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松尾諭にしか見えない仲野太賀と、自然過ぎる草彅剛/ドラマ『拾われた男』最終回

続々と新ドラマが始まっているけれど、今日は、年末に諸事情で書けないままだったNHKのドラマ『拾われた男』最終回について。

(以下、ドラマの内容を含みます)

1ヵ月も前に視聴したのに、草彅くん演じる兄・武志が「ごめん。ごめんなさい、ごめんなさい……」と、子どもみたいに何度も両親に謝るシーンがよみがえってくる。その後しばらくして訪れた、あっけない別れ。そのことを伝えるために、父親(風間杜夫さん)が諭に電話してくるシーンも、静かながら印象深い。

このドラマ全体の前半は、松尾諭さんが俳優として知られるようになるまでの青春編とも言うべき内容だった。一方、後半はアメリカに渡ったきりの武志との関係に焦点をあてたシリアスな展開。主人公がチェンジしたかのように、後半は武志メインで話が進んだ。

昨夏BSで放送された際に視聴した人たちからは、「前半と後半は違うドラマみたいだった」と聞いていたので、心構えはしていた。諭と武志、演じている仲野くんと草彅くんは雰囲気がまるで異なるのに、もう兄弟にしか見えなくて。後で考えると、ちょっと魔法にかかっていた気分である。

武志が脳卒中で倒れたという連絡が、アメリカから諭の事務所に入ったところから、ドラマの雰囲気がガラリと変わる。このシチュエーションが、脳出血で倒れた自分の兄と重なって。もっとも、私が直接お兄ちゃんに会えたのは、片麻痺ながら歩けるようになった8ヵ月後であって、ベッドに横たわった状態、あるいは体が一向に動かない状態の彼を見たわけではない。武志は体が思うように動かず、諭に向かって片手をあげるのがやっと。諭の「兄は臭かった」という台詞によってリアルさが増し、見ていて辛かった。そんな武志を違和感なく演じる草彅くん。私個人、彼にはもともと儚さが漂っているように感じていて、それがこの後半の武志を、よりリアルにさせたのではないかと思った。

回想シーンから察するに、諭にとって、武志は子供の頃からちょっととっつきにくい存在であり、いつも先を歩いているような追いつかないイメージだったのかもしれない。しかし兄は、弟本人にこそ言わずともしっかり諭のことを理解していて、その性格や東京で頑張っていることを羨ましく、誇らしく思っていたのだ。幼少期の母親の冗談が気になって、弟にスペシウム光線を仕向けていたこと。他人なら飛び越えられるのに、家族だから飛び越えられない壁があったりする。家族間の居心地の悪さを経験したことがある人は、こういう兄弟の関係性は“あるある”なのではないだろうか。

武志の弟への思いは、渡米前に野本の店に立ち寄って語っていただけで、諭はまったく知らないこと。だが野本の死によって、諭にその話が伝わる。まさか、彼女が病と闘いながら暮らしていたなんて。あのちゃらんぽらんだった杉田が、結婚後ずっと彼女を支えていたんだと思うと、落涙してしまった。

兄の本心を知った諭が、ようやくはっきりと彼の死を自覚するシーンもまた、胸が締めつけられる。まだ子供の諭が「兄ちゃん、待って!」と言いながら、武志を追いかけていくシーンは、これまでにも登場していた。諭からは見えなくなった武志だけど、彼は弟を見失わずにいてくれた。諭は、武志が戻ってきて助けてくれたことを思い出す。これが本当なのかはわからない。幻想なのかもしれない。でも諭にとっては、どちらでもよかったのだと思う。ここから彼の感情がむき出しになっていく。仲野くんの泣きの演技には、これまで何度も心を揺さぶられてきたが、今回も胸を打たれた。

兄弟のコントラストと太巻きの思い出と、息子を失ったその後の両親。風間杜夫さんと石野真子さんの両親コンビが、これまた素晴らしかった。

草彅くん、この冬は民放ドラマに復活ということで、益々の活躍が期待される。大河ドラマで徳川慶喜を演じたときも感じたが、どんな役もするりと自然にこなしてしまう。家族の知らないアメリカでの武志、帰国後の武志。本当に見事だった。

そして、次から本物の松尾さんを見たときに平常心で見られるかな?(笑)という不安が残るほど、仲野くんの諭も素晴らしかった。またいろいろな映像で、彼の演技を楽しみたい。

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ぶんぶんどー
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