本屋さんに住みたい
この前、ちくま文庫から出ている『あしたから出版社』を背表紙タイトル買いして読んだ。
夏葉社という1人出版社を経営されている島田潤一郎氏の描いた本で、エッセイのようであるが、御本人が小説家を目指していたからか、これはほぼ小説的だなぁと思いながら読んだ。
出版社、古書絡みの本はよく読むので、夏葉社も名前だけは識っていたが、どのような本を出版しているのかは全く識らなかった。
この本では、著者がどのような思いで出版社を立ち上げて、本を作り始めたのかそのあらましが書かれているが、特に大きくフィーチャーされているのが、初めての出版物である『レンブラントの帽子』、そして、出版社を創ることに至った『さよならのあとで』であるが、どちらの本も、装丁が美しい。
『さよならのあとで』は創作秘話も興味深い。この本を創る上で、島田氏は極限まで表現を削ぎ落とし、本を白くしていった。
本は、情報伝達媒体であるので、情報を詰め込むのが好きな人もいる。削ぎ落とし、削ぎ落とす、というのは、大変に勇気のいることだが、この本の製作理由、そして届けるべき人のことを考えた時、それ以外の答えはないのかもしれない。
私が特に惹かれたのは、『レンブラントの帽子』で、これは人間感情の機微を描いた傑作短編なのだという。早速ポチったので、届くのが楽しみであるが、私が不勉強で、この本の著者、バーナード・マラマッドのことは識らなかった。
本屋さんに赴くと、文学のコーナーによく足を運ぶ。そこで、様々な本を見ながら、時に手を取り、そしてパラパラ捲ると仄かに香るインクの匂いに腰砕けになりながら、新しい知識として、世の中にはこんな本があるんだ、こんな人はいて、こんな考え方をしている、乃至はしていたんだと、そのように一つの感動に到達することがある。
本屋に行くたびに、意識が新しくなる。認識が改められる。自分が無知なのに気付かされる。
私は商業的な本には批判的な立場であるが、それもまた無知の為せる業で、本当にはその裏側で、多くの人が様々な思いを巡らしながら本を作っているはずだ。
だから、批判することに対しても責任は発生し、リスペクトは持たなくてはならない。私には、彼らのように本を編むことは出来ないのだから。
それは、汎ゆる物象において同様なわけだが、すぐにそのことを忘れてしまう。これはいけないことであるので、反省頻りである……。
さて、島田潤一郎氏の潤一郎は、日本で潤一郎と言えば谷崎潤一郎であるように、御両親が谷崎から取ったとのことらしいのだが、文学を読み漁りまくったこともあるのだろか、たくさんの本を文章内で紹介してくれている。
この本を読むと、本屋に行きたくなるし、本を買いたくなる。
そのような思いを抱かせるだけで、トクベツな編集者なのだろう。
さらっと読める本なので、オススメです。
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