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書店パトロール71 探求は終わらない

書店を徘徊していると、今までそこに存在していたのに、その日、改めて眼につく本、というものに出会うことが多々ある。

まずはこの4,950円もする、リチャード・フラナガンの小説の新装版。
4,950円!然し、けれども、なんとも上質なこの本、イギリスの画家、ウィリアム・ビューロー・グールドの物語で、この画家は、犯罪画家である。

素行の悪い(まぁ、悪すぎる)、酒乱の画家、などは、これはもう、小説の題材にはうってつけの存在だ。
マジックリアリズム小説、とのことで、私も読んでみたいが、然し、かなり体力を要すること請け合いなので、今は見送りだ。

なんたる精密な絵
静物画って実力が出るよね。

それから、『紫禁城の至宝を救え: 日中戦争惨禍から美術品を守った学芸員たち』。

紫禁城、もう、私は、このワードだけでワクワクするけれども、時代の変革期、宮中や貴族などの持つお宝は、常に次の為政者や権力者の手に、若しくは、そのドサクサに紛れて闇へと消えてしまう。消えてしまったお宝は、もう二度と浮上することがないかもしれないのだ。

そう、今、クロロ・ルシルフルが、カキンの王国の三種の神器を盗もうとしているが、お宝、は入手難易度が高いほうが燃えるのだ(話が変わっている)。

私も今、狙っているお宝があるが、実に入手が難しい。お宝には、難易度があり、まずは、

①価格
②希少性
③所有者
④認知度
⑤作者の手が触れているか(実際の創作物或いは署名など)

で大きく変わってくる。

カキン3種の神器。これを盗んで能力のレベルアップを図る。国宝なので無理ゲー。

例えば、古書、でいうと、①は、それこそ、数千円から数千万円まであるだろう。例えば、谷崎潤一郎の『春琴抄』の初版本、これは、黒漆塗り装、朱色漆塗り装丁があるが、黒は状態にもよるが、1万円〜3万円前後が相場だろう。かなり数が出ているので、ネットで探せば金さえ出せばすぐに入手できる。ただ、その中でも、ちつがついているか、などで、付加価値も存在するし、完本、美本主義のため、そういった条件でで、数千円変動する。
朱色版は②が関わってくる。朱は、黒に対して、10分の1以下の存在なので(始めは谷崎は朱色装丁をメインとしたかったが、漆の乗りが悪く、数は極めて少なくなった)、相場はぐっと上がり、10万〜20万円くらいだろう。なので、②は①を引き上げて、一層入手を難しくする。

③は、より希少、つまりは数が極めて少なく、珍であり、コレクターが持っていて放出しないために日の目を見ない(死ぬまで待たないといけない)、もしくは、公共の機関が管理している、などがあり、入手難度がぐっと上がる。金の問題でなくなるため、一番厄介である。

④は、どれだけの認知度があるかで、②そのものの価格がぐっと上がり、かつ、③公共性の高い門外不出の場に収められる可能性が高くなる。
逆に言えば、④にかかわらない場合、つまりは、大抵の人から重要と思われていない場合、マイノリティだけの評価の場合、③コレクター問題などがあるが、比較的入手しやすく、マイノリティ向けのものは、数が少ないので、②においての極めて珍、という問題が存在する。つまりは、出会えない。

で、⑤は、これはまぁ、結構高くなるが、署名本は有名作家ほど入手しやすい。有名作家はサインを頼まれることが多いため、三島と川端、谷崎は作品さえ選ばなければすぐに手に入る。特定作品などを選ぶと何度がグッと上がるが。そして、原稿や書簡となると話は変わる。①の桁が代わり数十万、さらに②の希少性も一点物なのでめちゃくちゃ高くなる。

原稿、書簡などは、安いものならば数万円、高いものは数百万〜数千万円する。書簡は、欧米では一級の資料とされていて、秘匿性が高いため、作家自身の人となりや性格、抱えていた問題、人間関係、作品の秘話などが詳らかにされる場合が高く、研究には欠かせない。かつ、誰宛なのかが問題で、それが単なる編集者や知り合いならば安いが、その作家の作品や人生の肝となる人物の場合、それは値段がウルトラに跳ね上がるが、基本的には洗いざらいコレクターか研究者、公共機関に渡っていると考えて間違いないだろう。新発見の原稿、書簡を入手するのは相当に運がいいか、作家周辺にいなければ難しいため、これも難しいだろう。
ただ、原稿、書簡、或いは署名本、こういったものは、その作家が触れているアウラに人は魅力を感じて大枚を叩く。

古書鑑定家の反町茂雄は、古書の中で最も尊いものは、自筆本、すなわち、原稿、書簡類の類であり、既に残されていない『源氏物語』の自筆原稿があればそれを超える尊いものはない、と、汎ゆる種類の書物、稀覯本の類を持ってしても、異論はあるだろうが、間違いなくそれが一番に尊いという旨を書いている。
稀覯本、この世に数冊しかない本、でも、自筆本には敵わない、まぁ、この意見は、全く正しいと思うが、本、という媒体にこそ価値の重きを置く人は、稀覯本でありかつ完本、などにこそ、価値を抱くのかもしれない。
つまりは、もう世の中に数冊しか残っていない、かつ重要な芸術文芸作品の初版本などである。

さて、で、『春琴抄』は黒漆&朱漆のセットで桐箱入り花柳章太郎宛献呈署名本が激烈に高くて、時代により価格は変動しているが、大抵数百万円で取引されている。

①②③④⑤、全ての難度がSランクのウルトラな難物で、これはまぁ、とんでもないお宝なのだろう。然し、高価な分、手放す人も多い、ということだろうか、よく話題に上がっている。

で、古書は、一時期、特装版、限定版が流行し、それはそもそも数が絞られているので、比較的高い。高いが、然し、けれども、一番はやはり初期作品の初版本で、有名なのは中原中也の詩集『山羊の歌』、これは100部しか存在しないが、まぁ自費出版で、今は大体安くて50万円、高ければ100万円を超える。
他には、宮沢賢治の『心象スケッチ 春と修羅』、『注文の多い料理店』の2冊、これも自費出版で、刊行時は売れ残った。どちらも100万円ランクの本だが、『春と修羅』は現存冊数が30部ほどしかないらしい。だが、『注文の多い料理店』の方が珍だろう。
今、試しに日本の古本屋調べると、160万円しました。
賢治の場合は、熱心な信者がいるため、価格が高いのもある。同様に現存数が30冊を切っていても、数万円で買えるものもあるだろう。

三島由紀夫の、『魔群の通過』、という書物があるが、これは、まぁ、初版本は5万〜10万円くらいする、するのだが、これは帯、が重要で、帯があると、さらに倍以上、20万〜30万円とか、場合によってはそれ以上する。
帯はカバー以上に捨てる人が多いため、極めて珍、になるのである。


まぁ、私が今狙っているものは、古書ではないが、①はそこそこ、②と③が激烈に高く、④はほぼ皆無、⑤はある意味では関わっている、という、希少性とコレクターが関わっているものだ。死ぬまでにこの眼で見ることが出来れば……と、いう感じ。

そういえば、アート、とかでも、上記の中で、④は低いけどいい画家さんはたくさんいて、そういうのは目利きの人が買っていて、既に高価だ。

渡邊榮一の絵とかすごい好きなのだが、なかなか巡り合わせが……。


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