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「AWOL」ハードボイルドB級洋画アニメ

今回は三菱商事とバンダイビジュアルがタッグを組んだ異色のアニメ「AWOL -Absent Without Leave-」について語りたい。
本作を一言で表すなら、訳アリ軍人とテロリストの死闘を描くSF活劇だ。

「AWOL -Absent Without Leave-(1998)」

AWOLは洋画をそのままアニメ化したような、ケレン味溢れる作風が最大の特徴だ。タイトルにあるAWOLは軍隊用語で、敵前逃亡や無断離脱の意味である。さらに、主人公の声優にはアーノルド・シュワルツェネッガーの吹き替えで知られる玄田哲章氏が起用されている。

AWOLの内容も大体こんな感じ

OPテーマはhide with Spread Beaverの「ROCKET DIVE」とタイアップしており、当時週間オリコン4位、年間33位を記録する人気の高さだった。
そのため、楽曲だけは知っているという方も多いのではないだろうか。

また、本作はソフト化にあたりTV放映版から大きく修正が施されている。
TV版では全12話の1クール作品だが、VHSやLD版では再編集され全4話のOVAとなっている。尚、DVD化はされていない。

ケレン味100%の洋画的ストーリー

舞台は人類が宇宙へ進出した近未来。ある日、「ソロモン」と名乗るテロリストが惑星サイレスを急襲した。ソロモンの目的はサイレスの地球連合基地にある最強兵器PDBM惑星間弾道弾の奪取にあった。

ソロモンのリーダーであり首謀者の「デュラン・ガッシュ」

PDBMは奪われ、惑星サイレスも壊滅的な被害を被った。しかし、不可解な点が一つ。それは、連合軍が威信をかけ秘密裏に開発していた惑星防衛システムPLPPLANET LINK PLANが正しく作動しなかったのだ。

迎撃型惑星ネットワークリンクシステム「PLP」

連合軍の司令部は焦った。それもそのはず、PDBMには1発で惑星全土を破壊し尽くす威力があるからだ。しかも、その超兵器を7発もソロモンに奪取されたのだから一大事である。加えて、PLPも自軍に向けて攻撃をするなど、暴走を開始した。

惑星間弾道弾「PDBM」

PDBMの惑星全てを破壊する威力は比喩表現ではない。
その証拠に、作中で一つの惑星を消し飛ばしている。最強兵器の名は伊達ではなかった。ある意味、この奇想天外かつ荒唐無稽な兵器の存在が、本作の洋画っぽさ、またB級映画らしさを際立たせているポイントだ。

「惑星アトラス」に向けて発射されたPDBM
惑星全土に甚大な被害を与える

地球連合首脳部と軍は協議の結果、ソロモン母艦に特殊部隊を潜行させ、首謀者の殺害とPDBMの奪還を画策する。しかし、潜入した特殊部隊は全滅、作戦は失敗に終わった。

地球連合軍の特殊部隊

時を同じくして、本作の主人公ジム・ハイアットの元に訃報が届く。
ジムは凄腕ながら、後方基地で教官としての任に就いていた。訃報の中には特殊部隊に参加していた教え子の名前もあった。そして今ここに、彼の復讐と世界の命運をかけた戦いが始まる。

主人公「ジム・ハイアット」

本作は兵器を奪取したテロリスト、そして教え子の復讐に赴く上官など、洋画的エッセンスが多く見られる。
舞台設定こそ近未来かつ、SF要素もありアニメ的だが、実際はアクション映画のような大立ち回りの展開が繰り広げられる。テロリストたちの目的や要求は最後まで明かされず、「全てを手に入れる」という宣言のみ。

ミサイルが奪われる映画でこの作品を思い出した

つまり、本作の主眼はあくまで、訳アリ軍人vsテロリストの死闘、その一点のみである。それ以外の設定は良くも悪くも、作品を成立させるための舞台装置で、主人公たちの活躍を彩る添え物に過ぎない。このことから本作は、純度100%の洋画的ケレン味に溢れた傑作に仕上がっている。
したがってAWOLは、やばい兵器が敵に渡って危険が危ない!!という点だけ理解していれば楽しめる、単純明快な娯楽作なのだ。

数々の洋画的お約束

連合軍本部へ召還されたジムは衝撃の事実を告げられる。
実はPLPの開発担当者ビート・キュルテンという男が、ソロモンの一員であり、裏で手引きをしていたのだ。PLPは天才プログラマーである彼なしでは運用できない代物だ。

「ビート・キュルテン」

ちなみに余談だが、ビート・キュルテンの声優はバイキンマンやフリーザ役でお馴染みの中尾隆聖氏だ。特に本作での演技、ほぼバイキンマンである。いやむしろ、そうとしか聞こえない。中尾氏の怪演にも注目だ。

この見た目で声がバイキンマン

連合軍はジムへ部隊を編成し、テロリストの殲滅とPDBMの無力化を命じた。そして、作戦遂行に相応しい人物をリストアップしたファイルを手渡す。しかし、ジムは渡されたリストとは別に自ら独断でメンバーを選抜した。彼が選んだメンバーは軍のエースパイロット、メカニックの天才、射撃の名手、情報解析のプロ、終身刑の天才ハッカー、同じく終身刑の爆弾魔を合わせた計6名だ。

ジム率いる特殊部隊の面々

終身刑2名を含む、各分野のプロフェッショナルとそれを束ねる凄腕軍人、実に洋画らしい設定と言える。特に凄腕ハッカー(犯罪者)は洋画でのお約束の1つだ。
このように、本作はステレオタイプの洋画的キャラクターが登場する点も魅力だ。先ほどはストーリーについて触れたが、登場人物までもハッタリの効いた洋画風キャラとして描かれる。

洋画のハッカーと言えば、個人的にはこの人!

