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特別企画:"戦争映画"3選 (番外編)『ブラックホーク・ダウン』『ハート・ロッカー』『ローン・サバイバー』【映画レビュー】

『ディア・ハンター』(1978)『地獄の黙示録』(1979)『キリング・フィールド』(1984)『プラトーン』(1986)『フルメタル・ジャケット』(1987)『プライベート・ライアン』(1998)等々…数多ある名作「戦争映画」。
 
一昔前は「戦争映画」と言えば、二つの世界大戦とベトナム戦争が舞台のものが多かった気がするが、現代に至るまで世界平和には程遠く、今日もどこかで「戦争」は続いている。
故に様々な新しい「戦争映画」が生まれることになる。
「戦争映画」を観る意義。
やっぱり戦争はやっちゃいけないと再確認できれば。

他のBCCメンバーと被らないもの、「実話である」「史実を基に」などリアリティを持ちつつエンターテイメント性のある作品を選んでみた。"わが心の"ではないが。英雄視せず称賛せず人間ドラマとして。


『ブラックホーク・ダウン』(2001)

監督:リドリー・スコット
P:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ジョシュ・ハートネット
原作:『ブラックホーク・ダウン アメリカ最強特殊部隊の戦闘記録』     (マーク・ボウデン著)
背景:アフリカ・ソマリア内戦 米軍ソマリア介入「モガディシュの戦闘」
米政権:ブッシュ大統領~クリントン大統領 
和平反対勢力:アイディート将軍派

第74回アカデミー賞 編集賞、音響賞受賞。

「ブラックホーク」とは、米軍の汎用ヘリコプターUH-60ブラックホークの強襲型、「MH-60L ブラックホーク」のこと。(「Wikipedia」より)

自分の国のことは自分たちで解決すると、内戦であるから首を突っ込むなというソマリア側とこれは内戦ではなく虐殺だと介入を決めたアメリカ(と多国籍軍)。
1993年国際世論に推される形で米軍は、民族紛争を終結させるためソマリアへ派兵。
和平に反対しているアイディート将軍派の副官二人を拘束するためソマリア首都モガディシュへ特殊部隊(レンジャー、デルタフォース、ナイトストーカーズ等約100名で構成)を投入。
30分足らずで終了するはずの作戦だった。二人の身柄拘束に成功し撤収を待つばかりだったが、「ブラックホーク・ダウン」により戦況は一変する。

作戦変更を余儀なくされ、「誰一人残すな」司令官命令の下、生存者の救出に向かう。高い戦闘技術を持ち、装備の質も良く、ヘリからの航空支援も受けている米軍部隊であったが、死を恐れず次々に現れては襲ってくる民兵を相手に徐々に追い詰められていく。

何故、戦うのか。
劇中ひとりの兵士が答えを出すが、その答えが正解だとしてもあまりにも犠牲が大きすぎる。正解だと思わないととても耐えられないのだろう。
だがこの戦闘で、ソマリア民兵の正義が米兵18人の命を、米軍の正義がソマリア民兵1000人の命を奪った事実。
美談にしてはいけない。

ほとんどの時間が戦闘シーンである。臨場感、没入感が凄い。
アメリカ映画で原作も元兵士が書いたものであるから、どうしても正義はアメリカ、敵はソマリアという構図で描かれるのだが、
リドリー・スコット監督は、極力その部分を抑えながら
善悪を問わず戦争の過酷さ悲惨さ虚しさを泥臭く表現していた(それでも米軍寄りな場面は残っているが)。
どちらか片方の視点のみで観てはいけない。双方に正義があり戦う理由も様々だ。そこにヒーローはいない。

判別し辛いが、オーランド・ブルームやトム・ハーディも出演している。
「アイリーン」の合図、
ジミヘンじゃないスティーヴィー・レイ・ヴォーン(&ダブル・トラブル)の「ヴードゥー・チャイルド」が鳴り響く。

93年10月この戦闘で米兵18人が死亡、死体がモガディシュ市内を引き回される様子が全米にTV放映され、米国民に大きなショックを与えることとなる。クリントン大統領(当時)は米軍撤退を決断、国連平和維持軍も95
年に全面撤退し、ソマリア国内の混迷は続いていく。
2020年にトランプ前大統領がソマリアから約700人規模の米軍部隊を撤退させた。ワトソン報道官は、トランプ政権による撤退は「早計」だったと、批判的な考えを示した。
2022年5月バイデン現大統領がトランプ前政権の決定を覆し、米軍をソマリア再駐留へ。
ソマリアは、干ばつで何百万人もが緊急援助を必要としているなど今なお難題が山積みである。


『ハート・ロッカー』(2008)

監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェレミー・レナ―
背景:イラク戦争 イラク・バグダッド郊外他
米政権:ジョージ・W・ブッシュ大統領
イラク政権:サッダーム・フセイン大統領

