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追悼ウィリアム・フリードキン監督 映画の人生は長い列車の旅のようだ。

米映画監督のウィリアム・フリードキンさん死去
「エクソシスト」などの映画監督ウィリアム・フリードキンさんが7日、米ロサンゼルスで死去した。87歳だった。家族によると心不全と肺炎だったという。米メディアが報じた。
 1970年、同性愛をテーマにした「真夜中のパーティー」で注目される。翌71年、麻薬捜査の刑事を主人公にした「フレンチ・コネクション」を発表。ニューヨーク・ロケを生かした小気味よい演出で、アカデミー賞の作品賞や監督賞など5部門を獲得した。73年の「エクソシスト」は悪魔につかれた少女と悪魔払いの神父の壮絶な闘いをけれん味たっぷりに描いて世界的に大ヒット。オカルト映画ブームを導いた。ほかに「恐怖の報酬」「クルージング」「LA大捜査線/狼(おおかみ)たちの街」など。2013年には、ベネチア国際映画祭で栄誉金獅子賞を受けた。
私生活では4回の結婚を経験した。1977から79年までフランスの女優ジャンヌ・モローさん、82年から85年まで英女優レスリー・アン・ダウンさん、87年から90年まで放送ジャーナリストのケリー・ラングさんと結婚生活を送り、パラマウント・ピクチャーズの最高経営責任者を務めたシェリー・ランシングと再婚。91年に結婚したランシングさんとは亡くなるまで一緒だった。

2023年8月8日 16時31分 朝日新聞デジタル


フリードキン監督とリンダ・ブレア 「エクソシスト」撮影風景

曰く、
「映画の人生は長い列車の旅のようだ。時には速く、時には遅く。人々が乗りこみ、他の人が降りていき、ほんの少しの人がずっとあなたと一緒に乗り続ける。
大事なのは、それがどこで始まり、いつ終わるのかわからないということだ。」

数多くの作品を生み出してきたフリードキン監督。
厳選4作品をレビューする。

『エクソシスト』(1973)


アカデミー賞 脚色賞・音響賞受賞
(作品・監督・主演女優含む10ノミネート)
出演:リンダ・ブレア、エレン・バースティン、ジェイソン・ミラー

悪魔VS悪魔祓い  

代表作はやはり『エクソシスト(1973)』であろうか。
言わずもがな一大ブームを作ったオカルト映画の金字塔。
当時小学生。ビデオの無い時代。テレビの洋画劇場で放送されたのを観た。「荻正弘です、こんばんは。」でおなじみの「月曜ロードショー」が最初だったかな。地元の田舎でも『オーメン(1976)』とともにオカルトブームが起こり、何故か日曜日の14時くらいから怖い映画ばかりを放映していたような…。 
"悪魔祓い"という未知のショッキングなテーマ、後世に残る名シーンが目白押し。トラウマになりかける。一度観たら忘れられない。50年前にこれを撮るとは、今観ても凄い映画だ。常にホラー映画のランキング上位に位置している。
少女の母親役のエレン・バースティンはのちに『レクイエム・フォー・ドリーム(2000)』で取り憑かれたような…狂気の演技を魅せる。
イナゴの大群がでてくる『エクソシスト2(1977)』も楽しめた。(フリードキン監督は製作のみ)
主題歌「チューブラー・ベルズ」も素晴らしかった。


『恐怖の報酬』(1977)


出演:ロイ・シャイダー、ブリュノ・クレメール

ハラハラドキドキつり橋シーン

最初は「日曜洋画劇場」で放送されていたのを観た。解説の淀川長治氏が古い映画のリメイク版だと教えてくれた。ニトログリセリンという劇薬があるということもこの作品で知った。公開当時は酷評されていた(のちに高評価に転じる)らしいが、なんのなんのハラハラドキドキ手に汗握る展開に目が離せなかった。特にニトロを積んだトラックでボロボロのつり橋を渡るシーンの緊張感、恐怖感は最高。すべてのシーンは本物で、CGはゼロらしい。主演のロイ・シャイダーは既に『ジョーズ(1975)』で知っていて、親戚の加藤のおじさんに似ていて勝手に親近感を持っていた。
監督自身が「キャリアの最高傑作だと信じている。最も誇りに思う作品。」と位置付けている。 


『L.A.大捜査線/狼たちの街』(1985)


出演:ウィリアム・L・ピーターセン、ジョン・パンコウ、ウィレム・デフォー

偽札を作る若きデフォー、いいね

唯一、劇場で観たフリードキン監督作品。あまり知られていないがこれはおススメ。
衝撃のラスト。北野武監督が『その男、凶暴につき(1989)』を作るにあたり参考にしたとも。ブレイク前夜(自分の中では「ストリート・オブ・ファイヤー(1984)」で既にブレイク中であった)のウィレム・デフォーの圧倒的な存在感。主役の2人が地味なのでより際立っていた。冒頭、偽札づくりの緻密な描写がリアルだ。バディ刑事ものだが、観ていく内に何が正義か分からなくなってくる。フリードキン監督らしい展開。
カーチェイスは必見。さすがの「チェイス狂」フリードキン!本領発揮、ここでもCG、VFXは一切なしの大迫力。パンフレットによればフリーウェイの900台あまりの車の流れに逆行して突っ走る、およそ15分の凄絶なノンストップ・カーチェイスとある。
狂気の捜査はエスカレートしていき衝撃のラストへ突き進んでいく。こんなのアリなんだと、当時では真新しく、観た直後はしばらく呆然としてたのを覚えている。バイオレンス・アクションの快作。