終盤、ついにPDBMが地球へ向けられてしまう。
ソロモンからの最後通牒によると、発射までの猶予は僅か3時間。
これに地球連合首脳部はパニックに陥った。何故なら、マザーコンピュータまでビートに掌握され、既に連合軍は機能不全となっていたからだ。
もはや、反撃の糸口すら掴めず、指を咥えて待つしかない状態。

最後通牒を突きつけるデュランとビート

この終盤の展開、正に洋画そのものと言えよう。
タイムリミットと地球の危機、さながら規模感はディザスター映画を彷彿とさせる。地球の存亡を巡る一大事にも関わらず、この期に及んで政治的駆け引きに執心している連合首脳部の愚かさもある意味、映画的お約束かもしれない。

地球の危機を描いたディザスター映画の名作

一方その頃、ジム率いる特殊部隊はソロモン本部のある惑星へ辿り着いた。ソロモンからの執拗な妨害と追撃で、既に連合軍とは通信が途絶え、現場の判断で作戦を遂行していた。

ソロモン本部のある惑星へ辿り着いた一行

実はジムたち一行は作戦へ繰り出した後、連合軍から無届け外出兵(AWOL)として扱われていた。囚人を含む寄せ集めメンバーに、元より軍は不信感を抱き、端から期待など寄せてはいなかった。
当初、軍は大規模な作戦によりソロモン鎮圧を計画していた。だが、前述の通りマザーコンピュータを掌握され、その目論見も潰えてしまった。
残された唯一の希望はAWOLたちへ託された。

ソロモン本部を目指すAWOLたち

最後の望みを託された寄せ集めたちと、それとは真逆の冷遇。この点も非常に洋画らしい。しかし、一点だけ洋画のお約束とは違う箇所も存在する。
それは、囚人2名は作戦成功と引き換えに無罪放免という訳ではない点だ。
この手の物語では、成果と引き換えに罪を帳消しにするのがよくある。
だが、本作はそんなに甘くはないのである。

囚人兵が活躍する映画でこの作品を思い出した

タイムリミットが迫る中、一行はようやくソロモン本部基地へ到着した。
そして行く手を阻む雑兵を倒し、ついにジムはリーダーのデュランと相見える。壮絶な一騎打ちの末、辛くも勝利したジム。
その後、基地内でビートを発見する。命乞いも虚しく彼もまた、ジムにより射殺された。

息絶えたデュランと側近の女性
右目を撃ち抜かれ死亡したビート

ビートを始末した後、彼が使用していた機器をジムは全て破壊した。
すると、掌握されていた連合軍のマザーコンピュータが復旧した。すなわち、地球の危機は去った。これにて一件落着である。

ビートが使用していたソロモン本部の機器を全て破壊する

ソロモンの主要人物を倒した後、機器を破壊すると万事解決を迎えるのも、実に洋画らしい明快な描写である。
AWOLが単なるSFアニメであれば、考証的な観点からして遠隔地にあるコンピュータが、大の原因を取り除いたからといって復旧することはあり得ない。だが、本作はあくまでも洋画的ケレン味を重視した作品だ。
つまり、それっぽくハッタリが効いて、格好良ければそれでいいのだ。

危機の打開に安堵する連合首脳陣

そしてラスト、ジムたちは奪取した補給艦でソロモン本部から離脱する。
地球への帰路につく面々は、既に自らがAWOLとして扱われていることを知っていた。ジムは皆に「生還するまでが作戦だ!」と告げて、そのままAWOLたちが軍から逃亡するかのような描写で、本作は幕を閉じる。

Fin.

ラストにて終身刑の天才ハッカークリスが、仲間から今後について尋ねられるシーンがある。するとクリスは「長いトイレに行くってのはどうだ?」と逃亡を暗示させるセリフでそれに答える。これは非常にアメリカンジョーク的なセリフ回しであり、本作の洋画らしさを象徴する名シーンだ。

「長いトイレに行くってのはどうだ?」HAHAHA!

最後に

AWOL -Absent Without Leave-は洋画要素をふんだんに盛り込んだ傑作だ。
作画やバンクの質など、時代を感じさせる点は少なからず存在する。
しかし当然だが、同時期のロスト・ユニバースなどに代表される放送に耐えない程度のクオリティではなく、及第点と言ったレベルに仕上がっている。むしろ本作の魅力は、作画の質を補って余りあるケレン味溢れるストーリーにこそ存在するのだ。

OPでのカッコいいタイトルアップ

また、AWOLを視聴する際は一気見をおすすめしたい。
本作は1クールのアニメ作品だが、2時間映画を強くオマージュした構成となっている。つまり、各話ごとにドラマがあって引きが存在するような、TVアニメのスタイルではなく、12話全体通しての起承転結として描かれている。そのため、一気に視聴して頂いた方が本作をより映画的に楽しむことが出来るだろう。

AWOL、興味のある方はぜひ視聴して頂きたい!




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