り上げようとしている事業に魅力を感じたからこそ、一緒に作っていきたいと思いました。
ですので、最初にBYARDへ来たときの自己紹介で、「SmartHRには戻らない気持ちでこの場にいます」という話をしました。自分のなかで「戻る」という安全具はいったん外して、BYARDという大海原へ思いきり飛び込んでみようと思ったのです。
ーー 出向任期満了で転籍を決めた際に、どのような期待や不安がありましたか?
鈴木:転籍は、転職と違ってすでにお互いのことをよく知った状態ですし、ここまでの実績を総決算して評価されるので、独特の緊張感がありました。また、「メンバーのみんなが転籍というものをどう捉えているのだろう」という不安もありました。
しかし、全社ミーティングで転籍を発表したときに
とみんなが声をかけてくれて、自分がこの2年間でやってきたことがちゃんと評価してもらえていたのだと、とてもほっとしたのを覚えています。
しかも、自分のチームのメンバーだけでなくエンジニアやセールス、マーケティングなどチームが別で普段あまり関わり合いのないメンバーからも同じように言ってもらえたことは、なによりもうれしかったです。
カスタマーサクセスとは、本当の課題を探すパートナー
ーー BYARDに転籍して、今後はどのようなことに取り組みますか?
鈴木:これから、BYARDは「SaaS × カスタマーサクセス」という戦略で戦っていきます。その牽引役となるのが、私が就任するVP of Customer Successというポジションです。
10年前、日本でSaaS市場ができた当時は「SaaSであること」だけで目新しさや競争優位性がありました。しかし、この10年で市場が成熟しお客様のリテラシーもかなり上がりました。
たとえば、Googleドキュメントはファイルをクラウドに自動保存したり、クラウドを介して複数名で同時編集したりできます。10年前ならそれだけで差別化できましたが、今や「そんなのは当たり前だ」と感じる方も多いと思います。
つまり、SaaSが機能性や利便性が高いことは当たり前で、その一歩先、このSaaSを使うことによって、自分が実現したい成果(アウトカム)がちゃんと得られるかどうかが重要になっています。
多くのSaaSが採用するサブスクリプションモデルは解約が容易なため、お客様も「同じものをがんばって使い続けるよりも、より成果が得られそうな方へ切り替える」ことが当たり前です。
だからこそ、お客様からの期待に応え続けるためには「SaaSであること」だけでなく、プラスアルファの価値を提供する必要があります。そこでBYARDは「SaaS × カスタマーサクセス」を掲げました。
先行する米国ではすでに「SaaS × ○○」の成功事例が出てきており、「SaaS × コンサルティング」のVeevaや「SaaS × IoTデバイス」のSamsaraなどが大きな成長を実現しています。
BYARDは単なるタスク管理/プロジェクト管理のツールではなく、業務をカイゼンするためのツールです。そのため、カスタマーサクセスはツールの使い方だけではなく、業務の棚卸しや整理の仕方から、周囲の巻き込み方、導入プロジェクトの運営方法、実際の運用に至るまで、幅広い支援をおこなっています。
つまり、BYARDが提供する価値とは「ツールとしての機能性 × お客様が仕事の仕方そのものをアップデートしていただくこと」であり、それこそがまさに「SaaS × カスタマーサクセス」なのです。
ーー 最後に、鈴木さんにとってのカスタマーサクセスとは何ですか?
鈴木:僕は、カスタマーサクセスとはお客様と一緒になり本当の課題を探していくパートナーだと思っています。
営業の文脈では「お客様は自分の課題がなんなのか自分でもよく分かっていない」ということがよく言われますが、さらに現代は、課題がより複雑になっている時代なのではないかと思います。
この数年だけを見ても、私たちを取り巻く環境はとても大きく変化しました。複雑な課題が次々と生まれ、一つずつ考えている余裕がない。余裕がないから、さらに課題が見えにくくなる。そんなスパイラルに陥っているのではないでしょうか。
課題が見えづらいし時間もない。そんなお客様と一緒に「いま解決すべき本当の課題はなにか」を考え、解決していく。それこそが本当のカスタマーサクセスなのではないかと思います。
そして、BYARDは「お客様の本当の課題」のより近い位置にアプローチできるプロダクトであると思っています。
たとえば、電子契約のプロダクトをお客様が導入する際、解決したい目の前の課題は「契約の電子化」です。では、電子化によってお客様が得たい成果とは何なのでしょうか。
……というように、課題を抽象化し視座を上げていくと、お客様の本当の課題が見えてきますが、一般的には「プロダクトが提供する価値」とカスタマーサクセスが目指す「お客様の本当の課題の解決」との間は、かなり距離が離れています。
これに対して、BYARDが提供するのは「お客様が仕事の仕方そのものをアップデートしていただくこと」ですので、「契約の電子化」などと比べると抽象的で、一見するとわかりづらい提供価値です。
しかし、裏を返せばお客様の本当の課題と距離が近く、それゆえに、カスタマーサクセスが力を発揮できる部分も大きいと考えています。
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労働者人口の減少により「業務のカイゼン」や「多様な働き方の実現」がますます重要となるこれからの時代。必要なのは、まさにBYARDのようなプロダクトです。
そして、BYARDのカスタマーサクセスはお客様の本当の課題に近い位置で、お客様と一緒に取り組むことができる仕事です。
BYARDなら僕が長年追い求めてきた理想のカスタマーサクセス像を実現できるのではないかーーそんな想いを込めて、僕は転籍という道を選んだのです。