百舌彦のファインプレーに涙する/大河ドラマ『光る君へ』第40回~42回
「不実の罪は、必ず己に返ってくるものでありますゆえ」(第40回での道長)
その場にいた藤式部(まひろ)は、「それ、君が言うの……」と言いたげな顔をしていた。おそらく視聴者の多くが、おもに石山寺でのことなどを思い返して、まひろの表情に賛同したよね。
(以下、ドラマの内容を含みます)
惟規が亡くなって、まひろの家はどうなってしまうのか心配だったが、まひろと賢子の関係が穏やかになり、賢子に双寿丸という気になる相手ができたことで屋敷の雰囲気が一変。「怒るのは嫌い」と語る娘に、道長の血が流れていることをまひろは再認識する。彼女は娘が誰を好きになろうとそれで良いと思っているようだし(そもそも人のことは言えない……笑)、賢子も身分など気にしない性分だ。乙丸を連れてあちこちへ出ていく姿は、かつてのまひろそのもの。ただ、乙丸はずいぶんと老いた。よく考えたら、彼はもう30年以上仕えていることになる。
ここ数回の物語を観ていると、三条天皇はかなりの策士と見てとれる。長い間待たされていたんだもの、いろいろ策を練ってくるのは当然だ。事あるごとに、道長の痛いところを突いてくる。明子の過剰な期待にも道長は頭を悩ませているが、そこも調査済みだったのかも。劇中では、息子が突然の出家をしたのは道長のせいだと彼女は怒りに震えるが、その凄まじい情念、土御門への執拗な対抗心がなければ、こんなことにはならなかった。
三条天皇との対立は、道長の気力と体力を相当摩耗させているように感じる。
第41回では、「なぜ強引に敦成親王を東宮にしたのか?」とまひろが疑問を投げかけてきた。
「お前との約束を守るため」
またもまひろは、「それ重いんだけど……」とでも言いたげな微妙な表情。道長もことばでは「約束」を強調して言ったけれど、第42回の川辺での会話では「誰のことも信じられぬ、己のことも」と嘆いている。マイペースに生きてきた三男坊の三郎(道長)にとって、本当にまひろとの約束のために政治と向き合ってきたのに、気づいたら大きな権力を持ち、子どもや孫を政治の道具に使った父・兼家と同じこと、それ以上のことをしているのだから。あの行成でさえも、近ごろは道長にたびたび苦言を呈している。
一方で、道長はまひろに残酷なことをサラリと言っている。彰子と一条天皇のために書かせた源氏物語も、今は何の役にも立たないと。彰子が立派な皇太后となり、まひろは自分が物語を書く意味を見出せない。そんな母親を、「書かない母上は母上ではないみたい」と賢子。彼女は母をよく観察している。きっと子どもの頃から母親と距離を置き、気を遣ってきたからだろう。
病が重くなった道長の様子を見て、長年仕えてきた百舌彦がまひろの家に走る。道長、いや三郎にとって何がいちばん薬になるかを十分理解していて泣ける。だって、ずっとずーーっと乙丸と一緒にふたりを見守ってきたんだもの。もーずーひーこーーー(泣)。
彼はことば少なに事情を説明し、後は表情だけで「時を急ぐ」ことを告げるのだった。本多力さんの表情がすごくて(語彙力無し!)、一瞬で「あ、これヤバいやつなんだ」とまひろは察知したはずだ。宇治の別邸で、目の前に見えるまひろを「夢か?」と疑う表情から、「これ、現実―――――!」と理解するまでの道長@佑もすごい。当時、まひろの家から宇治はどれぐらいの距離だったのだろう。紫式部の邸宅跡は、現在の廬山寺と言われている。昔、姉との京都旅で廬山寺と宇治の源氏物語ミュージアムを訪れたことがあるが、方向音痴なのでどれぐらい時間がかかったか全然思い出せない。道長の別邸って、今の平等院鳳凰堂のことだろうか。
かつて出会ったのも川辺。あの扇に描かれたシーンだ。今回も、川辺のふたりは印象的だった。
「私との約束はお忘れくださいませ」
「忘れれば、俺の命は終わる」
「私も、もう終えてもいいと思っていました。この世に私の役目はもうありません。この川でふたり流されてみません?」
「お前は俺より先に死んではならん。死ぬな」
これは何回目のプロポーズだろうか。
「ならば、道長さまも生きてくださいませ。生きておられれば、私も生きられます」
まひろが「生きるも死ぬも一緒」とプロポーズの返事をしたぞ。
道長の孤独を埋めることができるのは、結局まひろしかいない。道長が、瞬く間に三郎に戻って咽び泣く。たーすーくーー(泣)。ふたりの長い年月を思い返して、私も泣いた。
「約束」を解かれた三郎。でも、再び道長となって政治の舞台へ上がる……のだよね? だって、この後まだ三条天皇とやり合って、いろいろあるんだよね? そしてまひろは、この宇治の一件で(劇中では)創作意欲を取り戻し、光源氏亡き後の物語を書きはじめる。毎度のことながら、ストーリーが源氏物語とリンクする流れが最高。
まひろと三郎は、この先手をつなぐことも抱き合うこともないのだろうけど、心はずっとそばにあって、静かに命を照らし合うのだなあ。倫子はたぶん気づいている。だけど賢子のことは気づいていないと思う。三郎も。終わりが近づいてきたこともあり、彼らが賢子の件を知ることになるのか気になっている。