台詞大渋滞でもちゃんと笑えて泣けて、最後はサザンと踊ってた/ドラマ『新宿野戦病院』最終回
始まった当初は、情報量が多すぎて「だめだ、頭がパッツンパッツンになる! キャパオーバー!」とうなだれそうになったけれど、終わってみればクドカンなりの現代社会への皮肉と愛情、命に対する考えが伝わってくる物語だった。
時事ネタから名作オマージュまで、小ネタを散りばめた雑多なびっくり箱。重いテーマを軽やかに飛び越えて、コミカルに分かりやすく物語に落とし込む。この伝え方に、何度救われただろうか。夢を叶えられなかった母とその娘、そして最後に震災を描いた『あまちゃん』。誰の家でもあり得る介護と死を、愛すべきキャラクターたちによって見事に昇華させた『俺の家の話』。ジェネレーションギャップも何のその。もっと寛容になれたら幸せじゃんと語りかける『不適切にもほどがある!』。新宿歌舞伎町の赤ひげ親子のストーリーも、笑い転げながら重い問題提起がどんどん脳内に流れ込んできた。楽しいけど考えさせられるドラマだった。
目の前の命を救うことだけを考えるヨウコ。助けられるのに黙って見ているなんてできない彼女は、いつかこういうときが来ることも想定しつつ、取りこぼされそうな多くの命を助けてきた。自分の過去をチクッた人物にも寛容である。命さえ救えればヨウコは満足なのだ。医師免許を剥奪されるのだって厭わない。その覚悟で患者と向き合っていられる彼女の強さと危うさ。それを、「人間の業」と冷静に見つめる亨の成長。まあそれでも、亨院長が一番カウンセリングを利用している風だけど(笑)。相変わらず、ポンコツぶりを発揮して終わったのはよかった。
第10話と最終回で再び疫病がまん延する未来を描き、私たちが経験したあんなことやこんなことについて言いたいことを代弁。クドカン自身の経験から感じたことが大きく反映しているのだろうなあ。思考停止、人間がいちばんこわい……。SNSの怖さや不気味さには、今もたくさん遭遇する。「悪いのはイー〇ンマスク」って言っちゃったよ(笑)。
雑だけど命に真正面から向き合うヨウコに、ふだんはだらしない面ばかりクローズアップされる聖まごころ病院のメンツが加わり、次第に一致団結し始める。こうした描き方は医療ドラマでは定番中の定番なのに、「またか」と思わせない。一人ひとりのキャラが確立されていて、全員愛しい。特に、塚っちゃんが演じた堀井しのぶ。全力で「ぺヤングを食べた犯人」に怒りをぶちまける、最終回のしのぶさんも好き。後半になるにつれて、存在感が増し増しになった啓介院長も好き。ああ、そして「ヨウコ!」「ねえさん!」のやり取りには、不覚にも泣いてしまったよ白いねえさん(涙)。ワチャワチャガヤガヤやっている間に、家族のこともきっちり描いているんだもんなあ。
約3ヵ月、もんげー楽しかった! 今年は充実したクドカンイヤーだったね。これで終わっちゃうのが、もんげー寂しい!!
いや、締めくくるのはまだ早い。今月21日(土)には、脚本を手がけた『終りに見た街』の放送が控えている。現代から戦時中にタイムスリップしてしまった家族の話。クドカンは、洋ちゃん主演で山田太一さんの世界をどんな風に見せるのか。