映画パンフレット(約40年前…よく持ってたなー)
900台が走るハイウェイを逆走

『フレンチ・コネクション』(1971)


アカデミー賞 作品賞・監督賞・主演男優賞・脚色賞・編集賞受賞
(8ノミネート)
出演:ジーン・ハックマン、ロイ・シャイダー、フェルナンド・レイ

「ポパイ」は実際の愛称として定着したハックマン

こちらを代表作とする人も多いかな。
実はこの4作品の中では観た順番は一番遅かった。VHSで観た。
「ポパイ」ことドイル刑事を演じるはジーン・ハックマン。口が悪く、手が早い、粗暴でコワモテだ。しかし正義のため突っ走る。地下鉄に乗るの乗らないのシーンは巧み。売店でりんご飴?を買って列車内でかじっていたのも面白かった。
相棒「クラウディ」演じるはロイ・シャイダー。(助演男優賞ノミネート)野暮ったいドイルとは対照的でスマートだ。いい塩梅。
実際の事件がベースのドキュメンタリータッチな作品。泥臭い捜査がやがて狂気を帯びてクライマックスまで一気に魅せる。
そして伝説のカーチェイス。カーチェイスで有名な『ブリット(1968)』(スティーブ・マックイーン主演)は、マックイーンが駆るマスタングが犯人のダッチ・チャージャーをサンフランシスコの急こう配な坂道を爆走追跡するが、こちらは車を追走するんじゃなく高架橋を走る地下鉄を追いながらの、猛スピードで逆走だ。
撮影裏話では、通行人や通行者には何も知らせず、車の屋根に危険告知のサイレンだけ付けて、安全確保も交通規制もなしの完全信号無視で時速100キロで爆走させて撮影したとか。どちらも今の時代じゃ到底不可能な話だが、だからこその緊張、興奮、リアリティがある。まごうことなき傑作。
突然のラストのその後は「フレンチ・コネクション2(1975)』(ジョン・フランケンハイマーが監督)で描かれている。こちらも楽しめた。

タイトルの「フレンチ・コネクション」とはトルコからフランスを経由して米国に輸出されていたヘロインの密売ルートおよびその組織のこと。(Wikipediaより)



2013年ベネチア国際映画祭で栄誉金獅子賞を受けた。

1971年の『フレンチ・コネクション』で30代半ばにしてアカデミー賞監督賞を受賞し、その2年後の『エクソシスト』でも同賞に再びノミネートされたウィリアム・フリードキンが、87歳で亡くなった。
彼の死を受けて、ハリウッドの名だたる面々が追悼の言葉を寄せている。米Deadlineなど複数のメディアが報じた。

『エクソシスト』に出演したエレン・バースティンは「私の友、ビル・フリードキンは独創的で頭が良くて教養があり、恐れ知らずで野性的で才能にあふれた人だった。セットでの彼は自分が何を求めているかをちゃんと理解していて、そのためなら何でもした。一方で、新しい何かが起きているのを目にすれば、当初のアイデアをナシにできる柔軟性もあった。文句なしの天才だったわ」と称えた。

フリードキンの遺作『The Caine Mutiny Court-Martial(原題)』に出演するキーファー・サザーランドは、「ウィリアム・フリードキンと一緒に仕事ができたことは僕のキャリアの中でも誇らしいこと」と述べている。

“ホラーの帝王”スティーヴン・キングは、フリードキンを「才能あふれるフィルムメイカー」と評し、「『エクソシスト』はもちろん素晴らしいが、私にとって真のクラシックは『恐怖の報酬』だ」と、1977年の作品を推薦。

1970年代にフリードキンとともに制作会社を立ち上げたこともある巨匠フランシス・フォード・コッポラは、同世代の監督として初めてできた友人だったという旧友フリードキンについて「ちょっと怒りっぽくて愛すべき性格で、美しく賢い巨人のような男だった」と評し、「彼の映画はどれもがビリーの才能を感じさせるもので、生き生きしている」と称賛した。

フリードキン、コッポラとともにオスカー監督の一人であるギレルモ・デル・トロは、フリードキンと一緒に写った写真に添えて以下のようなメッセージを投稿。「世界は“シネマの神”の一人を失った。映画界は優れた学者を、そして私自身は親愛なる友人を亡くした。彼は去ってしまったが、存在してくれたことに感謝したい」

2023年8月8日 〈海外ドラマNAVI〉 

キャリアの後半は作品をヒットさせることは出来なかったが、つまらなくなった訳でなく時代に合わなかったのかも。どの作品もフリードキン節が感じられ佳作が多い印象だ。
常に不安感と虚無感が付きまとう。アクションやサスペンスをうまく盛り込み充分エンターテイメントとして成立しているのに、鑑賞後には不安感を残していく。それが魅力のひとつでもあった。
アクションに目が行きがちだが、音楽通でもあったように思う。作品内の選曲が絶妙だった。

Laura Branigan - Self Control (Official Music Video)

あとで知ったのだが、80年代MTV時代のヒット曲ローラ・ブラニガン「Self Control」のPVの演出はフリードキン監督。当時MTV内で論争が起き
一時期放映禁止になったセンセーショナルなPV。流石である。

また一人素晴らしき才能を失った。R.I.P.

                    (text by電気羊は夢を見た) 



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