一瞬にして幸せを奪う憎き戦争/NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』
ヒロインのジェットコースター人生に必死でついていっているのだが、描き方はまったく「雑」ではない。むしろ、一人ひとりの心情が丁寧に描かれていることに驚く。
(以下、ドラマの内容を含みます)
今週のNHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』は、稔、勇の出征から安子の出産、空襲、家族喪失、終戦、……と、目まぐるしい展開だ。この数日は、安子の父・金太役の甲本雅裕さんの演技に持っていかれた人も多いだろう。
布団をかぶってむせび泣く丸い背中、心ここにあらずの表情で宙をさまよう視線、たちばなの焼け跡でこっそり取っておいた砂糖の缶を胸に抱く様。再び菓子をつくる気になった金太の「菓子は苦しいときこそ必要なもの」という思い。そうだよ、私にとっては「苦しいときこそエンタメ!」(涙)。「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」と小豆に話しかける職人としての顔。それから、父としての切なる願いと後悔。甲本さんが、すべてを受け止めて演じ切ってくれた。
一瞬「ああ、算太まで……。そうか、これは夢か幻なのか」と思ったら、もっと鬼展開だった(号泣)。金太が病み上がりの細い身体(いつの間に、こんなにやつれた?)で「たちばな」の場所に建てた掘っ立て小屋で寝泊まりしたのは、算太を待っていたから。視聴者全員、鈴木アナ同様ですよ(号泣)。さすがの朝ドラ受けも笑えないよと思ったら、本家「まぼろし~~!!」でオチをつけるとは。まさかドラマの展開にあわせて、IKKOさんをキャスティングしたわけじゃないよね。
すさまじい一週間だ。まだ明日を残しているのが、余計に不安を煽る。稔さん、無事に帰ってきて……。
甲本さんといえば、テレビでは2時間ドラマや刑事ものでよくお見かけする役者さん。私の中では『遺留捜査』シリーズの京都府警科捜研(別番組ではマリコさんがいるところ)の村木が定番になりつつあるのだが、NHKの『大江戸もののけ物語』で演じた主人公の父役もとても良くて。こちらも、子を想う父として登場する。決して比べているわけではないけれど、今週の金太は、『エール』で吉岡秀隆さんが登場した回を彷彿とさせる圧巻のシーンの連続だった。
やさしかった安子の実家の人々はいなくなってしまった。「この時代に、こんなに寛容で子にやさしい商売人はいただろうか」と不思議に思っていたが、今週の展開との対比のためにそんな風に描いたのではないかと、今さらながら震える。
ダメ、戦争。絶対に。
もう一度言っておこう。
ダメ、戦争。絶対に。
ドラマでは、終戦からわずか百日で百貨店が再開され、人々にとって希望の光となったことが語られた。5年前のことがよみがえる。地震から1ヵ月半後に百貨店が全館営業再開したとき、うれしかったもの。同じく1ヵ月半後にシンボルの城が再びライトアップされたとき、数ヵ月後にマルキンの納豆や五木食品の麺類が全種類店頭に並んだとき、お菓子の香梅の菓子販売が一部だけでも再開されたとき、全部全部うれしかったもの。
普段は必要ないと思われているかもしれないけれど、心を潤し支えるものを絶えさせてはいけないのだと、深く感じた。
「またね」という会話が最後になることは、誰にでも起こり得ること。それは疫病に支配された今の世界でも。みんな、生きながらえようぞ。
明日どうなってるのー、カムカム。観たいような観たくないような。そんな、ため息交じりの夜だ。なのに、2022年度後期朝ドラヒロインの発表が! まいんちゃんじゃないか!! いやもうとりあえず、カムカムで今はいっぱい、いっぱいです(笑)。