運を掴んだ者、夢破れた者のどちらも描く/ドラマ『拾われた男』
原作は俳優・松尾諭のエッセイ
失礼ながら、このドラマが話題になるまで、松尾諭さんがエッセイを連載していたなんて知らなかった。
松尾さんをいつ認識したか記憶を辿ってみると、『電車男』と『SP』シリーズだろうか。大好きな『最後から二番目の恋』では、長倉和平の勤め先・鎌倉市観光推進課の職員・田所として出演している。最近観たドラマだと、Amazonプライムで配信中の『日本をゆっくり走ってみたよ ~あの娘のために日本一周~』。濱田岳さん演じる主人公が、偶然フェリーで居合せる冴えない男・戸塚役。これが妙にハマっており、数話にしか出ていないのにインパクト大なので、機会があったらぜひ観てほしい。
松尾さんは、田口浩正さんとよく間違えられるらしい。「ちょっと体格のよいメガネの人」だからか。念のために言うと、テレ朝の『特捜9』には出演していない。
松尾さんのエッセイをドラマ化したNHKの『拾われた男 LOST MAN FOUND』が夏にBSプレミアムで放送され、この秋総合でも放送されている。すでに4話を視聴し終えた。
(以下、ドラマの内容を一部含みます)
主人公を演じるのは仲野太賀
「航空券を拾ったら人生開けちゃったなんて、実際そんな話あるの!?」
まずはそんな感想。これが実際あったのだから、人生何が起こるか分からないものである。松尾諭さん(ドラマの主人公・松戸諭)を演じるのは、仲野太賀くん。喋りからメガネ姿から、見れば見るほど松尾さんになってきて、今はもう松尾さんにしか見えない。
劇中の諭が役者を目指して転がり込んだのは、幼なじみの杉田のアパート。彼はモデルを目指して先に上京していた。すでに業界に染まった風で登場する杉田だが、本格的なモデル活動は皆無だった。大東駿介さんって、どうしてこういう役がしっくりくるのだろう。なかなか仕事がもらえず屈折していく杉田と、役者への道が開けずにいたところへ偶然が重なり道が開けていく諭。この業界、不思議な運や縁に導かれて表舞台に立つ人も多いのだろうなと、改めて感じさせられる。その裏で、杉田のように夢破れて去っていく者。きっと何千人、何万人もの杉田がいるのだ。
とにかくキャストが凄いのだ
上京後の物語は、諭の日常であるバイト先のレンタルショップと所属先の事務所(もともとモデル事務所だったのか!)の仕事を中心に展開する。松尾さんが、当時「癒し系」として大人気だった井川遥さんの付き人をしていたのも、このドラマで初めて知った。
役者のほぼ実話ということで、キャスティングが豪華である。松尾さんと井川さんはもちろん、本人役で柄本明さんをはじめとする東京乾電池の方々や、有村架純さん、塚本晋也監督などが出演。他にも、バイト仲間に安藤玉恵さんや要潤さん、北香那さん(『バイプレイヤーズ』のジャスミンちゃんが、NHKのドラマや大河でも活躍するようになって感涙)、前田旺志郎さん、伊藤沙莉さん、事務所の面々に薬師丸ひろ子さんや鈴木杏さん、北村有起哉さん、さらに伊勢志摩さんまで登場するとは。極めつけは、諭の兄・武志を草彅剛さんが演じることだ。前半、彼の出番は少ないのだが、すでに全話視聴済みの人の話ではこれからが見どころらしい。
夢が叶う者と破れる者。どこにわかれ道があるのだろう
幾度ものオーディション落選、合格して得たチョイ役。これは諭の物語ではあるけれど、破れ去っていく者たちも同時に描かれている。誰かが脚光を浴びるということは、誰かがその陰になるということ。また脚光を浴びるがゆえの苦悩も、井川さんを通して描かれている。
第4話では運命の人・比嘉ちゃんとの恋の修羅場がやって来た。いつも「友達」止まりの諭が、自然の流れで比嘉ちゃんと惹かれあっていく。しかしそこには、ある障害が立ちはだかる。伊藤沙莉さん演じる比嘉ちゃんの言葉に泣き、バイトの先輩・山下(安藤玉恵さん)のかっこ良さにうるうるした。そして、長年映画監督になる夢を追ってきた塚本(要潤さん)の決断。諦めや挫折が負けとは限らない。塚本に幸あれ。ドラマの登場人物に言いながら、自分自身にも言ってたりする。
ドラマはそろそろ折り返し。兄・武志のことも気になるので、はやく続きが観たい。