第82回アカデミー賞 作品賞、監督賞(キャスリン・ビグロー)、
オリジナル脚本賞、編集賞、音響効果賞、録音賞受賞。

タイトルは米軍のスラングで「苦痛の極限地帯」、「棺桶」を意味する。(「Wikipedia」より)

「戦争は麻薬である」
イラク戦争中の2004年バグダッド郊外。
茹だる様な暑さ、滴る汗、息遣い、防護シールド越しの充血した目、埃っぽく乾いた画面が緊張感を異常なまでに高める。
息をするのを忘れるほどに魅入ってしまう。

常に死と隣り合わせ、ひとつのミスが命取りの爆弾処理という任務。
批判も称賛もなく爆弾処理班の任務遂行の日々をドキュメンタリータッチで描いていく。低予算が故なのか、粗くざらつき、揺れる画面が一層、呼吸困難に拍車をかける。
戦闘シーンは少ないが、過酷な環境下での兵士たちの言動、行動にリアリティを感じた。

自ら危険の中に身を投じる主人公。爆弾処理能力はプロフェッショナルだが、その行動は時に仲間を危険にさらしてしまう。
平和な日常に戻れても戦場の危険と緊張に刺激を求める「戦争中毒者」。
彼もまた戦争の被害者であろう。

ジェレミー・レナ―とアンソニー・マッキーは、のちにアベンジャーズ入りだ。
ガイ・ピアースやレイフ・ファインズを贅沢に使っている。

奇しくも第82回アカデミー賞は、元夫婦対決となった。
『ハート・ロッカー』は作品賞、監督賞含む9部門ノミネート、
ジェームズ・キャメロン監督作『アバター』も同じく作品賞、監督賞含む9部門ノミネートされたが、蓋を開けてみればキャスリン・ビグローの圧勝であった。
『ハート・ロッカー』は作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞、編集賞、音響効果賞、録音賞の6部門受賞。
『アバター』は撮影賞、美術賞、視覚効果賞の3部門のみ受賞となった。
さらにビグローは、史上初の女性によるアカデミー監督賞の受賞者になった。 

こちらも必見。
ビグロー監督作『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)(原題:Zero Dark Thirty)ウサーマ・ビン・ラーディンの殺害に至る経緯と、作戦に挑む特殊部隊を描いている。
タイトルは、米軍隊のスラングで「未明」を意味する。
ジェシカ・チャステインは第85回アカデミー賞主演女優賞ノミネート。
音響編集賞受賞。
「GotG」前のクリス・プラットも出ている。
「戦争映画」というより骨太なサスペンス映画だ。


『ローン・サバイバー』(2013)

監督:ピーター・バーグ
出演:マーク・ウォールバーグ
原作:『アフガン、たった一人の生還』(マーカス・ラトレルの手記、実際の生還者)
背景:アフガニスタン紛争 「レッド・ウィング作戦」
米政権:ジョージ・W・ブッシュ大統領
旧ターリバーン勢力:アフマド・シャー

第86回アカデミー賞 音響編集賞、録音賞受賞。
第19回放送映画批評家協会賞 アクション映画賞、アクション映画男優賞(マーク・ウォールバーグ)受賞。

ターリバーン指導者暗殺作戦「レッド・ウィング作戦」。
のちにネイビー・シールズ史上呼最大の悲劇と呼ばれる。
2005年アフガニスタン山岳地帯において作戦の偵察チームとしてネイビー・シールズ4名を派遣。
あるひとつの決断が「4人vs200人」に繋がり悲劇を生んでいく。
「正しいこと」の決断だったはず、「話し合って解決」は通用しない。

とにかく「痛い」映画だ。
山岳地帯の岩場から飛び降りる。銃弾の雨あられの中、被弾しながら何度も何度も飛び降りては岩に全身を打ち付け、それでも立ち止まってはいられない。
この難局からいかに「ローン・サバイバー」となったのか。


「いかなる代償が伴おうと敵から逃げる者を守り抜け」
2000年以上も続くパシュトゥーン族の掟。
これを知ることが出来ただけでも観た価値はあった。
 
ただ後日談を色々知ってしまうと、少し残念な気持ちになるが、
映画としては良作だ。

『マイル22』(2018)
こちらもおススメ。「戦争映画」ではないが。
監督:ピーター・バーグ 主演:マーク・ウォールバーグのWバーグコンビで『ローン・サバイバー』『バーニング・オーシャン』『パトリオット・デイ』に続き4作目。シリーズ化する構想を発表している。
因みに5作目は『スペンサー・コンフィデンシャル』(2020)

東南アジアを舞台に、CIA軍事機関「グラウンド・ブランチ」に所属する工作員たちの戦いを描くアクション・スリラー。空港までの22マイル、無事情報提供者を運べるか。イコ・ウワイス最高か!

                     (text by電気羊は夢を見た)



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